第163話 空飛ぶ幼女
ドローン競技「お宝ゲットだヤフー!」については、私は一切関わっていない。
だが、ドローン競技大会それ自体を立案し、積極的に推したのは私である。
さらにさらに、リーコス村司令部(兼村長宅)の地下に、新兵装開発室を設置したのも私だ。
この開発室には、現在は潤沢なフワデラの予算以外に、私がFuwaTubeの配信で稼いでいるお小遣いまで投入中だ。
ちなみに、フワーデ・フォーを強制卒業させられた私は『チャンネル幼女艦長』を開設している。
そこで始めた企画『艦長の家族に乾杯』が結構なPV数を稼ぎ出しているのだ。
内容は、私がアシハブア王国の人々と触れ合いながら、その土地の名物を食べたり飲んだりするというもの。
職務上、あちこちに出向くことが多いので、逆にそれを活かした企画である。
視聴者数の方も『ゆきな☆わんこちゃんねる』には遠く及ばないものの、順調に伸び続けている。
新兵装開発室には、私と覆面姿の四人が額を突き合わせるように立っていた。
軽く咳ばらいをした私が厳かに告げる。
「よくぞ集まってくれた我が精鋭たちよ! 本日は諸君がアレを完成させたと聞いてやってきたのだが……なんか一人多くないか?」
この新兵装開発室、実質的には、前に電動バイクを開発してくれた航空整備科の三人のために用意されたもの。
いつの間にか覆面がもう一人増えている?
「というか、この開発室が出来た以上、堂々と開発していいんだから、もう覆面は不要じゃないか」
「「「「!?」」」」
私の言葉に、四人の覆面が一斉に動揺する。
慌てて外された覆面の下から現れたのは航空整備科の三人と、どこか見覚えのある金髪の優男だった。
「お久しぶりです、タカツ様。イザラス村のカラデアです」
イザラス村という言葉を聞いて、ようやく彼のことを思い出すことができた。
北方の古代神殿から採掘される魔鉱石を、護衛艦フワデラに卸してくれているイザラス村。
そこで魔導士をしている人物で、初めてイザラス村を訪れた際には彼の家にやっかいになったことがある。
「イザラス村からも乗組員への応募採用者がいたと聞いてはいたけど、カラデアさんだったのですね」
「妖異と戦う皆様に、私も何かお役に立てればと思いまして」
基本的に、新規乗組員(見習い)は、リーコス村の白狼族、グレイベア村の魔族が中心である。
人族についてはグレイベア村の住人でシンイチが推薦する者に限られている。
だが例外として、北方のイザラス村とアシハブア王国西方にあるネフューネ村から数名が採用されている。
その例外の一人がカラデアということだ。
覆面を取った航空整備士の一人、泉亜紀少尉が、カラデアを新兵装開発室に引き込んだ理由を説明してくれた。
「カラデアさんは、魔導士としての知識と経験が、また魔鉱石の加工技術をお持ちです。新兵装の開発にあたって、この世界の魔法技術を取り入れるためにも、必要となる人材ということで採用しました」
「なるほど。もしかして、今日のアレにも魔法技術が使われていたりする?」
「使われております!」
泉少尉のドヤ顔の返答に、他の二人の航空整備士も同意するようにコクコクと頷いていた。
「とりあえずアレを見せて貰おうか」
「「「了!」」」
「りょ、りょう!」
三人の航空整備士の敬礼に遅れて、慌ててカラデアも敬礼する。
「では海岸の方へ! アレは桟橋にご用意しております!」
~ リーコス村桟橋 ~
「えっ!? 思っていたのと違うんだけど?」
桟橋についた私は、泉少尉が指し示すソレを見て、思わずそんな声を上げてしまった。
「えっと、艦長のご要望は空を飛んでみたいというものでしたよね?」
「そうだよ。こう空中に浮かぶバイクとか車とか、なんなら魔法の箒スタイルでもよかったが……」
泉少尉の前には、大きなガスタービンを背中に付けたジェットスーツが置かれている。そのスーツの左右の腕部分にはさらにガスタービンが2個ずつつ用意されていた。
「これはちょっと……艦長が思ってたのとはちょっと違うかなぁ……」
私は天を仰ぎつつ、目を閉じて今回の発注ミスが起こった原因を考える。
その1.
艦長「折角、異世界に来たことだし、やっぱ空とか飛びたいよね? (帝国の)アニメみたいにさ!」
その2.プロジェクトリーダの理解
泉少尉「(マーベル)アニメみたいに飛ぶ!?」
その3.実装された運用
「ジェットスーツ!」
その4.
「ホバーバイクみたいなの」
私の内心の葛藤を一切無視して、泉少尉がジェットスーツについて熱弁する。
「艦長のご要望にお応えできたものと確信しております! 空を飛ぶならジェットスーツですよ!」
「えっと、どちらかというと、艦長、空中バイクみたいなのをイメージしてたんだけど……」
困惑する私を一切無視して、泉少尉が私の身体にジェットスーツを装着し始める。
「何言ってるんです! バイクなんかよりずっと自由自在に空を飛べるのがジェットスーツですよ! 空を自由に飛びたいな! ハイ、ジェットスーツ!」
「そ、そうかもしれんが……安全面とか大丈夫なの?」
泉のジェットスーツに対するあまりの熱の入れ具合に、私はかなりの不安を抱き始めていた。
「大丈夫です! 落ちたとしてもこの先は海ですから!」
「えっ!? そんなノリ!? 超不安になってきたよ!?」
泉以外の三人に目を向けると、彼らは一斉に目を背けた。
「おいぃぃ! ほ、本当に大丈夫なのか!?」
「はい。大丈夫です! 姿勢制御は全部AIがやってくれますから、艦長は進みたい方向に両手のジェットを傾けるだけです。さぁ行きますよぉぉ!」
ちょっと待って! そんな適当な説明だけで、いきなり飛ぶのか!?
「はい。飛びますよ! 3、2、1」
泉少尉は一切の躊躇なくカウントダウンを始めた。
ピピピピッ!
何かが始まってしまいそうな電子音が響く。
ブォォォォ!
両手と背中から轟音が鳴り響く。
ちょちょちょちょぉぉぉぉ!
「ゴー!」
泉少尉の声と同時に、私は桟橋から飛び立った。
「ちょぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ」
この流れ的に、絶対、大空に弧を描いて海にドボンと行くものと思っていたが……。
「ちゃ、ちゃんと飛んでる!? 空を飛んでるぞぉぉ!」
海面から2メートルくらいの高さを保ちつつ、私は前後左右を自由自在に移動する。
空って言う程、高くはないけれど――
幼女が空を飛んだ。
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