心霊スポットには気をつけて

高校2年の7月の夏休み。

夏といえば怪談のイメージがあるが、彩葉のクラスでは空前絶後の怪談ブームでクラスメイト達は夏休みになったら県内の心霊スポットに肝試しに行くと話していた。

愛琉も結構ノリノリだったが、彩葉は肝試しは霊を侮辱する行為と考えているので一切興味がない。


彩葉は夏休みはバイトに励む予定でいたので「私は怪談とか心スポは苦手だから」と予め断っておいたので誘われることはなかったが、愛琉がしつこく誘ってきそうで怖いと思っていた。


世間はまだ木曜の平日だが高校生は夏休みのバカンスタイム、彩葉は暑い中バイク屋のバイトをしていた、夕方になり仕事がある程度終わると剛が彩葉の元へやってきた。


「よぉーし!彩葉ちゃん?今日の仕事はこれで終わりにすっぺ!この暑さだしよぉ…俺はもうクタクタだわ」


剛がそう言うと「はい、わかりました!」と彩葉が返事をすると、今日は仕事が休みの京香がクッキーとアイスティを持ってきてくれた。


「2人共、お疲れ様!今日も暑いでしょう?クッキーとアイスティ持ってきたから、クーラーの効いたところでひと休みして。あっ、父さんはコーラの方がよかった??」


京香がそう言うと「いや、コレでいいよ」と剛は言いながらアイスティをゴクゴク飲み始めた。

彩葉もクーラーの効いた事務スペースの椅子に座ってアイスティを飲んでいると、店の外から4発の中型バイクの音が近づいてきて店の外に停まった。

この音は…もう何度も聞かされているのですぐわかる、愛琉のヨンフォアの音だ。


「こんにちはー!今日はもう終わりですかー?」


愛琉は店に入ってくるなりそう言うと「おう、愛琉ちゃんか!今日は終わりだぞ」と剛が言った。

京香が愛琉の分のクッキーとアイスティも用意してきてくれたので、愛琉はありがたく頂くことにした。


「アタシの分までありがとうございます!…ところで、今日の夜に佐白山に行こうと思うんですけど剛さんって行ったことあります?」


愛琉がそう言うと剛の表情が少し変わり、今にも怪談話がスタートしそうな雰囲気になった。


「佐白山かぁ…そういや若い頃に啓司の奴と行ったことあるなぁ…アソコは行くもんじゃねぇよ、昔は車で佐白山の狭い道を入って行けたんだが現在は通行止めになってるって聞いたぜ…わりぃことは言わねぇ、行くのは辞めときな」


剛は真面目な表情で愛琉に言うと「そんなにやばいんですか?」と愛琉が聞き返すと、剛は縦に首を振ると一瞬だけ沈黙になり愛琉と彩葉は顔を見合わせてゾッとした。


佐白山は茨城屈指の心霊スポットとしてTV番組にも取り上げられたこともあり、心霊現象については様々だが特に代表的なのはトンネル内で車のエンジンを切りクラクションを3回程鳴らした後にもう一度エンジンを再始動しようとするとエンジンがかからなくなるという話や霊が憑いてくる、霊の手形が車についているといった話は非常に有名だ。

また、佐白山には井戸があり女性が投げ捨てられた事件があったという噂や井戸を

仮に佐白山に行ったとしても、必ず心霊現象が起こるとは限らないが昼間でも薄暗くトンネル内に入ると異様に空気が重くなり気温も下がる。

明らかに雰囲気が普通ではないのは確かだ。


「ヤバそうなので辞めておこうかな…」


剛から話を聞いた愛琉は、佐白山に危険と察したようで行くことを辞めた。

心霊スポットの話をしていたらいい時間になってしまったので、彩葉と愛琉は剛や京香に挨拶をすると各々自宅へと帰っていった。


彩葉は途中で愛琉と別れると、バイト先からバイクで10分かからないくらいの自宅に着くとz125proをガレージに入れると家の中に入ってクーラーのスイッチを入れると、すぐシャワーを浴びに脱衣所に向かった。

彩葉はシャワーを浴び終えると、パジャマ代わりに着ている白Tと中学時代の体操着の半パンを履くとリビングの冷蔵庫からキンキンに冷えたラムネを取り出しソファーに座りながらラムネをイッキ飲みした。


「あぁ…夏はやっぱこれに限るね」


彩葉はそう呟くとバスタオルで濡れた髪を拭きながら、脱衣所にあるドライヤーで髪を乾かす。

髪を乾かすと、彩葉は冷蔵庫に入れておいたコンビニの冷やし中華を取り出すとクーラーの効いたリビングで食べ始める。

コンビニの冷やし中華ではちょっと量が物足らないので、これまたコンビニで買っておいた和風ツナマヨおにぎりをひとつ食べていると、愛琉から着信が入った。


『もしもーし、彩葉?今って電話大丈夫?……なら良かった、ねぇ?ルナのタイムライン見た?なんかクラスのみんなと佐白山に行くとか呟いてたけど…』


愛琉がそう言うと、彩葉はおにぎりを一気に口に押し込み口の中をいっぱいにしながらもおにぎりを飲み込むと愛琉に言った。


「ルナには連絡したの?悪ふざけで行くような場所じゃないよ…何かあってからでは遅いし…」


彩葉が心配そうに言うと、愛琉はルナに連絡してみるらしいので一旦電話を切った。

彩葉は嫌な予感がしていた…いつも楽しいことがあると真っ先に彩葉に言ってくるルナから何も言われなかった…

心霊スポットに行くと彩葉に言えば止められると思ったのだろう…

しばらくすると愛琉が再び電話をしてきた。


『もしもし、さっきルナに何度も電話したんだけど圏外…もしかしたら既に現地にいるのかな…』


愛琉がそう言うと2人少しだけ沈黙が続いた後に、彩葉が言った。


「私、佐白山に行ってみる!駐車場のところまでならなんとか行けると思うし…」


彩葉がそう言うと「なら、アタシも行くよ!」と愛琉が言ってくれたので2人は笠間のコンビニで待ち合わせることになった。

彩葉は電話を切ると、バイクに乗る時に着るジャケットとスキニーパンツを履くとガレージからz125proを運び出し、エンジンを始動して笠間に向かった。


県道140号線を大増方面に走っていくと途中でフルーツラインと交差する信号を通るが、本来であればフルーツラインを道祖神峠の方へ向かって峠越えしてしまった方が笠間までは早いのだが、二輪車は通行禁止となっているため彩葉は少し遠回りになってしまうが大増を抜けて国道50号線に出るルートを選んだ。


国道50号線とぶつかるT字路の交差点を笠間方面に右折した彩葉は、単純なルートで笠間までひたすら直進した。

もうすっかり夜の20時近くになっているので、国道は空いていて家から出発して30分弱で待ち合わせのコンビニに着いた。


「到着っと!……愛琉はまだ来てないね」


彩葉はヘルメットを脱いでバイクから降りるとスマホを取り出してLINEを確認する。

愛琉からあと5分くらいで到着するとLINEが入ってたので、彩葉はコンビニでミルクティを購入するとz125proを停めてる駐車場の輪止めに座ってミルクティを飲み始める。

少しすると国道50号線の水戸方面の方から聞き覚えしかないヨシムラショート管の甲高い音が聞こえてきた。

彩葉は「おっ、きたきた」と言いながら立ち上がると、愛琉のヨンフォアがコンビニに入ってきた。

相変わらず良い音してる…この音を聞くとFXにまた乗りたくなってくると彩葉はいつも思った。


「ごめん、待った?」


愛琉がそう言うと「いや、私もさっき着いた」と彩葉が言うと、愛琉はエンジンを切ってバイクから降りる。

愛琉は再びルナの携帯に電話をかけてみるが圏外になってしまい繋がる気配がない。

彩葉がスマホでタイムラインを見ていると偶然にも佐白山に肝試しに行っているクラスメイトの呟きを発見して、呟きの内容には「体調不良を訴えている人が数人いてやばい」と書かれていた。

彩葉がその内容を愛琉に見せると、「もしかしたらルナもこの中に…」と愛琉が震えた声で言うので彩葉は「急いで佐白山に向かおう!」と愛琉に言うと急いでz125proのエンジンを始動した。

愛琉も再びヨンフォアのエンジンを始動すると、2人は佐白山の方へ走っていく。

コンビニから佐白山までは5分程なので2人は自然公園の駐車場にバイクを停めると、彩葉は体調に変化を訴えた。


「空気が重いし…体調が悪い…私はこれ以上に進める気がしないよ…」


彩葉は佐白山の方に向かう舗装されていない道に近づこうとするが、体が拒絶してしまい先に進むことができない。

彩葉は霊感が強く霊的存在を敏感に感じ取ってしまうだけでなく、姿まで見えてしまうこともある。

彩葉の顔色の悪さなどから普通ではないと察した愛琉は彩葉に言った。


「ここから先は、アタシだけで行くから彩葉はここで待ってて!アタシは霊感なんてないけどさ…それでもなんか空気が重くてなんか息苦しい感じするし、何より気温が異様に低い…」


愛琉はそう言うと1人で笠間城跡地の方へ歩いていった、彩葉はとりあえず愛琉が戻ってくるのを待つことにしたが実は愛琉には黙っていたが既に彩葉はこの世の者ではない存在が目の前にいることをわかっていた。

着物を着た女性で、着物の着こなしから見た感じ江戸時代後期あたりの町人だろうか。

身長は140cm程で30歳くらいだと思われるが…それにしても現代人と比べると歳を取っているように見える。

彩葉は着物の女性と目が合うと、着物の女性は少し驚いたような表情で話しかけてきた。


「そなた…私が見えるのか?」


着物の女性はそう言うと「しっかり見えてます」と彩葉は返事した。

すると、着物の女性はここに何をしに来た?と言った表情でさらに話しかけてきた。


「ここへ何をしに来た?先程そなたと一緒に居た友が城の方へ歩いて行ったが目的はなんだ?悪さをしに来たわけではないだろう?」


着物の女性は少し険しい表情で聞いてきたので「友人を助けにきました」と彩葉は答えると、着物の女性の表情が少し和らいだ。


「5人くらいで、私と同い年くらいの人達が来ませんでしたか?」


彩葉が着物の女性に訊ねると「うむ、確かに来たぞ」と女性は答える。

彩葉は着物の女性が何者なのか聞いてみると、江戸時代後期の町人だったらしく女性は慶応2年に野伏せりに斬殺されて成仏出来ずにこの地に留まっているという。


「成仏出来ずに私のようにここに居る者は沢山いる、中には己が死んだことに気づいていない侍の霊などもな…当然生きている者に危害を加えようとする者もいる…悪ふざけで来るような場所ではないことは、そなたも肝に銘じておくのだぞ」


着物の女性がそう言うと「わかりました、友人にもそう言っておきます」と彩葉が頭を下げると、着物の女性は少し笑ったような表情を浮かべるとすぅーっと消えていった。

彩葉は辺りを見渡すが女性の姿はもう見えなかった、それと同時にさっきまで体調が悪かったのが嘘のように良くなっている。

しばらくすると愛琉がルナや他のクラスメイト達を連れて無事戻ってきた。


「ここには成仏出来ずにいる霊が沢山いる…中には悪い霊だって…もう絶対ここで肝試しなんてやっちゃダメだよ」


彩葉がルナやクラスメイト達に注意をすると、本人達も今回のことで懲りたのか二度とやらないと約束してくれた。

クラスメイト達は親に連絡をして各々帰って行ったので、彩葉と愛琉はルナのことを2人乗りで家まで送ることにした。


彩葉のz125proの後ろに乗っているルナが彩葉に礼を言った。


「心配して来てくれてありがとう…携帯は急に圏外になっちゃうし、気分悪くなって佐白山のトンネル付近で倒れるし…ほんと行かなければよかったよ…もう心霊スポットなんて二度と行かないよ」


ルナがインカムを通して言うと「反省してるなら良し、もう行かないでね」と彩葉が言った。

ルナは相当疲れたのか彩葉の背中に寄りかかりながら眠ってしまった。

本来であればバイクを二人乗りしながら後ろの人が寝てしまうのは大変危険なのだが、彩葉はルナを自分の体に抱きつかせるように密着させると速度を少し落としつつゆっくり走っていった。

愛琉にインカムでルナが寝てしまったことを伝えると、愛琉は彩葉の斜め後ろについて常にルナがバイクから落ちそうにならないかチェックをしながら走った。


「今日は大変な1日だったね」


愛琉がそう言うと「大変だけどこれもまた思い出になるよ」と彩葉が言ったら「ポジティブだねぇ〜」と愛琉は笑っている。


全国には心霊スポットが数多くあるが、行って得をすることは絶対にない。

心霊スポットから戻ったら翌日に事故を起こすことや病気にかかったなんて話も聞いたりする。


皆さんも心霊スポットに行く際はくれぐれも自己責任で…



【心霊スポットには気をつけて 完】






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