回転に関わる彼女の回想
洗濯機の中でくるくるしてるTシャツってさ、薔薇の花っぽくない?
私だけ? ロマンチックでいいじゃん、花言葉と一緒でさ。
なんか、回るものっていいよねー。
落ち着くっていうか、心が吸い寄せられるっていうか、とにかく
前にどこかで話したかもしれないけど、私ね、生まれたときから回るものが好きだったんだ。
赤ん坊のころはベッドメリー……天井から吊るしてるおもちゃのこと、それが回ってるだけでずっとキャッキャしてたんだって。
手のかからない、いい子だったんだよ。
公園に遊びに行けば、グローブジャングルっていう……球体を回転させて中に乗るやつ、あればっかり遊んでたし、理容室のサインポールを開店から閉店までずっと見てた。ショベルカーのキャタピラも好きだったけど、近づいてよく怒られたっけ。
そんなんだからさ、遊園地に行ったらコーヒーカップとかメリーゴーラウンドはマストなわけよ。あと観覧車とジェットコースターも。何回乗っても楽しいんだよねー。
あんたは見かけによらず回るものに弱くてさ。それでも無理して乗って、降りた後にぐたーってなってたね。素直に待ってればよかったのに。
そうそう、スノボも楽しかったな。
あんたがプロペラか、ってくらいスピンしてたの、今でも覚えてる。
ついでにいろんな温泉もまわったね。おかげで肌はつるつるスベスベ、血の循環も良くなって健康てきー。
……まあ、お金は全部私が出したんだけど。
回転寿司でバイトして、夜間の巡回警備して、工事現場で誘導棒を回して稼いだお金。
私が働いてたとき、あんたは何してた?
パチンコ屋でスロット回して、アプリゲームで10連ガチャ回して。
ボートレースもやってたっけ。「最初のターンで勝負が決まる」とか言っといて、外してばっかり。
全部、私のお金。
初めて見たあんたはすごくかっこよかったのに、どうしてなの?
初めて観に行ったライブのギター回し、最高だった。
それで興味を引きたくて、あんたの好きなローリング・ストーンズの曲も全部覚えたんだよ。
どんどん仲良くなって、告って、オッケーもらったときは目が回るくらい嬉しかった。
なのに、あんたはすぐに立ち止まったよね。
メジャーデビューの夢は諦めて、働きもせず、家では寝てるだけ。
「音楽業界は俺が回す」って豪語していたあんたは、どこへ行っちゃったの?
携帯も電気もガスも止まって、首が回らなくなって借金して、取り立てにおびえて部屋の隅から動かない。
私には金持ってこい、って怒鳴りつけてさ。
断ったら蹴って殴って……心臓止まるかと思うくらい痛かった。
だから、サヨナラしたんだよ。
何も回さない、回せなくなったあんたに魅力はないから。
そういうのって私からすればもう、壊れた扇風機と一緒。捨てるしかないの。
後悔はしてない。いい思い出は残す。そして私は先に進む。
生活が回らなくなったらおしまいだもん。
あ、洗濯終わっちゃった。
結局、最初から最後までずっと見ちゃった。
本当に私、回るものが好きなんだなあ。
……うーん、やっぱり真っ白にはならないか。脱いで作業すればよかったかも。
お風呂場とか、電動
さて、こっちはどうしよう。
細かくバラバラにしたから袋には入ったけど、燃えるゴミじゃ回収してくれないよね。
スマホで検索しても、手軽に処分する回答はなし。
どうやって捨てるか、頭を回さなきゃ。
〈終〉
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます