ちょうちょのおかげ

 むかしむかしあるところに、七色の羽をもつ、ふしぎなちょうちょがいました。

 羽は見る人によってちがう色に変わり、心のまっすぐな人にしか見えません。


 今日もちょうちょはあっちへぱたぱた、こっちへぱたぱた。なにかをさがすように飛んでいきます。


 まっくらな夜の森に、ひとりの少女がいました。

 帰るみちが分からなくなり、迷子になってしまったのです。

 少女はおおつぶの涙をぽろぽろとこぼし、おかあさんのなまえを呼びつづけました。


 こえが出なくなったとき、どこからか白く光るちょうちょが現れました。

 光るちょうちょはゆっくりと森のおくへ飛んでいきます。

 少女がついていくと森のそとにでました。こうして少女はおうちに帰ることができたのです。


 ゆうひがしずむ灰色のとりでに、ひとりの騎士がいました。

 どうしたら平和な世界になるのだろう。こしに下げたつるぎを見て、ため息をつきます。


 へやの窓から外をながめていると、うすむらさき色のちょうちょが入ってきました。

 ちょうちょはふわふわと飛びまわり、すこし空いたとびらのすきまから出て行きました。騎士はどこか気になり、おいかけてへやを出ます。


 うしろでドカン、と大きなおとがしました。てきの大砲がへやに当たったのです。中にいたら大けがをしていました。


 騎士はつるぎに手をのばしましたが、持つことをやめます。

 生きのびたのは、争うためじゃない。そう思ったからです。


 それから騎士は、だれも傷つけることなく、たたかいをおわらせます。

 国にへいわがおとずれ、騎士がつるぎをもつことはなくなりました。


 おおきくてりっぱなお城に、ひとりのお姫さまがいました。

 今日はけっこんのあいてを決める、だいじな日。

 めのまえには、いろんな国から来た王子さまがならんでいます。

 しかしお姫さまは、だれをえらべばいいのか分かりません。


 こまっていると、オレンジ色のちょうちょが飛んでいることに気がつきました。どうやらお姫さまにしか見えていません。

 ちょうちょはひとりの王子さまの腕にそっと止まりました。おとなしくて気弱そう、でもどこかほうっておけない感じの王子さまです。


 お姫さまはその王子さまの前に立ち、いっしょになりましょうと伝えました。

 それからふたりはささえ合いながら、みんながしあわせにくらせる世界をつくったのです。


 お花がたくさん咲いている庭で、おばあさんと女の子がさんぽをしていました。

 大きなばしゃが走ってくると、おばあさんはとつぜん、みちのまん中へとび出しました。ばしゃはあわてて止まります。もうすこしでぶつかるところでした。


 おばあさんはみちにおちていた小枝をひろって、その下じきになっていたちょうちょを助けました。


 そばにいた女の子がといかけます。


「どうしてたすけてあげたの?」


 おばあさんはほほえみました。


「私は今まで、なんどもちょうちょに助けてもらったの。森で迷子になっているときも、国同士で争っているときも、愛する人を選ぶときも。だから今度は、わたしがちょうちょを助けたのよ」


 女の子がもういちど聞きました。


「おなじちょうちょだったの?」


 おばあさんはちがってもいいの、とこたえます。


「大切なのは、誰かを助けたいと思う気持ち。その気持ちをたくさんの人が持っているから、世界は平和で、あなたも幸せに暮らせるのよ」


 女の子はわかったような、わからないような顔でくびをかしげました。あたまの上にのせていたティアラが、たいようの光できらきらしています。


 ちょうちょはあっちへぱたぱた、こっちへぱたぱた、あおぞらの中をたのしそうに飛んでいきました。


 おしまい。


<終>

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る