37-3

輪投げはすぐに皆が夢中になった

自由にルールを作って楽しんでいるようだ


「…で、この大量の輪投げセットはどうするの?」

ナターシャさんがため息交じりに言う

その目の前には大量の輪投げの的と輪が山積になっている


「中々の量でしょう?的1つに付き大体輪が10個」

「そのセットがすでに100を超えてるみたいだけど?」

「まあね、とりあえずレイたちが持って帰ってきた部品を全部使ってみようかなって」

私は笑いながら答える


「で、作ったその後は?」

「いろんな場所にばらまくの」

「「ばらまく?」」

バルドまで声を揃えて突っ込んできた

そんなに驚くことなのかな?


「孤児院に5セットずつ、あとはギルドや商会、カフェなんかにも1~2セットずつ置いてこようかなって」

「…なんで?」

「材料の入手ルートがルートなだけにね、売り物にするのはちょっと…だからいっそのこと市場に浸透させちゃおうかと」

そう言うとナターシャさんとバルドが顔を見合わせた


「この世界って娯楽が少ないじゃない?だから誰にでもできるこういう遊びってもっと広まって欲しいんだよね」

「それは理解できるけど…やっぱりサラサちゃんは思ってることの斜め上を行くってことかしらね」

ナターシャさんがため息交じりに言う


「…そんなに?」

正直その辺りがよくわからない


「売ったら凄いお金持ちになれるよ?」

「そうねぇ…確かにお金は大事よね」

バルドに頷いて返す


「なのに売らないの?」

「今回はそうね。バルドも知っての通り私は恵まれてるおかげでお金も充分にあるしね。それ以前にこれ、接着剤でつけてるだけだし」

ぶっちゃけ誰でも作れるものなのだ


大量生産した輪投げは弾丸が色んな場所に配った

最初は子供が立ち寄る場所を重点的にと考えていた

でも、何故か子供以上に大人が夢中になった

中でも1番喜ばれたのは酒場だったから驚きだ


「よりによって何で酒場なの?」

意外すぎてついボヤく

「ほろ酔いでの勝負が楽しいらしいぞ」

「誰が勝つか賭けたりもしてるみたいだな。酔ってるせいで番狂わせがやたら多いらしい」

カルムさんとレイがゲラゲラと笑いながら言う


「昨日なんて、ギルマスがルーキーに負けたらしいしな」

「「えー?!」」

ナターシャさんと驚きの声を上げながら顔を見合わせた


「その大穴にかけてたのが孤児院の従業員だったらしくて、ちょっとした騒ぎになったらしい」

「大穴一人勝ち。寄付金所の額じゃないってな」

「それは…ある意味喜ばしいこと…なのかな?」

経緯が経緯だけに疑問が生まれる

あ、でも前世でも宝くじの収益が使われたりしてたっけ?

そう考えれば有りなのかな?


「ルールは単純、誰でも参加出来て手軽でやる方も見てる方も楽しめるって事だな」

「だから喜ばれると…それ、もれなく酒場の利益も上がるわよね?」

ナターシャさんは苦笑しながら言う


「おかげで俺らが行く時タダらしいぞ」

「え…?」

それは思わぬ展開かもしれない


「そういやギルドに置いてるのは1勝負毎に金取るって言ってたな」

「それせこくない?」

「いや、その金は孤児院に寄付するらしい」

なんと…


「ギルマスはそのうち輪投げ大会でもするかって言ってたぞ」

「まじ?」

「あぁ。参加費とって、それを全額寄付するって」

俗に言うチャリティーかな?

流石は子は宝だと言い切る世界と言うべきか…?


「ギルドってもともと募金箱置いてたわよね?」

「置いてるな。それがそのまま勝負する時の金入れる箱になってる」

「負けても寄付するって名目があるから何度も挑むやつが続出らしい」

「これから孤児院の経営も少しは楽になるんじゃないか?」

「何か…思わぬ方向に話が進んでる気がするんだけど?」

「そりゃ注目度もでかいからな」

「どういうこと?」

「いきなり誰もが手に取ることが出来る娯楽が出現したんだぞ?しかもそれが全て無償で設置された」

「数箇所レベルなら何かを寄付したとかって話もこれまでだってあったけど規模がでかいからな」

レイの言葉にカルムさんが続けた


「金取ってるのはギルドだけで他はタダで遊べる。そこに酒場の一人勝ちやギルドの話が話題に上がったら?」

「なるほど…」

確かに注目度は大きいだろう


「で、かなりの場所で募金箱が置かれたらしい。それが殆ど孤児院への寄付を謳ってる」

「引き取ってる奴も多いだけに善意で入れてく奴も多いみたいだ。これまではどうしてもそれなりの額でって感じだったから手が出ないやつも多かったんじゃないか?」

「それが身近に募金箱が置かれた事で僅かな額でも気軽に寄付できるようになった」

確かに小銭もバカにはできないもんね


「特に子持ちの冒険者はいつ自分の子供が孤児院に行ってもおかしくないからな。その時の事を考えちまうのも無理はない」

「そっか…」

切ないけどそれが現実だ

死と隣合わせの生き方

それまで当たり前にあった日常はここでは簡単に崩れてしまうことも多い

実際、マリクとリアムもその当事者なのだから


「だとしたらサラサちゃんは凄い功労者なんじゃない?」

「ああ。その恐れがあったからサラサの名前は出してない」

「そうなの?」

「輪投げを考えたのはサラサだけどその先は善意の支援者ってことにしてあるよ」

「流石レイ」

「当然だろ。下手したら王家や貴族が出てくる」

「だよね…」

心底ほっとした


「まぁ想定外の展開になったけどいいように動いてるなら良かった」

「色んな意味でいい傾向ではあるな」

「確かに。俺も軽い気持ちで持って帰ってきたもんがこんな事になるとは思わなかったしな」

レイが苦笑しながら言ったせいでみんなが笑い出す


その後も様々な驚く話が出てきたものの、輪投げが老若男女問わず受け入れられる娯楽になったのをただ喜ぼうと締めくくられた

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