12-2

ふとあたりを見回す

「何でこんなところで座り込んでたんだろ…?」

不思議に思いながら目的の木工品店に入る


「ゲイルさんお願いがあるんだけど」

「おー嬢ちゃんどうした?」

「1つだけ作ってもらいたいものがあって…」

私はそう言いながら紙に絵と寸法を描いていく


「んーこれならすぐできる。ちょっと待ってな」

ゲイルさんはそう言って本当にすぐに作ってきてくれた


「ありがと。あと…目の一番細かい紙やすりと一緒にお会計」

「はいよ」

言われた代金を支払い元のお店に戻る


「オルドさんただいま」

「あ、あぁ…」

「どうかした?」

「いや、何でもない」

オルドさんはそう答えるも表情は固い

それがゲイルさんの店に行く私を見送ってくれていたからだということに私が気づくことはなかった


購入した紙やすりでゲイルさんに作ってもらったものを磨き、角を滑らかにすると再び皮を編み始める

途中、側に来たオルドさんは手元を覗き込んでしばらく熱心に見ていた


「やった。できた」

皮で編んだブレスレットだ


「今日は何を作ったんだ?」

「レイへのプレゼント」

満面の笑みで応えた私にオルドさんが一瞬引きつった顔をした


「?」

「いや、何でもないよ。相変わらず面白いもの作るなぁ」

誤魔化すようにそう言いながらも作品への興味は本物だ


「ありがと。じゃぁこれ代金ね」

「まいど。また寄ってくれ」

「はーい」

私は笑って店を出ると昼を過ぎていたので喫茶店に向かった

いつものようにレイを待ち一緒に帰る

この時の私はそんな普通の日々を過ごしていると当たり前のように思っていた

多少、町の人たちの視線に疑問を持つことはあったけど…


***

《忘却》

直前5分間の記憶を消す

記憶を取り返すのはほぼ不可能だが、まれに思いの強さで記憶が戻ることもある

***


そのスキルを自身にかけていることにも気づかずにいた私を再び異変が襲ったのは4日後だった

その日私はめぼしい採取の依頼がなかったので町をぶらつくことにした


「サラサ」

かけられた声に振り向くとトータさんがいた

「トータさん?今日は依頼なしですか?」

レイが依頼を受ける日ということは弾丸も依頼を受ける日だ


「いや、みんなは先に行ってる。俺は忘れもん取りに来ただけ」

「珍しいですね?」

「そうでもない。飯以外は結構忘れる」

トータさんは苦笑しながらそう言った


そんな他愛ない事を歩きながら話していると、トータさんが何か言いたそうにしては言葉を飲み込んでいるのに気づく

「どうかした?」

「いや……変なこと聞いてもいいか?」

言葉を飲み込もうとして、それでも飲み切れなかったようだ


「どうぞ?」

「…お前、最近レイとうまくいってないのか?」

その言葉に心臓が大きく脈打った

問われているのに肯定的に聞こえるのはなぜなのか?

そもそもなぜそんな問いがかけられるのか?


「何…で…?」

妙な違和感と得体のしれない不安を覚えながらも何とか平静を装って問い返す


「いや…うまくいってる…な…」

不自然に言葉を止めたトータさんの視線の先を見た瞬間、頭に刺すような痛みが走った


「え…?」

一瞬の痛みの後、4日前の出来事がいきなり頭の中に流れ込んでくる

映画のフィルムが頭の中で映し出されているようなそんな感じだった

そして視線の先にいるレイと前と同じ女性を凝視する


「なんで…」

なぜ忘れていたのか

なぜその女性といるのか

自ら腕を絡める大人っぽい女性

その手を振り払うことなく一緒に歩くレイ

なぜその手を振り払わないのか

なぜ…

なぜ…

問いたいことが山ほどあふれてくる

でも2人はこっちには気づくことなくそのまま通り過ぎようとしていた


「っ…!」

痛みの増した頭を抱え、耐え切れずに倒れこむ

考えることを拒否するような鈍く重い痛みに息が詰まる

体中からあふれ出す嫌な汗に吐き気まで覚える


「おい…サラサ?!」

私を抱き起し、焦りを含むトータさんの声にレイがこちらに気付いた


私は激痛に耐えながら必死でレイを見る

痛みと訳の分からない感情に涙があふれてくる

助けてと心の中で叫びながらも声にはならない

縋りつきたいレイは知らない女性の側にいる

絶望という言葉が頭に浮かんだ気がした


顔がこわばりこちらに来ようとしたレイに女性が何かを言ったのが分かった

レイは何かを訴えるような目を私にむけてからその女性と行ってしまった


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