第106話 計画の裏切り者

 千佳と別れて寮へ帰るとロビーで1人、本を読んでいる生徒を見かけた。


「雅、こんなところで読者か?」


「あっ、大山君。こんばんわ」


 雅は、本を閉じ、目線を上に上げた。


「あぁ、こんばんは……。またミステリー小説か? それともホラーか?」


「ホラーです。瀬川君オススメされた小説なんですよ」


「瀬川……確かチームメイトか?」


 名前は聞いたことあるが会ったことはない。


「はい。瀬川洋介君は、チームメイトです」


 瀬川洋介……念のため覚えておこう。


「雅、少し聞きたいことが……」


 オレがそういいかけた時、誰かの声と被さった。


「あれ? 藤村さんと……誰?」


「あっ、こんばんは。村島さん。大山君、こちら私のクラスメイトの村島さんです」


 雅から村島という女子生徒を紹介してくれた。


「3組の大山一樹だ」


「大山君ね。私は、4組の村島小雨。よろしくね」


「あぁ、よろしく……」


「じゃあ、お二人の邪魔しちゃうわけにもいかないし私は、行くね。バイバイ藤村さん」


 そう言って村島は、エレベータへ乗り込んだ。

 何か誤解されてないか?


「名字呼びなんだな……」


 オレは、ふと雅にそんなことを言ってみる。


「……そうですね。私と島村さんは、考えが逆ですから」


 考えが逆……。それは、どういう意味なんだろうか。聞きたいがこれ以上詮索するのはやめておこう。


「読書を邪魔して悪かった。お休み、雅」


「はい、お休みなさい大山君」


 ニコッと笑う雅と別れオレは、自室へ戻った。


───────────


「電話番号……かかるかわからんがやる価値は、ある」


 自室へ戻るなりオレは、一枚の紙を机の引き出しから取り出した。この紙は、この前神楽さんがオレに手渡したものだ。紙には、電話番号が書かれていた。ものすごく怪しいがかけてみるか。さっそくスマホを取り出し電話をかけた。


『……』


 あれ……? 電話は、かかったが一向に相手から声が聞こえてくることはなかった。この場合、オレから話さないといけないのか。


「オレから話すの待っているんですか?」


 誰が出るかわからないためオレは、警戒しながら尋ねる。


『その声……一樹君か。驚いたよ、こんな時間に急に知らない電話番号がかかってくるんだから』


「すみませんね。ですが怪しい電話番号をオレに渡した神楽さんも同じようなことです。警戒させたのは、お互い様です」


『ふっ、怒らせたのならすまないね。それより今日は、なぜ電話をかけてくれたのかな?』


「協力をしてほしいと思いまして」


『協力? 君は面白い冗談を言うんだね。私は、今「フォースプロミス」の社長であり関係者だ。内容はどうあれ、君の協力をするわけがないだろう』


「そうですね。ですが、神楽さん……あなた本当は、『フォースプロミス』の計画なんて一切興味がないんじゃないでしょうか。この前会った時、神楽さんからの言葉からそう感じました」


 オレがそう言うと電話越しに笑い声が聞こえてきた。


『こりゃ面白い推測をしたね。だが、ハズレだ。私は、大山さんの計画に興味津々だ。だからこそ計画に協力している……。話を戻すけど、一樹君は、一体私に何を協力してほしいんだ?』


「丹羽さんの連絡先を教えてください」


『丹羽?……まさか一樹君に協力した奴は、丹羽なのか?』


 急に丹羽という名前を出した途端神楽さんの口調は、変わった。


「その質問には答えられませんね。とにかく今、オレは丹羽さんの連絡先が知りたいんです」


『連絡先を知ってどうするんだ?』


「普通に会話するだけですよ。丹羽さんは、小さい頃おに世話になりましたからね。久しぶりに話したくなりました」


『それにしては妙なタイミングだな』


「妙? 話したいことにタイミングなんてありますか?」


『……本当に裏が読めない奴だな』


「その言葉そっくりそのまま返しますよ」


 神楽さんもオレと一緒で嘘が上手く、裏が読めない男。


『まぁ、一樹君の考えていることは一度気にすることは、やめておく。丹羽さんの連絡先は、どこに送ればいいかな?』


 オレの考えを詮索するのをやめて神楽さんの口調は、戻った。


「今から言うメールのアカウントに送ってください」


 オレは、新しく作ったアカウントを神楽さんに伝えた。


『話は、これだけかな?』


「はい、教えてくださりありがとうございます。あの、オレが神楽さんに丹羽さんの電話番号を教えて貰ったことは、大山寛太には秘密にしてくれませんか?」


『ん~そうだね。君が丹羽とどういった関係であるか教えてくれればその秘密を守るよ』


「わかりました。丹羽さんとオレは、計画妨害をするための協力関係です」


『……やはり丹羽が関わっていたか』


「神楽さん、もしかして丹羽さんに明日、問い詰めようとしてませんか?」


『いいや、そんなことしないよ。前にも言ったけど私は、一樹君の計画を応援している。一樹君にとって丹羽がどれだけ必要な存在なのかわかったことだし丹羽のことは、私は、見逃す。だが、大山さんが丹羽が協力した奴だと知ったら丹羽は、確実に会社を辞めさせられるだろう』


「そうですね。えっと……結局、秘密は守ってくれるってことでいいですか?」


『あぁ、守るよ。それにしても君は凄いな』


「何がです?」


『大人が危機的状況であるというのに君は、丹羽を利用しようとしている』


「利用……間違っていませんが言い方が悪いですね。丹羽さんには、協力してもらっているだけです」


『それが利用するということだよ』


「……オレは、父と似ていますか?」


 オレは、ふと思った疑問を口にした。


『あぁ、似ているよ。そうやって人を利用するところがね』



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