第61話 信じてる

 カフェでチームのみんなと別れた後、オレは、彼女に会いに行くことにした。


「千佳、こんなところに立っていて寒くないか?」


 噴水前で立っていた千佳をオレは、心配した。


「えぇ、寒いです。場所を変えましょうか」


 オレと千佳は、噴水前から寮へ並んで歩いていく。


「今日、チームで話し合っていたところを松原が空気を読まず割り込んできた。これもお前の作戦か?」


 オレは、千佳に今日起こった出来事を確認する。


「何のことでしょうか? 楓君が邪魔したことが私に何の関係が?」


「千佳が松原に何か言ったんだろ?」


「どうしてそう思うのですか?何か証拠でも?」


「証拠なんてない」


「ふふっ、本当に面白い方ですね」


 千佳は、クスッと笑った。


「ところで千佳は、誰と勝負するのか決まったか? まぁ、聞くまでもないと思うが……」


 オレは、千佳に真実を追及するのは、やめて話題を変えた。


「聞く時点であなたは、意地悪ですね。一樹君、私と勝負してください」


 やはりこうきたか……。


「別に構わない。勝負内容はなんだ?」


「シンプルにババ抜きなんてどうでしょうか?」


 事前に決めていた回答といったところか。しかし、トランプで勝負とは、予想してなかった。


「オレは、何でもいい」


「なら、決まりですね。これであなたと戦える機会は、1年生では最後です。今度こそ私が勝ちますから」


 最後と言ったのには何か意味があるんだろうな。


「ところで千佳。クリスマスの予定は何かあるか?」


 オレは、話題を変え、予定を聞く。


「クリスマスは、今のところ何もありませんが何かあるのですか?」


「オレとどこか行かないか?」


「つまりデートのお誘いでしょうか?」


 少し嬉しそうに千佳は、確認する。


「まぁ、そうだな。クリスマスは、付き合ってる人達にとってかなり重要なイベントだと聞いたからな」


 オレのその言葉に千佳は、どこで知った情報だろうかと思うのだった。


「では、その日は、予定を空けておきます。クリスマスが今から楽しみです」


 そう言って千佳は、嬉しそうに笑う。


 クリスマス……そのためだけにオレは、千佳を誘ったわけじゃない。クリスマスは、もう一つ大事な日でもあるからだ。


「そう言えば、さっきのババ抜きの話だが、監督者は、どうするんだ?オレとしては、お互い仲間であるチームメイトを1人ずつ監督者としていてくれるのがいいと思うんだが」


「そうですね。それが、いいと思います。では、私達は、2人の監督者でゲームを行いましょう。ところで一樹君のチームリーダーは、一体誰ですか? やはり近藤さんでしょうか?」


「いや、今回は、北原だ」


「北原さんですか……。大丈夫ですか? 彼女にそんな重要な役割を持たせて」


 どうやら千佳は、北原の裏を知っているようだ。確かにチームの順位を下げようとしている北原に重要な役割を持たせることは、デメリットしかないだろう。


 だが、今回、オレは北原がなにもしないということを知っている。だから安心して北原にリーダーを任せられる。なぜ、なにもしないと言いきれるのかは、今から数分前にさかのぼる。




────20分前。


 チームメイトがカフェで解散しようとなった時、オレはカフェから立ち去ろうとした北原を呼び止めた。


「北原、少し話せるか?」


「ん? 別にいいよ」


 立ち話するわけにもいかず、オレと北原は、さっきまで座っていたカフェのイスへと座る。


「大山君と2人で話すのって久しぶりかも」


 北原は、嬉しそうな顔をしながらも少し嫌そうな雰囲気を出す。


「そうだな。さっそく本題だが……北原、お前に学年別の一騎打ち試験のリーダーをやってほしい」


「別にいいけど。大山君は、本当に私でいいの?私が何かするかもしれないよ? チーム得点を下げるため不正行為をしたり、得点が2倍であるからってわざと負けるかもしれないのに」


 北原は、オレの発言に驚くあまり、あり得そうな未来を次々に言っていく。


「そんなことは、今はどうでもいい。オレが北原に求めるのはリーダーをやってくれるかの返事だ」


「ほんと、大山君の考えてることはわかんないよ……」


 北原からいつもの明るさがなくなり口調が変わる。


「嫌なら断ってもいい」


「ううん。リーダー引き受けるよ。チームメイトの頼みだもん」


「ありがとう。北原、オレレはお前を信じているからな」





───────────





「北原なら大丈夫だ……」


 オレは、千佳の質問に答えた。


「そうですか。信頼しているのですね北原さんを……」


「あぁ……今回だけはな」

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