第35話 証拠を作るためならば手段は選ばない

 23時30分、オレは、ポストから少し離れたところに隠れた。


 ここなら誰にも気付かれない。ロビーから入って来る者とポストに来る者からは、死角になるはずだ。さて、後は犯人が来るのを待つだけだ。


 ここに来てから5分後、ポストの方から音がした。誰か来たのか? 確認するため音がした方を見る。するとセミロングの髪でリボンをつけた女子生徒がいた。見たことのない生徒だな。だが、どこかで会った気もする。


 その生徒は、濱野のポストにプリントを入れていた。あいつが犯人か……だが、後ろ姿じゃどうしようもないな。


 後ろ姿だけでも覚えておこうとしたその時、ポストの前に立っていたその女子生徒がオレがいる方へ近づいてきた。


「まさか隠れて私の行動を見ている人がいるなんて思いませんでしたよ」


「お前が濱野に嫌がらせしてた奴か?」


「お前では、ありません。私には、小野寺雪っていう名前があります。それと名前を忘れるなんてひどいですね、大山一樹君」


 オレの名前を知ってるってことは……。


「もしかしてあの施設にいた奴か?」


「はい、お久しぶりです」


 小野寺雪……少ししか話したことはないが、オレと同じで『フォースプロミス』にいた人だ。

小野寺は、体が弱いという理由で『フォースプロミス』から姿を消した。


「で、小野寺は今さっき何してたんだ?」


「大山君こそなぜここにいるのですか?」


 質問したら質問してきた。これは中々答えてくれないやつだな。


「濱野から助けを求められた。ポストに毎日プリントを入れてくる迷惑な奴がいると。だから、オレはその迷惑なことをしている人を見つけるためにここで見張っていた」


「なるほど。で、私がその人だと大山君は思っているのですね?」


「あぁ、この時間帯にここに来たのは小野寺だけで濱野のポストの前に立っていたからな」


「そうですね。私が濱野一華さんに嫌がらせをしていたことは認めます。けど、犯人を知ったところで大山君は、どうするのです? 私は、誰にも何を言われようとやめませんよ」


 わりとあっさりと認めたのでオレがこのことを誰かに言うことはできないと小野寺に思われているのだろう。


「濱野に嫌がらせをして何がしたいんだ?」


「私は、濱野さんを退学させたいんです」


「濱野にそこまでする理由はなんだ?」


「聞いたら何でも答えてくれるなんて思わないでくださいよ」


 そう言って、小野寺はオレの前から立ち去ろうとしていた。


「今、立ち去ったらお前が濱野に嫌がらせしていることを学校側に言うがそれでもいいのか?」


「脅しですか? 大山君もまだまだですね。今の状況からどうやって学校に言うんですか?口で言うなら誰でも言えます。証拠なしに言っても学校側は、信じてくれませんよ」


「確かにそうだな。だから、今から証拠を作る」


 そう言ってスマホをポケットから取り出した。


「証拠を作る? っ! 待ってよ、まさか……」


「あぁ、そのまさかだよ」


 オレは、少し強めに小野寺の手を取り、ポスト方へ無理やり連れていく。


「は、離してよ!」


「今からオレのやることに従えないなら小野寺に濱野がされたようなことをオレがこれから毎日する。ポストにテストを入れるなんて面白くないことはしない。やるならあの施設でやったようなことをここでする」


「わ、わかった。大山君の言うこと聞くよ」


 小野寺は、オレの言葉に怖がったのか逃げることを諦めた。


「それでいい。じゃあ、このテストプリントを濱野のところに入れろ」


「わ、わかったわよ……」


 スマホでカメラ機能にして、それを小野寺の方へと向けたのだった。



──────────



 翌日、オレは、昨日撮影した写真を理事長へ見せに行った。


「小野寺雪……確かにこれは徹底的な証拠だな。撮ったのは君か?」


「はい、そうです。昨日、偶然通りかかったら見てしまって……」


 嘘を混ぜつつ昨日あった出来事をを話す。


「君の言いたいことはわかった。小野寺雪さんには後で呼び出して話すことにするよ」


 そうしてくれるのはいいが……


「ところで、今回、小野寺は、こうして濱野に嫌がらせをしましたが、小野寺には何か罰はあるんですか?」


「特にない。ただ、今後こんなことをしないように注意するだけだ」


「それだけですか? 濱野を退学にまで追い詰めようとしていた生徒になにもしないのはどうかと思いますが……」


「君は、小野寺さんを退学させたいのか?」


「オレのことを知る生徒はこの学校には必要ありません。いつオレのことを誰かに話されるかわかりませんしね」


 オレのことを知っているのはどこまで知られているのかわからない雨野で十分だ。


「そうか……なら、尚更小野寺を退学させるわけにはいかんな」


 どうしてもオレの邪魔をするつもりか……。


「そうですか。無理ならこの話は終わりですね。

これで失礼します」


 そう言って理事長室から出ようとしたとき、理事長が口を開いた。


「オレは必ずお前を退学させる。それまでにお前の目的が達成できればいいな」


 理事長は、そう言って笑った。


「簡単に退学なんてしませんよ。あんたがこの学校にいる限り……」

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