第6話 散策
大衆浴場を出たオレは町をぶらぶら歩いていた。
服は汚れていたので、大衆浴場の人に新しい服を買ってきてもらった。シンプルなデザインのシャツとズボンだ。ちょっとカッコ良く言ったわ。デザインなんてないです。無地です。
さて、引っ越しの準備しよう。
とは言ってもだ。オレのボロアパートの部屋にはほとんど自分の私物はない。もっと良い所に引っ越そうと、思いはしていたからだ。実行に移していないだけで。オレの私物は敷布団、掛布団、枕の三種の神器ぐらいか。
しかしアパートに帰るとなると、奴らが張っている可能性があるんだよな……
泣く泣く三種の神器は諦めることにしよう。ほら新しくリー助の毛で作るつもりだからね。カバーだけ寝具店で買えばいいだろう。
毛をくれるかなリー助?いやいや、ポジティブシンキングを忘れるなオレ。悪いことを考えても仕方がない。リー助の心の広さを信じるんだ。自分のことを「我」と呼ぶくらいだ。きっと度量が大きいに違いない。
……リー助にもお土産を買っていこう。うん、それがいい。別にご機嫌取りするわけじゃないんだからね!お隣さんになるわけだから、それが大人のマナーなだけなんだからね!
あとはそうだな。銀行に行って、生活必需品と小人さんへの土産を買おうかな。生活必需品ってなんだ?まあいいや。適当にお店に周ればわかるだろ。
レッツゴー。
***
「こんなもんか……」
オレは寝具屋さんの前でそう独りごちた。
あの後、まず銀行で貯金を全額おろした。思ったより貯金は多かった。なおオレが貯金していたわけではない。わざわざそんなことはしない。ただ給金が全部銀行に記録されるだけだ。本当にオレは給金を貰っているのか不安だったが、流石に貰っていたらしい。
そのお金を持って大きめの道具屋さんに向かい、大きめのバックと生活必需品を購入した。
生活必需品がわからなかったが、道具屋さんのお姉さんに向かって「人並みの生活を送れるような道具をください」と言って用意してもらった。残念なものを見る目ながらも、『わくわく新生活ぐっず』なるものをおすすめしてくれた。これから新たな場所で生活を送る人に必要なものが全て揃った夢のようなセットらしい。オレは迷わずに購入した。セット内容?知らん。
小人さんにもここで欲しいものがあるか聞いてみたが、特に興味があるものはないらしい。しいていうなら魔石をはめて使用するランタンだろうか。それもランタンが欲しかったのか、はまっている魔石が欲しかったのかは微妙なところだ。一応購入した。
ちなみに魔道具には2種類あり、一つがログハウスにあったみたいな魔法陣だけがついていて、自前で魔力を流すもの。そのため魔力が少ない人には使いにくい。もう一つはこのランタンのように魔法陣に魔石で魔力を供給するもの。自分の魔力を使う必要がないが、こんどは魔石を必要とする。魔石は魔物からとれるので一般の方は購入する必要があるだろう。
どっちにしろ自前の魔力が膨大で、魔石も自ら調達できるオレにとっては魔道具は恩恵の方が大きいと言えるだろう。
ちなみにあとでわかることだが『わくわく新生活ぐっず』には普通のランタンが含まれていた。
それから寝具店に行って枕と布団のカバーをそれぞれ購入した。枕はちょっと硬めもオレの好みなので、香りの付いた木が入っているという硬めの枕を買った。ふっ、どれだけリー助の毛に対抗できるか見物だな。
そうして今、街の賑やかなところを手のひらにのせた小人さんと話しながら歩いている。
「さて、じゃあ最後にお前たちのお土産だな」
「ミー♪」
「何か好きなものとかあるか?食べ物とか」
「ミー!」
うむ、何言っているかわからん。身振り手振りでなんとか会話してきたが、こういう具体的な答えが欲しい時には不便だな。
「というか食べ物を食べるのか?」
「ミー?」
首を傾げられても。
「へい、そこのぬぼーとした顔の兄ちゃん。串焼きはいかがかな安くしとくぜ」
ぬぼーとした顔ってどんな顔?イケメンってこと?
オレは声をかけてきたオヤジの屋台に近づく。ジュージューといい音をたて肉汁をまとった肉が網の上で焼かれている。
「安くって無料ってこと?」
「そんなわけねぇだろ」
「この嘘つきが!」
「流石にこれで嘘つき呼ばわりされるのは癪だぞ!?」
飲食を扱うものが調理中に叫ぶなよ。もう意識が低いなぁ。
「で、いくらだ」
「なんと銅貨3枚だ」
「じゃあ一本くれ」
「ほいよ。熱いから気をつけろ」
「あーちちちち!」
「それは、もうわざとだろ!」
バレたか。喉が渇いたからあわよくば水もせしめようとしたんだが、流石に騙されなかったな。
改めて串焼きを食む。肉汁が口の中で溢れ出てくる。硬めの中にも柔らかさがあってとても美味しい。あとよく考えたらこれ7日ぶりの飯だ。
「うめぇ。オヤジ、これ何の肉だ」
「そうだろう。そうだろう。オレの焼きがいいんだろうなやっぱり」
「うん、そうかもね。で、これ何の肉?」
「お、そこの美人さん串焼きはどうだい?」
「オヤジ」
何でこの町の人は、何の肉か教えてくれないの?
「そうだ。小人さん。食べるかい」
「ミー?」
串焼きを小人さんに向ける。小人さんは不思議そうにしながらも、お肉を抱えてかぶりつく。熱くないの?
「ミー!ミー!ミミー!」
目をキラキラと光らせてすごい勢いで肉を食いつくしていく小人さん。
「おーおーおー」
思わず感心してしまうほどの食いっぷりだ。串には3個ほど肉の塊が残っていたのだが、次々に小人さんに飲み込まれていく。一体その小さな体のどこに入っているのか。何にせよ人間の食べ物も食べれるんだな。
「一体なんだそれ?人形じゃねのか」
「見ての通りだ」
というか人形片手に持って、それに話しかけているイケメンにオヤジは声をかけたのか。そっちの方がすごいわ。
「小人さんだ」
「小人さんだと……!おいおいなんてものを…………ごほん。お前勇気あるな……。小人さんに関わる奴は皆不幸になるっていうぜ」
「そりゃあ嘘情報だろ」
大方、不幸になったやつが、自分の失態を隠すためにそう吹聴したのだろう。
「ありがとよ。オヤジうまかった」
でもそんなことを思っている人に小人さんを近づけるのも、それこそお互い不幸にしかならないだろう。オレはオヤジにお礼を言うと屋台を離れる。
「じゃあ、もっと色々なものを食べるか」
「ミー♪」
気に入ったものをみんなにも持って行ってやろうな。
***
小人さんと一緒に飲食店を回った結果わかったことは、好みは人間の子供ににているということか。野菜とかは苦手。辛い物もだめ。でもお肉とか魚とかは好き。あとは甘いものも好き。こんなところか。
ということでお土産はこんぺい糖に決まった。少し高いが3瓶購入した。これに小人さんが大興奮だったのと、こんぺいとうを抱える小人さんが何か可愛かったからだ。
リー助のお土産には野菜を買ってくいくことにした。リー助も何を食べるかはわからないが、最悪肉と魚は森でも食べられるので買っていくとしたら野菜だろう。日持ちするやつはさけてもらい、何種類か包んでもらった。
あとそこで種もわけてもらった。一度家庭菜園なんかもやってみたくてな。たぶんすぐ飽きるけど野菜を見ていたらやる気が出てきたので挑戦することにした。どうせ時間は腐るほどできるのだから。
「これで、だいたい買い物は終わっただろう」
オレは大きなバッグを背負うと満足気にうなずいた。
「ミー♪」
小人さんもこんぺいとうをもって嬉しそうだ。それが最後だからな。後はみんなの分だからね。
「あ」
オレは意気揚々と森に引き返そうと思ったのだが、大事なことを忘れていた。
それは仕事を別に辞めてないことだ。あとアパートの契約も切ってない。
オレは今、ただ無断欠席をしている人なのだ。もしかしたらそれが原因でもう辞めさせられているかもしれないが、そうではないかもしれない。
どうしようか?
歩きながら悩むオレの前にそれはまるで神の啓示のように現れた。
『何でも承ります。何でも屋』
そんな文言を掲げたお店。オレは歩みを止めた。
「ほう、何でも」
オレは不敵に笑う。さて看板に偽りなしかお手並み拝見と行こうじゃないか。
オレは迷わずその店の入り口を開けた。
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