やはりそれはたぶんおそらく間違いがなければ想像通りのラブコメ

小鳥遊咲季真【タカナシ・サイマ】

第1話 ラブコメがしたい!

 ラブコメとはなにか。

 


 ふむ、深い問である。


 

 しかし、深い答えを返すことはできずに浅い答えをこう返す。



 ラブコメがしたい!



 ラブコメは見たいんじゃなくて、したいのだ。あの手の漫画やら小説やらがいいのは羨ましいからであって、読みたいものでも眺めたいものでもない。現実に起きたらいいな、起きないかな、自分にもそういうチャンスあるかも? などと想像するからこそ楽しいのだ。そしてその最終形はラブコメがしたいに尽きる。しかし、ただやりたいと言ってできるほどラブコメは甘くない。甘く酸っぱく爽やかに思えるが現実は厳しい。理論建てていかなければ失敗するに違いない。

 



 ではまずはじめに。



 ラブコメには登場人物が必要だ。



 登場人物は主人公にヒロイン、冗談しか言わない気の利いた男友達に、ヒロインの女友達が二、三人。そんなところだろうか。



 まず主人公は俺だとして、ヒロインはどんなのがいいだろうか。クールビューティーな黒髪の美少女か。ギャルっぽい金髪または茶髪の美少女か。メガネをかけた読書好きの物静かな美少女か。俺は兄弟姉妹のいない一人っ子で、義なる妹はいないし、幼い馴染みもいないのでその辺りは却下。



 ヒロインに心当たりは今のところないのが残念なところであるが、しかし残念なことに友人の方に当てはある。



「もちきー、今日の放課後空いてる?」


 

 この頭の悪そうな、顔だけは美少年な男。姓を大銭たいぜん、名を函助はこすけという。名前がイジられることが多くて可愛そうな彼だ。大概は名字で呼び捨てることが多い。ちなみに放課後は暇だ。空いている。



「ラブコメしようぜ!」



 なんと。



 今まさにそのことを考えていた。やはり心の友人というのは意思疎通しているものなのだな。ふむふむ。



「話によれば今の世の中はラブコメ時代。とある某雑誌の連載の半分はラブコメが占めている程らしい。つまり! 時代がそうであるなら我々にもそのような出来事が起こるに違いない相違ない!」



 なるほど。時代がラブコメならば仕方がない。ラブはともかくコメディは大銭に任せておけばいいだろうからな。よし、半分は埋まった。あと半分だ。



あてはあるのか?」


「いや、ない!!!」



 ……だろうな。そうでなければ少ないお小遣いだけで男が二人して自由な放課後にて遊ぼうなどと相談をすることはないだろうからな。悲しきかな。半分は埋まったのにな。



「何話してるの?」


「……おと



 美少女かどうかは主観によるのでともかく、黒髪を長く前かがみで隣のクラスから入ってきた長身の彼女は天滝瀬あまたきせおと。小学校からの知り合いである。胸が大きいために目線がそちらへ行きがちだが、バレないようにしているのだからバレることはないだろう。彼女は他に三人後ろに連れ添っており、何やらこちらの様子を伺っている。仲間になりたいのか? そうなのか?



「部活の相談?」



「ま、まあそんなところだよ。中学になったからな。せっかくなら部活やりたいな、と」



 おい大銭。そんな話はしていなかったぞ。ニヤニヤしやがって。相手が女の子なら誰でもいいのか。それに、俺と大銭は一緒に仲良く帰宅部だと、昨日話したばかりの気がするのだが。それに今話していたのはラブコメの話だ。和製英語、ラブアンドコメディ。本場でなんて言うのかは知らないけど。



「ねえ、だったら メイド服同好会に入らない?」


  


 はい?



 俺はアホの大親友と顔を見合わせて、そうつぶやくのが精一杯だった。





 ※ ※ ※





 メイド服同好会とは秋の学校祭にて開くメイド喫茶の本格派のやつをやるためだけに作られた同好会らしい。だから部活じゃなくて、同好会。少子化は現実かと首を傾げたくなるほどの人数を抱えるマンモス校は、中学でも同好会なんてあるんだな。せいぜい高校からぐらいからだと思っていたぜ。



「えっ……」



 話の流れるままに、見学だけでもと連れてこられた被服室を見るとびっくり。流石にメイド服を着た生徒はいなかったが、制服の女子生徒が百人近くいるではないか。がやがやと騒がしい雑踏の中、チラチラとこちらを見る部員もいる。いや、しかし、え、男子いないの?



「私は昨日入部したからそれとなく説明するとね、まあ基本は自由なんだよ。同好会だし。やること決まってない感じ。真面目にメイド服研究したり、ファッションの雑誌や話をする子もいたり、ミシンしたり、手芸したり。掛け持ちの人が多いって聞いたかな? メインは秋だしね」


「質問」


「どうぞ」


「男子は?」


「いませーん。募集中だって」



 えぇ……。いや、だっているだろうよ一人ぐらい物好きな、なんか手先が器用だとか、メイド服超ガチ勢とか、なんか、ファッション? とか、とか、え? いないの、帰ろうかな……。



「え、帰っちゃうの? 入らない?」



 しーん、と静まり返る教室内。



 え、なにその無言の圧力怖い。



「す、少し見てこうぜ、もちき」


「あ、ああ」



 がやがや再開。



 いや、でもこの環境ならなんとなく誰も入らない気持ちわかるかもな。かなり勇気いるものな。ラブコメは起きるかもしれないけど、そこまで人数いなくてもね。いや、やっぱり俺は帰宅部かせめて軽音楽部とかにーー。


「一年生?」



 声をかけられた。美人だ。上級生? かな。



「昨日入部しました天滝瀬です。こっちは同じクラスで、こっちの男は小学校の時の知り合いとその連れです」


「どうも、です」



 おい、デレデレするな大銭。お前は美人なら誰でもいいのかよ。まったく。



「ああ! 昨日の! そうしたら話していた子を連れてきてくれたんだね! みんな! 昨日の、あの一年生だって!」



 え? 俺たちのことどんな紹介してるの音さん。



 がやがやと迫ってくる女子集団と入部届け……入部届け? あ、鉛筆までご丁寧に。すいません。名前はここですか、はいはい。塩谷望来。


 

 もはや断れる雰囲気にはないのであった。



 こうしてラブコメ計画を立てることも遂行するまもなく、中学の同好会生活が始まったのである。

 


 

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