第56話 敏感なところ

「「「「いただきます!」」」」


 朝からアキラがネタを仕込み、先に帰ったマコトとアキラが包んだ餃子をいただいています。豚挽き肉とキャベツと玉ねぎが入った餃子で、ニンニクと生姜もしっかりと効いています。大葉も入っており、野菜多めなため、いくらでも食べられる餃子でした。100個作ったと言っていましたが、あっという間になくなりました。


「さて、先ほどの件ですが、警察にご厄介になりましたので、しばらくは大人しくしていると思うのですが、どうですかね?」


 チンピラリーダーの人となりがわからないので、浅井さんに確認してみました。


「私も2週間ほどの付き合いしかないので詳しくはわかりませんが、お金と女の人が絡んでると面倒くさくなったと思います」


「パイセンが絡んでるので面倒くさくなるやつですね」


「でも、あのクソリーダー、『俺には付き合いたいって言ってくるやつは五万といる』って言ってましたよ。実際、講習の間何人かの女の人を侍らせていましたし…」


 チンピラリーダーがどこまで浅井さんの事を執着しているかがわからないので、なんとも言えないですね。とりあえず、今日、待ち伏せをしてでも取り押さえたいくらいには執着心があるようです。


「浅井さんにこだわる理由に何か心当りはありませんか?例えば、講習の探索の時に何か貴重なものを手に入れたとか?」


「ドロップ品や採取物の分配はクソリーダーがやっていたので、貴重品はほとんどあいつらのグループが持っていきましたよ。強いて言うなら【アイテム鑑定】のスキルオーブを手に入れたくらいですか。あとは、モンスター素材や魔石だけですね。それも全部売り払って、スキルオーブはつかっちゃたし」


 浅井さんには心当りはなしですか。そうなると浅井さん自身に執着しているということでしょうか。それにしては、一緒のパーティの時の暴言の数々はなんでしょう。鬱になるくらいまで人格否定をして、追い詰められたところで優しくして依存するように仕向けるテクニックとかですかね。


 もう一つは、唯一手に入れた【アイテム鑑定】でしょうか。それでも、ダンジョンで手に入れたアイテムは手に取ればだいたいどんなものかわかるようになっていますし、なんだったらギルドに鑑定依頼を出せばいいだけのこと…。ギルドに見せたくない、よく分からないアイテムを手に入れたとか?


 まあ、こればっかりは本人に聞いてみないとわからないことですね。


「パイセン、今日はうちに泊まっていったらいいッスよ。まだ、さっきのやつらがいないとも限らないッスから」


「そうね、悪いんだけどお願いしようかな。ちょっと家に連絡するね」


 そう言って、ケータイを取り出すとメッセージを打ち込み始めました。


「じゃあ、お風呂沸かしてくるね」


 マコトが風呂場の方へ行っている間に、僕とアキラが食器の後片付けを始めます。


「よろしくお願い……、えっ?」


 何か違和感を覚えた浅井さんがマコトに尋ねます。


「えっと、風間さんのおうちにお邪魔するのよね?」


「そうッスよ、正確にはボクとモンドさんとの愛の巣ッス!」


 ヒュッ、パシッ


 アキラの手にあった一本の箸がいつの間にかマコトの手にありました。


「えーと、ボクとアキラさんとモンドさんとの愛の巣です。もともと、ここはモンドさんの家なんですよ」


 今の説明で良かったのか、アキラが食器洗いを再開します。最近、感覚が麻痺していましたが、ここは僕の住居なんですよね。早くパーティ用の広めの拠点を手に入れなくては……。


「駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目、ぜっっったい駄目だよ。年頃の女の子が男の人の家に泊まり込むなんて!」


 そうだそうだ、浅井さんもっと言ってやってください!


「大丈夫ッスよ、モンドさん紳士ですから…」


「英国貴族のように…」


 何故かマコトとアキラにジト目で睨まれました。


「えっ、それはそれでどうなんですか?」


 浅井さんからもジト目で見られました。救援を要請します!


「こんな美女、美少女と一緒にいてなにもないなんて。この二人は好みのタイプじゃない、という事は案外私が好みのタイプだったりして」


 室温が一気に下がったような気がします。


「パイセン、生半可な覚悟じゃ足りないッスよ…」


「好きなとこを述べよ」


「えーと、最初はパーティでダンジョン探索をしている時、紳士的に接してくれるいい人だなぁってくらいに思ってた。でも、さっきの逃げてる時、涼しい顔をしてたけどちょっと汗ばんでいて、こっちは一生懸命しがみついてたからどうしても匂いがするんだけど、悪くないなって思って、気がついたらずっと匂いを堪能してた!」


「モンドさんのフェロモンにヤられたッスか」


「仕方がない」


「すみません、先にお風呂いただきますね!!」


 思ったより大きな声が出てしまったみたいで、三人はビクッとしてました。それにしても勘弁して欲しいですね、汗とか匂いとかその辺りの事はおっさんはとても敏感なのですから…。


 全員風呂から上がり、明日の予定の相談です。


「最近は遺跡ダンジョンが続いているので、明日はフィールドダンジョンか迷宮ダンジョンに行ってみませんか?」


「ボクは森のフィールドダンジョンがいいな。講習で森ダンジョンに行った時、モンドさん何か未練が有りそうだったし」


「ウチは迷宮。また、何か起こりそう」


「私も迷宮ダンジョンかな。前はいっぱいいっぱいでしっかりと迷宮を体験できなかったから」


「では、明日は迷宮ダンジョンにしましょう。森タイプの階層が出るところに行きましょう」


 明日の方針が決まり、あとは寝るだけというところで浅井さんから何か話があるようです。


「あ、あの!私の事も名前で呼んでもらえませんか。私だけ上の名前で呼ばれていると何だか、パーティに馴染めていないようで…」


「うちのパーティでやっていくということでよろしいのですか?」


「はい、このパーティがいいんです!」


「マコトとアキラはどうですか?」


「シズクっちなら全然OK!」


「シズク、ウチもアキラでいい」


「ありがとうございます、マコト、アキラさん」


「よろしくお願いします、シズクさん」


「シズクでいいです、モンド様」


 …………様?

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