第53話 お菓子作り

「浅井はお菓子作りが上手い?」


 アキラが浅井さんに唐突に質問します。


「上手という程ではないと思いますが、お菓子作りは好きですね!」



「それが原因。浅井はきっちりし過ぎ」


 ???


 話が見えません。浅井さんも困惑しています。


「ああ、言われてみればそんな感じですね!」


 マコトにはわかったようです。


「お菓子作りは1gのミス、1秒のミスだけでも味がすごく変わっちゃうんです。だから、お菓子を作る時は計量や時間の管理を科学の実験かってくらい細かくするんです」


 お菓子作りって奥が深いんですね。浅井さんもウンウンと頷いています。


「ボクやアキラさんの魔法を使うための魔力量の調節の仕方は、例えるなら、使いそうな量に近い大きさのコップを大きめのものから大体で選び、水道の蛇口を全開で捻り、コップに3分の2溜まったかな思ったくらいで蛇口を閉じて使うっていう感じです」


 ああ、魔法の話だったんですね。


「浅井さんの場合は、使う量の目盛が描かれた計量カップに目盛を確認しつつゆっくり入れていく感じで、予定量の目盛に近づくと蛇口を絞って目盛ピッタリにしてから蛇口を閉じて、予定量になっているかをもう一度確認してから使うっていう感じです」


 それできっちりし過ぎですか。浅井さんも納得がいったのか、そうかもしれないといった感じで頷いています。


「なるほど。つまり、あとは経験だけということですね」


「違う」


「浅井さんには言い方は悪いですがもっと大雑把でもいいから早い魔力量の調節を身に付けてもらいたいんです」


「いえ、それでは浅井さんの持ち味の一つが失われてしまいます。折角、魔力量の調節が上手くできているのですから、あとはひたすら魔法を撃って、使い方を体になじませる。そうすればその内、魔力量の調節を体で覚えて、正確かつ素早くできるようになるでしょう」


 僕の言葉を聞いた浅井さんはなぜかボロボロと泣き崩れてしましました。


「ウッ…グスッ…」


 今いる場所は遺跡ダンジョンの通路であるため、浅井さんをマコトに任せ、僕とアキラは前後に分かれ周囲を警戒します。幸い何事もなく時間が経過し、浅井さんは数分ほどで落ち着きを取り戻しました。


 浅井さんの話を聞いていたマコトによると、講習の時のパーティメンバーに魔法のことで遅い、グズ、使えないとさんざん言われており、浅井さんの魔法によって危機を脱した時でさえ感謝されることなく罵声を浴びせられたほどだったそうです。先ほどの会話でも同じように遅いと責められそうだった時に、自分を認めてくれるようなことを言われ感情が爆発して涙してしまったそうです。


「すみません、いつ危険が訪れるかもわからないダンジョンでの探索中に、あのような醜態をさらしてしまいまして…」


「いえ、フォローのできる範囲内だったので大丈夫です」


「ごめん」


「偉そうなことを言って、すみませんでした」


「私の方こそ、講習でのことをまさかこんなに引っ張てるなんて思ってなかったから」


 アキラとマコトは素直に謝り、浅井さんもそれを受け入れました。


「それにここで足止めになったのも悪いことばかりではないかもしれないですよ」


 通路を監視している時、壁の一部がどうしても気になっていたので詳しく調べてみます。壁をコンコンと叩いて比べてみると、一部だけ音が響くような感じがします。まるでそこだけ壁の向こう側に空間が存在するかのように。


 もっとよく調べてみると空洞がありそうな壁の右上の方に一か所だけ周りと色の違うところがありました。少し高いところにあったのでバールのようなものを使い色違いの部分を押してみました。するとスーッと音もなく壁の一部が開きました。


「浅井さん、【火魔法】を明かり程度の大きさでいいので先行させてもらえませんか?」


「わかりました」


 火の玉が隠し部屋に入っても何も起こりませんでした。少し広めの部屋のようで、奥に扉が見えます。


「さて、どうしましょう?僕としては中を調べたいところですが、危険がないとも限りません。撤退してギルドに報告するのもありだと思います」


「ボクは何があってもモンドさんに付いて行くって決めている!」


「ウチもモンドと一緒」


「私もここで足を止めたことに意味があると信じたいです」


 そこまで言ってもらえるなら、お言葉に甘えるとしましょう。


「それでは少々、僕の我儘に付き合ってもらいましょうか」


 前回手に入れた餓鬼足軽の槍を隠し扉部分に楔代わりに打ち込んでおきます。


 中に入って部屋を観察します。今までにあった他の部屋とほとんど変わらず、唯一の違いは奥にある頑丈そうな城門のような扉です。よーく視ると扉に何か描かれているようです。奥の扉に近づくと、


 メキャッ、ガリガリガリ、ゴーーンッ!


 後ろの隠し扉が閉まってしまいました。そんな予感がしたので槍を刺しておいたのですが駄目でしたか。


 兎に角、今は出来ることをしましょう、ということで奥の扉を観察すると、扉には絵が描かれていました。謎解きかと、少しワクワクしていたのですが、絵を見ると答えがすぐにわかりました。


 描かれていたのは、財宝を前に血塗られた刃を手にする一人の男と、血の海に倒れ伏した5人の男の絵でした。

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