第54話 呪家業

 囚われのある日、右手の人差し指と親指が欠けたアメリカ人を連れたダニーが淳史の元を訪れた。


 クロアナカルテルは麻薬以外にも銃の密造と販売もしている。カルテルの捌く銃は、安価で製造番号もないため、犯罪に使われても足がつきにくいと人気だ。


 連れてきたアメリカ人は、カルテルの売人から買った密造銃が銃身内で爆発し、指が飛んだと怒っていた。持ってきた拳銃の残骸から、原因は銃腔が変形していて、引き金を引いた時に前進する弾丸の動きが阻害されたため、銃身が裂けて爆発したと思われる形状だった。ダニーはこのままではブランドに傷がつくため、客へのお詫びとしてタッチさせると言う。淳史は言われた通りタッチをし、再生された指を見たアメリカ人は喜んだ。


 その後、ダニーは見せしめのために密造銃の製造者を殺しに行くと言い、アメリカ人と淳史を連れて、ジャングルの奥地へ案内した。着いた先は、ぼろぼろの小屋で劣悪な環境の隠れ家だった。そこで一組の親子が作業をしていた。ここでは親から子供へ銃の作り方を教えて、代々銃の密造で生計を立てているという。拳銃から軽機関銃まで幅広く、客の要望に応じて作成している。


 ダニーはアメリカ人の持ってきた壊れた拳銃の残骸を見せると、密造者は自分の作った銃に似ているが違う物だと言った。製造者は、作った銃の試射をしているから、何かの間違えだとダニーに訴えた。判断がつかず困ったダニーは、2丁の拳銃を取り出し、アメリカ人と製造者の頭に銃口を突き付けた。ダニーは撃鉄を起こして「おまえらのどちらかが嘘をついている。どちらかが白状したら二人とも助けてやる。本当のことを言わないと二人とも死ぬことになる」と脅すと。アメリカ人が、本当は別の組織から買ったと白状した。嘘をついた理由は手を治してもらいたかっただけだった。アメリカ人から組織の名前を聞き、彼を解放したダニー。


 ダニーはすぐに不良品の銃をクロアナカルテルのブランドと偽って売っていた組織を叩きに行くと言い、仲間を連れて去っていった。


 喧嘩の道具として作った銃が喧嘩の原因になり、さらにその喧嘩にその銃が使われる現状を目の当たりにした淳史は、淳史の目から見た正義はどこにもないと感じていた。さらに、親から銃の作り方を教わる10歳ほどの子供を目の前に、何もできない自分を責める淳史であった。

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