第48話 本領発揮

 囚われのある日、ヘリコプターからプライベートジェットに乗り換え、給油地を挟み、2日間移動すると、密林の中に突如現れた滑走路に着陸した。


 飛行機を降りると、淳史の元へ一人の男が親しげに寄ってきて、持っていた葉巻やテキーラを進めてきた。誘拐されたわりには歓迎されているようだ。男が説明してきた。ここは中南米メキテマラ共和国で、自分は麻薬組織クロアナカルテルの最高幹部であるダニーだと名乗った。ダニーは中東での一件をすでに知っていたのか、自分自身の治癒能力もあるとはすごいと称賛してきた。淳史はおそらく今回だけだと言おうとしたが説明をするのをやめた。


 淳史の能力を待ってましたと言わんばかりに肩を組んでくると、そのまま車に乗せられてしばらく走ると、小さな村の診療所に到着した。診察室に通されると、ダニーと医者らしき人が親しげに話をしていた。その後、医者は淳史に話しかけてきた。


 1年前、ダニーが所有する大麻畑に、政府がセスナ機を使って強力な除草剤を空中から撒いた。すると、近くにいた多数の作業員が薬剤を浴びて悪性リンパ腫のガンを患ってしまったそうだ。そこで淳史に治してほしいと言ってきた。ダニーの組織にも政府にも色々と思うところがあったが、淳史は早速、光の中で会った神に言われた通り、腫瘍の位置を意識しながら取り除くようにイメージしてタッチしてみた。確かにあまり疲れることなく治せたようだ。そのまま10人の作業員へタッチして、救うことができた。その中にダニーの甥っ子もいて、ダニーから感謝の言葉を受けた。


 その後、診療所の医師が、親指が欠けた自分の手を見せてきて治せるかと聞いてきた。今までは出来なかったが、こちらも神に言われた通り、頭に描きながらタッチしてみたが、なぜか修復すことができなかった。淳史はもう一度神の言葉を思い出そうとしてみた。『人体の構造を理解し、詳細に』と言っていたことを思い出した。淳史は診察室を見渡すと、本棚にあった人体解剖のテキストを手に取ってページをめくり始めた。指先の骨格や筋肉、毛細血管や神経などのイラストをよく見て、頭に入れてもう一度タッチしてみた。すると、親指の切断されていた個所から、新しい細胞が生えるように伸びていき、爪まで綺麗に再生された。全てを見ていたダニーが、笑顔で淳史に向かって、「その力を使って一緒に大きく稼ごうぜ」と言ってきた。しかし、淳史は断り、開放してほしいと言ってみた。するとダニーは突然表情を変えて「選択肢は無い」と言ってきた。


 淳史は車に乗せられて、また囚われの日々が始まると察した。淳史はダメもとで、診察室にあった人体解剖のテキストが欲しいと言ってみると、ダニーは受け入れてくれた。

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