第19話 厳正厳格厳重厳戒
ある日、使命感が強すぎるあまり、一人の男に悲劇と苦悩が襲うこととなった。
国交大臣の鶴子が、建設されたばかりのショッピングモールと役所が併設された建物を視察中に、ダム建設反対と書かれたベストを着た暴漢がナイフを持って襲ってきた。
すぐ横にいたSP勇太33歳が鶴子をかばうように体を入れて、代わりに腹部を刺されてしまった。犯人は別のSPによって取り押さえられたが、勇太は重体だ。
勇太は裏手に担ぎ込まれて救急車を待つ間、薄れゆく意識の中で妻と2歳になる娘を思い出し、もう一度強く抱きしめてあげたかったと願っていた。
鶴子は、大臣に就任してから警備をしてくれていて長い付き合いの勇太を放っておくことができず、スマホで電話を掛け、タッチしてあげてほしいと真千子にお願いをした。
連絡を受けた真千子は、たまたま近くにいるからショッピングモールへ向かうと返事をした。到着した真千子と淳史は勇太の元へ走り、間一髪タッチが間に合い、回復した。
勇太は上司から、今日は休めと言われるも、使命感の強い彼は「どんなに卑劣な手を使ってきても警察は屈しないと主張したい。職務の性質上、妻には最悪の事態も想定させています。まだ勤務中だから応援が来るまでは警備に付かせてください」と願い出て、服を着替えて鶴子の警護に戻るのであった。
復帰した勇太に気付いた鶴子は、「あんた大丈夫なの?」と声を掛けると、勇太は「お気遣いありがとうございます。自分SPですから」と武骨な返事をすると、鶴子は、なんてタフガイなの?と思い、ニヤリとした。
その後、視察とセレモニーが終わった鶴子が帰ろうとすると、偶然買い物に来ていた、何も知らない勇太の妻と娘が、鶴子と勇太の目の前に現れた。2歳になる娘がヨチヨチ歩きで勇太へ近づき「パパ パパ」と言いながら抱っこをねだってきた。勇太は暴漢に刺された時、死の直前であれほど妻と娘を抱きしめたいと願ったが、今は職務中で抱えてあげることができないと苦悩した。職務に忠実な勇太は公私混同しないと見透かした鶴子は、代わりに娘を抱え上げ、「あなたのパパはヒーローよ」と声を掛けるも、父親に近づけない娘は不機嫌なまま、その場を離れていった。
応援の警察官も来たからと、鶴子は今すぐ職務を解いて今日は休ませるよう勇太の上司に要求した。
上司が勇太に、「今日は直帰していいぞ」と声をかけると、死に際を救ってくれたことと、職務中で娘を抱けない苦悩から解放してくれた鶴子に感謝を込めた深い会釈をしてから、ネクタイを外しながら妻と娘の後を追って走り出す勇太であった。
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