第16話 できる男
ある日、できる男の
ここまでの話でまだ一度も触れていなかったが、真千子のそばには常に秘書の正則がいる。陰ながら真千子を支える存在だ。
財団設立以前は、鶴子官房長官の秘書として政治家になるべく修行していたが、淳史のタッチに惚れ込んで財団への転職を決めた。
常に「秘密保持に関する誓約書」の束を持ち歩き、タッチを受けた人や淳史の顔やタッチの光景を見た人に対し、口外しない誓約を丁寧にお願いして回っている。了承せずサインしてくれない人へは、改めて菓子折りをもって訪れ、イカロスの信念や、タッチが世界に与える影響を滾々と説明して説得している。中にはそれでも頑なにサインしてくれない人がいる。そんな人への殺し文句は。
「私はあなたのお名前を憶えておきますよ。もしあなたに何かあって当財団の抽選枠へご応募された場合、きっと私は気づくと思いますよ」
こんな職務規定違反ギリギリの言葉で攻めると、どんな相手も機嫌よくサインしてしまう。
そんな今日の正則は誓約のお願いで焼津に来ているわけではない。毎年、お歳暮として各所へ配る干物セットの現物確認のために焼津まで来たのだ。
「ここまで来るのはおめぇだけだ」と喜ぶ
年末に感謝を伝えるために贈る物を、購入させていただく感謝のために菓子折りを持参する抜け目のない正則。
真アジ以外にも甘鯛や鰆を入れ込んだ正則厳選スペシャルセットが決まり、焼津を後にした。
帰りの新幹線こだまの車内で、手土産にもらった干物が臭ったら周りに悪いと、デッキ部分に立って帰路につくスマート&シャープな男・正則。
秘密保持に関する誓約書
公益財団法人イカロス 理事長 殿
私は、公益財団法人イカロス(以下、「財団」という)に対して、以下の通り誓約いたします。
1.タッチを受ける又は目撃するにあたって、知りえた情報や財団関係者の個人情報等(以下、「秘密情報」という)を財団の事前の許諾なしに、第三者に開示、漏洩又は譲渡しません
2.私は、秘密情報を財団より承認を受けた目的以外には使用しません。
3.私は、タッチまでの経緯及び、タッチ時の状況や周りにいた関わりのある人物等の公言・公表をいたしません。
4.私は、本誓約書に違反して、秘密情報を漏洩し財団に損害を与えた場合には、法的な責任を負担するものであることを確認し、これによって財団が被った一切の損害を遅滞なく賠償することを約束します。
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