第10話 尊敬と畏敬の念
話は現在に戻って、財団設立3年目のある日、淳史は休みの日曜を利用して行きつけの動物園に来ていた。一日の大半を過ごすお気に入りの場所が、動物ふれあい広場である。淳史はここで体調の悪そうな動物を見つけては近づいていき、人知れずタッチをしては元気になった動物を見て癒されている。そんなことを続けていると、いつしか動物たちは淳史が来園すると気配や匂いを感じとり、すり寄ってくるようになっていた。
そんな淳史と動物たちの絆を遠くから見守っていたベテラン飼育員の
淳史はふれあい広場から出て、園内を歩いていると、展示スペースの奥にいた体調の悪そうなゾウの姿を目にした。淳史はちょうど近くにいた文世に、ゾウに触れさせてくれないかと提案すると、
「あの子はね、もう60歳にもなっていて自身も寿命が近いと感じているんだ。それに、周りの家族や仲間もそれを感じて、鼻をすり合わせながらお別れを言い合っているのがわかるから、君の力は必要ないよ」と断られてしまった。
代わりに、近くにあった壊れそうなベンチを一緒に直してほしいと言う文世に、淳史は了承した。文世が修理道具を取り行くと、壊れたベンチに一人の中年女性が近寄ってきた。するとその女性は修理中と書かれた紙が貼ってあったにもかかわらず、疲れた様子で無理に座ってしまった。すると、ベンチが完全に壊れ、女性はケガをしてしまった。修理道具を持って戻ってきた文世に対して、動物園を訴えると女性は怒り狂い始めた。それを見ていた淳史は、周りや本人にばれないよう、後ろから回り込んで、ケガをした女性にタッチをした。ケガが治り、痛みが無くなった女性は何が起きたのかわからず戸惑うが、後には引けず、悪態をつきながらその場を離れていった。
淳史が女性にタッチしたのだと気づいた文世はお礼を言うと、淳史は照れくさそうに何のことかととぼけた。その後、二人でベンチを直すと、文世はもう一度淳史にお礼を言った。
翌日、淳史は真千子からプライベートで人にタッチをするなと言われていたが、約束を破ってしまったことを事後報告して、謝った。すると真千子は、自覚が足りないと淳史を叱るが、初めて自主的にタッチをしたことに対して、少しの喜びを感じていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます