オトコ、立ち上がる2
単に奴隷された人を支援する活動なら行商をしていても可能だろう。
しかしシギサにさらわれた人を探して、保護していこうと思えば行商しながらよりも腰を据えてやった方が都合がいい。
情報を集めて人を派遣したりするならどこかに固定で活動していた方がやりやすいのでシギサの財産を使って店を持ち、そこで奴隷解放活動をするつもりであるのだ。
少なくともシギサの築いてきたものを上手く奪えれば商売はやっていける。
「じゃあ私は……」
「いえ、テユノは兄貴たち一緒に行ってください」
「でも……」
ロセアはテユノが何を言おうとしているのか先に察した。
「旅をするのに経験が少ないから僕と一緒に行くことになったんです。
テユノは旅をしていけるだけの色んな経験をしています。
それに兄貴たちと一緒なら大丈夫でしょう」
「あなたを守ることだって私がやらなきゃ」
「それもいいんです。
お金もありますし、こんな状況で僕に手を出す人なんていませんよ。
それに……僕は1人で立たなきゃ。
そうしないといつまで経っても甘えてしまう」
「ロセア……」
外での経験が浅く1人でいることが心配されるからロセアとの同行を条件に付けられた。
ロセアを守り、その代わりにロセアが外でのことを教えたりやることでこれまでは旅を進めてきた。
ロセアが留まるならテユノも留まることになる。
けれどそうなるとテユノの意思はそこになくなってしまう。
ただ旅というのは本来自由なものだ。
行きたいところに行き、旅をしたい人と旅をする。
テユノはまだ世界を見るべきである。
ロセアのワガママで拘束してはいけない。
さらに強いテユノがいてくれることでロセアはそれに頼ってしまう。
テユノも成長してより強い人になったように、ロセアも1人でしっかりと前を向いていける商人にならねばならないのだ。
今ならリュードたちがいるので都合もいい。
「僕は1人でもやっていかねばならい。
いや、やっていってみせます!
しばらくは冒険者でも雇います」
なんだかついでにテユノがリュードたちと旅することになる流れになっているなとリュードは頭の隅で思った。
「……分かったわ。
何かあったらいつでも連絡ちょうだい」
「はい。
でも次にお会いする時には絶対に立派な商人になっています」
「期待してるわよ」
「はい。
それにこれは何もできなかった僕なりの復讐でもあるんです」
「復讐だって?」
「シギサは捕まりましたが僕はほとんど何もしていません。
シギサの財産を奪って商売をすることもそうですが奴隷にされた人たちを助け出して、シギサのやったことをみんなに知らしめてやりたいと思います。
これが僕なりの復讐です」
シギサの行った悪行を正す。
シギサのお金で商売を成功させ、奴隷にされた人たちを探し出して助け出す。
仮に手遅れでも家族を探して償いをする。
ただの自己満足かもしれないけれどロセアなりのシギサに対する復讐なのである。
いいんじゃないかという意味を込めてリュードはロセアの肩に手を乗せてうなずいた。
シギサを殺すと怒りに飲まれていた時よりもよほどいい復讐の仕方である。
奴隷を追えば危険な目にも遭うだろう。
けれどロセアはそのことも承知の上でやるつもりなのだ。
男の覚悟、応援してやろうと思う。
ただロセアの戦いは孤独なものではない。
アシューダとゴマシがロセアの考えに賛同して共に活動することになった。
助けられた恩もあるので仲間として恩を返しながら一応商人としての先輩であるロセアに習いつつ商売をしていくらしい。
ラソレドンのほうも奴隷を助けるための活動をするしアシューダがいるということで支援してくれる。
新たな仲間を得て、ロセアは再出発することになったのだ。
もちろんロセアが何かをするまでもなくシギサがされた報は小国連合の中であっという間に広がって衝撃を持って受け止められた。
同時にシギサのことから端を発する奴隷売買に関する厳しい調査も行われた。
何人もの商人や冒険者が逮捕されて、さらにその過程でビドゥーの名前も度々登場していた。
慌ただしく商売の準備をするロセアを手伝って、そして別れた。
まるでちょっと別の場所に行くかのように軽いお別れだった。
次会う時にはロセアは一人前の商人となっていることだろう。
「それで、さ」
リュードと共に旅を続けていたロセアが口を開いた。
「どうかしたか?」
「や、そのね、なんとなーくでここまで来たけどさ。
やっぱりちゃんと言わなきゃダメじゃない?」
モゴモゴと歯切れ悪く、少し照れくさそう。
何が言いたいのかすぐにピンときたがここで水を差すことはしないで最後まで聞いてやる。
胸に手を当てて深呼吸するテユノにコユキも空気を読んで背筋を伸ばす。
「お、お願い!
私も一緒に連れていって!」
顔を真っ赤にして叫ぶ。
リュードとルフォンが旅に出る時に些細なプライドが邪魔をして言えなかった言葉。
本当はテユノも一緒に行きたかった。
リュードとだけではない。
ルフォンは誰にでも分け隔てなく、そして同年代や上の世代を見てもテユノと良いライバルだった。
もっと仲良くなって、もっと互いを高め合える関係になれたらと思っていた。
無性に恥ずかしくなって、みんなと目を合わせられなくなる。
多分何も言わなくてもこのまま旅も続けられた。
自然と一緒に行って、きっとリュードたちがそれに触れることはない。
だけどそうはしなかった。
胸を張って一緒に旅をしていると言いたかった。
「……俺はもちろん歓迎するよ。
みんなは?」
「テユノがならいいかな?
でもリューちゃんは渡さないよ?」
「グヌヌ……またライバルが増えるのか。
しょーがないなぁ」
「よろしい!」
ルフォン、ラスト、コユキもテユノが旅の仲間に加わることに賛同する。
「……うん!
ありがとうみんな!」
テユノが仲間に加わった。
しかしリュードは思った。
女性しかいないな、と。
いつぞや言われていたハーレムパーティーの王という不名誉なあだ名が否定できないものになっている。
男としては幸せなことなのかもしれないけれどほんの少しの肩身の狭さを感じずにはいられないリュードなのであった。
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