思わぬ関係3

 男は気を失いながらもひどい脇腹の痛みにうめき声をあげている。


「クソッ、この女!」


 仲間がやられたことに逆上してもう1人の男がテユノに切りかかる。


「一生反省して生きることね」


「えっ……」


 剣を振り下ろしたはずだった。

 なのにいつまで経っても剣が目の前に現れてこなくて男はぼんやりと理由を考えた。


 なぜなのか。

 それは手首から先がなくなっているから。


 剣を持っていた手が見えなくて男は一瞬の間にグルグルと頭の中で思考した。


「命だけは奪わないであげるわ」


 男の手首はテユノに切り飛ばされていた。

 手首が切り飛ばされたのだとようやく理解した男の頭にテユノの槍がめり込んだ。


 男の口から歯が飛んでいき、大きくグルンと体が回転しながら転がっていき最初にやられた男の隣に激突した。


「ふん、口ほどにもないわね」


 と言いつつもテユノは少しスッキリした顔をしている。


「ヒッ、ヒィィ!」


 この2人の男は結構な実力者だった。

 奴隷商人御用達の汚れた仕事をやる仕事人だった。


 それがあっさりとやられてしまった。

 ダッチは想像もしていなかった結末を目の当たりにしてリュードたちに怯える。


「久しぶりですね、シギサさん」


「おお、お前、何でここに……」


「生きて帰ったんですよ。


 アナタに復讐するために」


 信頼していた分怒りも深い。

 感情を抑えきれずにロセアの体が魔人化していく。


「な、なんだ!?」


「返せよ……」


 ルフォンやラストは心配そうにリュードの方を見たがリュードは黙したまま動かない。

 いつでも止められるように心構えはしておくがある程度ロセアの自由にさせる。


「返せよ!」


 ロセアはへたり込むシギサの胸ぐらを掴んで持ち上げる。

 シギサもそれなりに身長はある方だが足の先も床についていない。


「ぐっ、か、金か?


 金ならある!


 好きに持っていくといい!」


「金なんていらない!


 物を返せよ!

 僕やテユノの装備品や村を出る時にもらった思い出の品とか全部!」


 お金はまた稼げばいい。

 けれど愛着のあるものとか、ロセアの父親がくれたお守り、テユノの武器、お金じゃ買えないものがある。


 出来るなら信頼とか失った時間も返せと言いたいところだけど神様でもない限りは不可能なので諦める。


「返せ、返せよ!」


 前後に激しく揺さぶられるシギサ。

 死にはしないだろうが首はムチ打ちになりそうだ。


「ま、待て!


 いくつか、物なら、まだ、ある……」


 シギサは揺さぶられながら何とか答える。


「なに?」


「中々……中古の品物を売るのは面倒で。


 まだ残っているものがある……」


 揺さぶられすぎて気分が悪くなり、吐きそうになっているシギサは息も絶え絶えに答える。

 シギサは行商人であって基本的に中古品の装備などを扱う仕事はしない。


 売らないこともないのだけどそんなにたくさん安い装備品を売れば不自然に映る。

 お金に困ってもいないので機会を見て少しずつ売っていた。


 誰の何を売ったのか細かに管理はしていないのでどれぐらい残っているか思い出せないが古い物も割と残っているので十分に残っている可能性がある。


「どこにある!」


「家の横にある倉庫だ。


 奥の鍵のかかった部屋……鍵はデスクに」


 最後まで言い切る前にロセアはシギサを思い切り投げ捨ててデスクに向かった。

 引き出しの中から鍵を見つけると倉庫の方に走っていった。


 リュードたちもシギサは他の人に任せてロセアを追いかける。


「どりゃああああ!」


「鍵は!?」


 思わずラストが突っ込んだ。

 倉庫奥の木のドアの部屋にロセアが体当たりをした。


 せっかく鍵を取ったのにそんなことも関係なくドアを粉々に破壊して中に入った。

 気持ちが焦りすぎて移動の短い間に鍵のことも忘れてしまっていたのだ。


 魔人化した大の男がぶつかれば木のドアぐらい無いも等しかった。


「どこだ!」


 部屋の中には所狭しとものが積まれていた。

 リュードはそれを見ていかに多くの人を騙してきたのか想像ができて顔をしかめる。


 所持品まで売って金にするシギサの根性の悪さにはむしろ感心すらしてしまう。

 みんなも協力して荷物を漁る。


 テユノとロセアの荷物がどこかにあるはず。


「あ、あった!」


 テユノが自分が愛用していた胸当てを見つけた。

 さらに探してみるとその近くに2人の荷物がまとめて置いてあった。


 荷物の中を確認する。

 いくつか簡単に売れそうなものは無くなっていたが返して欲しかったもののほとんどは無事なまま返ってきた。


「良かった……」


 ロセアが取り出したのは秤だった。

 商人の先輩でもある父親からもらったお守りでもある品だった。


 全てが終わった。

 緊張が解け、興奮が収まってきてロセアの目から涙が流れ出した。


 シギサへの怒りもあるが大切なものを取り戻したいという思いの方が強いロセアを見て、リュードはよほどその方がロセアらしいと思った。

 他に探してみたがロセアの槍は見つからなかった。


 品質もいいものだし売られてしまったようであった。

 テユノは怒っていたけれどリュードからもらったドワーフ製の槍がある。


 どちらがいいのか正直な話では困るところなのでなくても良かったと思えてしまうところは少しだけあった。

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