海産物でも魔物です2

 どうにも動きが違う。

 針が忙しなく動いて突撃の力を溜めるような感じではない。


「な、なんか回ってるにゃ!」


「なにあれー!?」


 針で動き出したウニはその場で回転し出した。

 少し大きくなっただけでなく行動も変化している。


「避けろ!」


 そして回転の勢いも生かしてウニが飛び出した。

 ただ突撃してきた時よりも速い。


 リュードは1発でタイミングを合わせて剣を振り下ろしたがガガガと激しくぶつかり合う音がしてリュードもウニも互いに弾かれてしまった。

 針がバラバラと折れて散らばるがウニを倒すことには失敗した。


 高速回転するウニは跳ねるように飛んでいってトドメまでさせなかった。

 回転が速すぎて針の奥の本体まで剣が届かない。


 威力も速度も1段階上で回転のおかげで防御性能まで上がっている。

 まともに剣をぶつけると剣の方も無事ではいられなさそうだ。


「ふん、私を舐めないでよ!」


 ここでもラストが活躍する。


 縦なのか横なのか知らないがコマのように回転しているので軸となる方向は回転していない。

 方向的には縦に回っているので横は回っていない。


 ラストは高速で飛んでいるウニの側面を正確に矢で射抜いた。


「いいぞラスト!」


「ラスママつおい!」


「ハッハー!


 私の力をとくとご覧あれー!」


「ラスト後ろだ!」


「えっ?


 きゃあ!」


 調子に乗ったラストの後ろから高速回転するウニが飛んでくる。

 矢を射ることに夢中になって完全に注意散漫だった。


「やっ!


 ……うっ!」


「ルフォママすごい!」


「ルフォン助かったよ、ありがとう!」


「いててぇ〜無事ならよかったけど気をつけて」


 ルフォンもラストを見習って槍をウニの側面に突き刺した。

 けれどそれじゃすぐにウニの回転も突撃も止まらず持っていた槍の方が回転し始める。


 手を持っていかれそうになって放したけれど手のひらが擦れて赤くなる。

 槍が刺さったまま壁にぶつかったウニは動かなくなったが動くウニを突き刺すことは危険そうだと分かった。


「ウニのくせに!」


 リュードが飛んでくるウニに合わせて思い切り剣を振り下ろす。

 針と剣がぶつかるひどい音がするが今度はパワーもスピードも乗った剣にウニがそのまま地面に剣で押さえつけられる。


 均衡は一瞬でウニの回転が強制的に止められてリュードの剣がウニの針ごとウニを真っ二つに切断した。

 リュードの剣はドワーフ特性。


 ウニの針ごときでダメになる一本ではない。


「ここを、こう!」


 側面を攻撃すればいい。

 他の冒険者にはちょっと難易度が高くて怪我の危険性があるのでリュードが引き受ける。


 回転していない側面をリュードが剣で攻撃するとウニは針をクロスさせて防ごうとする。

 結果的にリュードの剣は防げるのだけど壁に叩きつけられてウニの動きが止まる。


 その隙を狙って動き出される前に冒険者たちがウニを倒すのだ。

 相変わらず近いものを攻撃する習性は変わらないので対策は立てやすかった。


「ちょ、もー分かりにくい……」


 ウニを倒して一息つく。

 ラストは矢の回収をするのだけどなんせトゲトゲしているウニ相手では矢がどこに刺さってるのかも分かりにくい。


 結構他の冒険者たちはギリギリでの回避だったので細かい切り傷とかが多くてコユキがせっせとみんなのことも治していた。

 もしかして治されたくてわざと少しだけケガしている説もリュードの中で疑いがあったけど一歩間違えれば大怪我なのにそんなことするはずないかと思い直す。


「まあ予想はしてたけど……予想外」


「ゴホン……あれはルデガシダですね!


 海の中に住んでいる蔓のような魔物です」


 もう魔物の解説しかやることがないナガーシャ。

 水系の魔物しか出ないので水魔法が通じず魔法での支援も出来ない。


 そしてウニを倒しながら進むとさらに魔物が増えた。

 魔物が増えることは予想していたけどどんな魔物が出るのか頭の中で想像を広げていた。


 どんな海産物が出てくるか期待に胸を膨らませていたと言ってもいい。

 そして出てきたのは黒い塊。


「……よく知ってるよな」


「水棲の魔物には詳しいのです!」


 なんでも聞いてくださいと胸を張るナガーシャ。

 サッと見ただけでなんの魔物か判別できる能力はすごい。


「あれなんなのかもうちょい教えてくれるか?」


 リュードは黒い塊を指差す。

 ぬらぬらと濡れたような見た目をした黒い塊はなにかをぎゅっと固めたように見えた。


「ルデガシダは海の底に住んでいましてツタにも似た触手を使って攻撃などしてきます。


 地上でもそうしたツタの魔物は存在していますがそうしたものの亜種ですかね。


 触手はしなやかで意外と強力ですよ」


 ドヤ顔で説明するナガーシャ。

 説明を終えて一仕事終えた感を出している。


 そうした情報もいいけど倒し方とかも教えて欲しいものだ。


「触手……あーなるほど」


 リュードたちに気がついてルデガシダが動き出してその正体が分かった。


「コンブね、あれ」


 シュルシュルと動き出した触手はどう見てもコンブだった。

 平時は丸く固まっているのかただの塊に見えたが触手を伸ばすとそれはまごうことなきコンブ。


「うおっと!」


 コンブの動きを観察する。

 うにょうにょと触手を動かしているけど襲いかかってくる気配はない。


 ホタテと同じく動く機能がないのかもしれない。

 試しにもうちょっと近づいてみようかと思った瞬間、コンブの影からウニが飛び出してきた。


 咄嗟に回避したけれどかわしきれずに頬をかすめて軽く血がにじむ。

 完全に黒いコンブの塊の影になっていて気づかなかった。


「治す!」


 けれどもそんな傷も一瞬で治ってしまう。

 コユキの神聖力による治療である。


「コユキ、ありがとう」


「ふすー!」


 鼻息荒くうなずくコユキ。

 例え紙で指を切ってもコユキは治してくれるだろう。


「みんな気をつけろ!


 コンブの下にいるぞ!」


 そうしてよく見ると他にもいるコンブの塊の影にウニがいることに気づいた。

 コンブの影から次々とウニが飛び出してくる。


 どうにもいないと思った。


「お前ら食べられる側だろ!」


 ウニとコンブ。

 前世的な考え方ではコンブはウニにとってゴハンになる。


 自然の世界ではそのような関係であるはずなのにここでは仲良く共闘している。


「リューちゃん後ろ!」


「むっ!」


 リュードは振り返り様に剣を薙ぎ払いウニを弾き飛ばす。


「完全にお仲間だな……」


 視野を広く保ってウニの動きには注意していた。

 真後ろからリュードの方に来ることができるウニはいなかった。


 なのにどうやって後ろから飛んできたのか。

 それにはコンブが協力していた。


 これまで触手を伸ばすだけで攻撃もしてこないコンブ。

 何をするんだと思っていたがコンブは攻撃するでもなく触手を伸ばしていた。


 リュードの後ろに回り込むように伸ばされたコンブ。

 ウニはそのコンブを利用した。


 コンブを壁のようにして跳ね返って軌道を変えてリュードを後ろから襲撃したのであった。

 やや伸縮するコンブはウニにさらに勢いをつけて素早い方向転換とこれまでになかった角度をつける。


 体勢を立て直そうとするがコンブのせいで意識していない方向からウニが飛んでくるようになった。


「クソッ、厄介だな!」


 リュードがウニを弾き返すが弾き返した先にコンブが待っていた。


「んな、アホな!」


 コンブがしなりウニを再びリュードに打ち返す。

 どんな連携の取り方だと困惑しながらウニの側面を切り付けて壁に叩きつけた。


 戦いのめんどくささがハンパない。


「ふざけんな!」


 コンブはただウニの補助をするのでもない。

 コンブはコンブを伸ばしてリュードを攻撃してきた。


 ムチのようにしなるコンブを叩きつけてくる。

 仮に本物のコンブでも勢いをつけてそれで殴られるとかなり痛い。


 カニとホタテもそうだが妙な連携をとってくる。

 生態としては面白いが戦ってみるとバカにできない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る