リュード、パパになる2
コユキは手を伸ばしてリュードに抱っこを要求するがルフォンの方がそれを許さず抱っこする。
別に危害を加えてくるのではないから抱っこぐらいいいのだけどコユキはリュードに抱っこされるとニッコニコしてスリスリと甘える。
小さい女の子だけどちょっとだけメスを感じてルフォンも警戒していた。
ルフォンの抱っこも嫌じゃないらしく唇を尖らせて頬を膨らませながらも拒否はしない。
こう見ていると非常に可愛らしく父性を刺激される思いがするリュードだった。
興味本位で伸ばされた手にリュードが指を近づけてみるとキュッと指を握ってコユキが笑う。
幸せな夫婦みたいで照れくさくなる。
「ふぅ……判断は任せる」
ウィドウは思考を放棄した。
コユキが何者だとか敵じゃないのかとか考えても答えは出ない。
神物を取り戻せた、それでいい。
神物という人知を超えた代物を相手取った冒険だったのだから自分には思いもつかない何かが起きてもそれは神のみわざであると思うことにする。
それにリュードとルフォンに懐いている。
ウィドウがどうこうするよりも2人に任せる方がいい。
人の親でもあるウィドウにはコユキぐらいの女の子に関する決断をするのも楽ではない。
判断を押し付けられたリュードだったがとりあえず連れて行くことにした。
何となくだけど神の世界からの去り際の言葉、イレギュラーなことというのがこのコユキのことでないかと思っていた。
そのまま雪原のど真ん中に自分をパパと呼ぶ女の子を放置していけるサイコパスでもない。
少なくとも今は敵ではない。
「しかし不思議な子ですね」
「不思議なところをあげたら山のようにある。
どこの不思議さを指して言っているんだ?」
「この子からは魔力を感じません」
「代わりに神聖力は感じるにゃ」
「そうですね、それが不思議なのです」
生物のみならず世界にあるほとんどのものは魔力を持つ。
この世界で魔力を持たないのは特殊なものか、聖者ぐらいのものだ。
コユキからは魔力は一切感じない。
けれども強い神聖力を感じている。
つまりはコユキは聖者ということになる。
神に愛されしもの。
「……どんなことを言ったって仮説の域はでないのだけどさ、この子はやっぱりダンジョンのボスだった五尾のキツネかもしれないな」
長いこと考えていたブレスが口を開いた。
「どういうことだ?」
「キツネたちが扱っていたあの炎……聖火の性質によく似ている」
「消えない炎か」
神聖力による炎は魔力で作ったものよりも遥かに消しにくく消えない炎となる。
白キツネたちが放った炎は相手を燃やし尽くすまで消えなかった。
その点でいくと聖火のような性質を持っていた。
さらに五尾の白キツネからはわずかに神性や神聖力のような物を感じた。
神物がある場だったので確証はなかったけれどもしかしたら五尾の白キツネは神聖力も使っていたのかもしれないとブレスは思った。
「となるとだ。
五尾の白キツネが倒されると魔力はダンジョンに還るんだけど、もし神聖力を持っていたとしたらその神聖力はどうなる。
ダンジョンに還るのか、それともダンジョンには神聖力を吸収する力なんてないのか」
日が暮れ始めたので野営の準備をしていて、ちょうど終わったところ。
コユキは座るリュードの膝の上に飛び乗った。
「ダンジョンは魔物を再生してまた出現させる。
ダンジョンが神聖力を吸収出来ないのだとしたら余ったエネルギーである神聖力をどうにかしようとしたのかもしれない」
「……何が言いたいにゃ?」
「つまりだ。
あのダンジョンの魔物は神物由来の神聖力を持っていたけどダンジョンは神聖力を吸収できないのでさっさと魔物にしてしまおうとした。
そこでまだボスである五尾の白キツネに生まれ変わっている最中に……」
「俺たちがダンジョンを攻略して消しちゃったと」
「そゆこと」
魔力をエネルギーの主とするダンジョンが神聖力を扱えずに消える時に吐き出す形となった。
それがコユキ。
とても面白い仮説だとリュードは唸った。
魔力を持たないのも、聖者と呼べるほどの神聖力を持つのも、中途半端な大きさなのも納得はいく。
「何でリュードがパパなのかまでは知らないぞ?
それは神様に聞いてくれ」
神にすらイレギュラーな出来事。
聞いて答えが返ってくるか疑問である。
「何でリューちゃんがパパで、私がママなんだろうね。
……悪くないけど」
ちょっとリュードに甘えすぎなところは気になるがママママと甘えてくるのにはルフォンも段々とやられていた。
ほとんど心は掴まれている。
「何でだろうね?
ルフォンはやっぱミミかな?
ちょっと違うけど似た感じはしてるもんね」
リュードはルフォンとコユキの耳を見比べる。
オオカミとキツネのミミでは違うのだけどどちらもフワフワとしていて形的にはそう遠くない。
尻尾もあるしざっくりとした容姿の特徴はルフォンが1番よく似ているといえる。
「えぇ〜それだけ?」
「子供ならそんなことでも十分かもな」
「私の溢れ出る母性ってこともあるかもよ?」
「ミミなら私にもあるにゃ!
ほら、ママですにゃー」
ニャロがコユキに近づく。
「ちがう」
プイとニャロから顔を逸らしてしまうコユキ。
ネコ系のニャロではミミも尻尾もタイプは違う。
「うっ!
冷たくてグサリとくるにゃ!」
「まっ、ニャロだとちょっと違うな」
「ほーら、ママですよ〜」
何を思ったか今度はラストがチャレンジ。
どこら辺に勝機を見出しての勝負なのか。
またキッパリと拒否するのかと思っていたらコユキはラストをジッと見つめる。
どこを見ているのか。
視線はやや上を向いている。
顔ではなく頭。
でもラストにミミはない。
コユキはイジイジと自分の髪をいじり、ラストの髪を見る。
「ママ!」
「そうだよ、ママだよー!」
「なんでにゃ!」
笑顔になるコユキ。
ドヤ顔になるラスト。
「これが私のぼせーってやつよ!」
(あれだな、髪色だな)
ラストに母性を感じて母だと思っている、と考えるのはラストだけ。
コユキの行動を見ていれば分かる。
髪色でママだと判断したと。
「はーはっはっはっ!
私がママンでリュードがパパンだよー!」
「怖い……」
「はっ、ご、ごめんねー!
そんなに怯えないでぇ〜」
調子に乗りすぎたラスト。
コユキが怖がってサッとルフォンの後ろに隠れる。
どちらかといえばルフォンママの方がいいみたいだ。
「母性……ね?」
「あー!
その顔ムカつくぅ〜!」
「こらこら、怒るとコユキが怖がるぞ」
「ぬぅ〜!」
ちょっと勝ち誇ったような顔をしているルフォン。
コユキの正体が何であれ、何でもいいかと思わせられる明るい雰囲気がみんなの中にあった。
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