熱き砂浜の戦い8

 エミナはリュードから預かっていたマジックボックスの袋をリュードに渡す。

 人目はあるけれど緊急事態だし魔物騒動でリュードたちを見ている人はいない。


 一応周りを気にしつつリュードは袋に手を突っ込んでナイフを取り出す。

 それをルフォンに渡してまた袋に手を入れると今度は自分の愛剣を取り出す。


 備えあれば憂いなし。

 スナハマバトルの会場には武器持ち込み禁止だったので袋の中に入れてスナハマバトルを見に来てくれていたエミナに預けていた。


 武器を身の回りに置くのはもはや習慣である。

 海で遊んでいる時も荷物をマジックボックスの袋に入れて、それを水が入らない密閉できる袋に入れて身につけていたぐらいだ。


 盗難防止にもなるし身近に剣がないと落ち着かない体になってしまったのだ。

 よくウォーケックが剣は体の一部で常にそばに置けなんて言っていた。


「エミナも武器は持ってるな?」


「はい、もちろんです!」


 一緒に旅している以上マジックボックスの袋の存在を隠すのは難しい。

 一定の荷物は知らない人に見られても困らないように持ち運んでいるが側にいるとそれ以上の物を取り出して使っているのは丸わかりだ。


 単に秘密にしてもらうだけでなく当事者になってもらう。

 エミナにも1つマジックボックスの袋をあげていて、エミナもその中に武器である杖を持ってきていた。


 ちなみにヤノチとダカンはまだマジックボックスの袋の存在に気づいていなかったりする。

 特別隠しているつもりもないが細かいことも気にする2人でもなかった。


 5人もいると持てる荷物もそれなり多くなるし物の出どころをわざわざ仲間内で気にすることもない。


「よし、とりあえず見に行ってみよう。


 海に出てたらやることはないけど浜辺まで来たら大変だ」


 浜辺の方から人が逃げていく。

 流れとは逆行することになるので人の波をかき分けて進む。


「こりゃ……マズイな」


 人の波を抜けると砂浜の状況が見えた。


 最初の状況は不明だが今はもうすでに魔物が砂浜に上陸していた。

 そこにいた魔物は魚のような見た目をしているが手足が生えていて二足歩行をしている。


 マーマンと呼ばれる魔物である。


「きっもち悪いですね!」


 エミナが嫌悪感に満ちた表情でマーマンを見る。

 受け入れ難いフォルムをしていると思っていたのはリュードだけではなかった。


 マーマンは武装しているものもいて、錆び付いた槍や剣を持っている個体もいた。

 水中で製鉄技術なんてあるわけないので冒険者から奪ったものだろう。


 浜辺には逃げ遅れた人なのかマーマンに襲われて倒れている人がいた。


「人の近くにいるマーマンからやるぞ!」


 まだ息をしているかは不明だが放ってもおけない。


 錆び付いた粗末な槍をただ突き出すだけの粗末な攻撃。

 力任せに槍を弾いてみても抵抗は少ない。


 つまりマーマンの力や技術はそんなでもない。


 魔物には水陸両用の生態を持つものもいる。

 マーマンなんかが良い例なのだが、このマーマンは普段の生息域は水中になる。


 どちらかと言えばマーマンは水中の魔物で陸上でも活動出来る程度の魔物。

 そして水中がメインの魔物は往々にして陸上に出てきても普段とは違う環境に力を発揮することができないのだ。


 マーマンは確実に水寄りの魔物なので地上に出てきても力が出せていないでいる。


「続々と出てきますよ!」


 けれども多勢に無勢。

 マーマンは海から続々上がってきて、倒すよりも早いスピードで増えていっていた。


 リュードたちの状況も悪い。

 倒れている人もいるし、格好は水着。


 防御力がない上にあんなサビサビな武器で傷をつけられた日には傷よりも後の病気の方が怖い。


「た、助け……」


「その人から離れろ! サンダーアロー!」


 まだ息のあった女性が声を出してしまった。

 それに気づいたマーマンがトドメを刺そうと剣を振り上げた。


 距離があって接近してマーマンを倒すには間に合わない。

 リュードは咄嗟にマーマンに向かって魔法を放った。


 細長く伸びる雷の矢が一瞬で出来上がり、マーマンの頭に飛んでいって突き刺さる。

 バチバチと音を立ててマーマンが感電して軽く肉が焼ける。


 ドサリとマーマンが倒れた隙にリュードたちが倒れた女性に近づき守るようにマーマンの前に立ちはだかる。


 エミナを結婚式から助け出した一件以来リュードはよく雷属性の魔法を使うようにしていた。

 というのも夜寝ていると声が聞こえてきたのだ。


『雷の魔法を使ってくれてありがとう。

 ド派手で素晴らしい魔法だった。


 是非とも今後も雷属性の魔法を使ってほしい。


 代わりと言ってはなんだが私の加護を君に授けよう』


 ケーフィスではない。

 かなり低い声で全く聞き覚えがなかった。


 会話の内容から推測するに雷の神様からの神託だったのだと思い至った。

 加護がどんなものであるのかリュードは知らず体に変化も見られなかった。


 試しに雷属性の魔法を使ってみると驚いた。

 難しかった雷属性の魔法のコントロールが飛躍的に向上した。


 それだけではなく魔力の消費や発動の早さなど雷属性に限って大幅にリュードの能力が上がっていた。

 これが加護の力というやつかとすぐに実感できた。


 とりあえず空に向かって感謝はしておいた。

 ただ神託を受けると寝覚が非常によろしくないので2度とやらないでほしい。


 雷属性の魔法は難易度が高いだけあって使い勝手が良かった。

 魔法の速度は早く、相手の属性に左右されずにどんな相手でも効きやすく、今の時代に使い手がいないこともあって対策も取られていない。


 せっかく加護も貰ってリュードにとってはかなり扱いやすくなったのでメインで使えるように練習していた。


 特に今相手取っているマーマンは水に親和性の高い魔物。

 雷属性の魔法が効きやすい相手であった。


「大丈夫ですか!」


 エミナが女性の容態を確認する。

 まだ意識があり、傷はさほど深くない。


 すぐに治療すれば十分に助かる見込みがある。


 けれども増え続けるマーマンはリュードたちを囲むように移動を始めているし、他にも倒れている人がいる。

 1人だけなら抱えて離脱できないこともないが他の人を見殺しにしてしまうことになる。


 力が弱いマーマンの攻撃ならまだ生きている人もいる可能性が高いと考えられた。


「チッ……ルフォン、エミナ、少しだけ時間稼ぎ頼む」


「分かった!」


「はい!」


 ルフォンが前に出てマーマンを牽制し、エミナがその間に炎の魔法でマーマンを倒す。


「私たちも戦うわ!」


「待たせたな!」


 そこにやってきたのは武器を取りに行っていたバーナードとエリザ。

 2人も元冒険者で助けに駆けつけてくれた。


「いや、そう戦うんかい!」


 堪えきれずに思わず声に出してしまった。

 着替える時間もなく武器だけを引っ掴んで来てくれた2人。


 エリザは槍を持っていてバーナードは身の丈ほどもある杖を肩に乗せて抱えていた。


 勝手な、リュードの勝手なイメージだったのだが、バーナードは前衛職でエリザを守るタンク的な役割を果たしている、そんなイメージを持っていた。

 そんな勝手なイメージなどお構いなしにバーナードが後衛職、エリザが前衛職であった。


 エリザについては前後どちらでも意外性はないのに杖を持って現れたバーナードは意外すぎる出立ちだった。


 何も体格が良い人が前で盾を持てなんて言わないけれど何のための筋肉だったんだと叫びたくなる。


 イメージの押し付けに過ぎないがバーナードに後衛職っぽさがないのも悪い。


「行ってこい、エリザ!


 ふん、身体強化!」


 光の球が杖の先に発生してエリザに飛んでいく。


 エリザに当たった光の球はエリザの全身を包むと、エリザの能力を強化した。

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