飯にも潤いを2

 さらにさらにもう1つグレートボアをやるべき理由が増えた。


 買い物も断念したのでリュードは仕方なく地図とにらめっこを始めた。


 いくつもルートを考えたのだがイマリカラツトから出て西に向かおうと思うとストグには西に伸びる道がなく、北から抜けていくのが1番良いルートだった。

 次点で東のから少し回るのが良く、南のルートは遠回りでしかも戻ることになってしまう。


 現在北と東の道はグレートボアが闊歩していて通れない。

 つまり旅を続ける上でもグレートボアを倒した方がスムーズに事が進むのである。


 ゆえに倒す理由がまた増えたというわけである。


 やらなきゃいけないのではないけれどやってしまった方が遥かに楽。

 すでに大規模討伐には参加申込してしまったのですっぽかすことはできないので理由があるならばとエミナも前向きに考えるようにがんばっていた。


「今回の討伐のリーダーやらせてもらう、プスカンだ。

 みんなよろしく頼むぞ」


 大規模討伐では複数の冒険者が参加するのでランクが1番高い人がリーダーとなる。

 プスカンの冒険者ランクは魔のゴールド−。


 なぜゴールド−が魔と言われているかというと、ゴールド−まではそれなりの実力とこなしてきた依頼の数など総合的に判断されて上がることができる。

 しかしゴールド−からゴールドに上がるためには相応の実力、強さが必要になる。


 ハッキリとした差がゴールド−とゴールドの間にはあるとされていて、これまで努力を重ねてきた冒険者でもゴールドの壁を越えられずにゴールド−で止まってしまう。

 ゆえに魔のと言われ一目置かれるには少し足りないぐらいの扱いを受けがちなのだ。


 それでも簡単に上がれるランクでもないので少なくともこれまでやってきただけの実力と実績は保証されている。


 相手は進化種であってもFクラスのボーノボアの進化種である。

 どんな魔物であっても油断できないけれど強さの程度は高が知れている。


 集まった人数も40人ほどと意外と多いので心配もないとリュードは思った。


「行くぞ!」


 プスカンの指示に従って冒険者ギルドを出発する。

 事前の情報では現在グレートボアは町の北側に陣取り、今もボーノボアの取り巻きを増やしている。


 出来るなら奇襲でもかけたいところだがストグ周辺は起伏の少ない草原地帯が広がっている。

 視界が良くグレートボアも簡単に見つけられるがグレートボア側からもこちらが簡単に見つかってしまう。


 遠くからでも分かる巨大が草原の真ん中に見える。

 向こうも気づいたようで軽自動車のようなイノシシがこちらを睨みつけている。


「なんだありゃ……」


 誰かの呟き。

 リュードも目の前の光景に同じような感想を抱いた。


 列をなして冒険者たちを待ち構えるボーノボア。

 その光景に圧倒されている人もいる。


 好戦的ですぐに人に襲いかかるのに知恵がなく賢い魔物ではないはずのボーノボアが冒険者たちを視界にとらえても列を崩さない。

 並んで待ち構えている時点で異様な光景なのに明らかにグレートボアの指示を待っているなんて恐ろしさすら感じる。


「ちっ……仕方ないな、放て!」


 突進の体勢は見せるがボーノボアは動かない。

 これ以上接近してしまえば近くなり過ぎてしまう。


 当初の予定では突進してくるボーノボアに魔法をぶつけて勢いを削ぐつもりだったのだが相手が動かないならこちらから先に攻撃するしかない。

 プスカンの攻撃指示で魔法使いたちが一斉にボーノボアに魔法を飛ばす。


「ほいっ」


 火の魔法は使わない。

 ボーノボアの素材は使えるので燃やして黒焦げにしてしまうとダメになるからだ。


 魔法攻撃にはリュードも参加した。

 エミナが驚いた顔をしている。

 浴室作ったりと魔法を目の前で見せていはずなのに攻撃魔法を使うとは考えていなかったようだ。


 冒険者たちの魔法に合わせるようにしてボーノボアが突進し出す。

 仲間が何匹もやられるが全く気にせずボーノボアは進んでくる。


 止まらないボーノボアたちは勢いに乗り始める。


「あまり早く回避すると奴らは曲がってくるからギリギリまで引きつけて回避するんだ」


 魔法使いたちが後ろに下がり前衛が前に出る。

 盾を持つ冒険者がボーノボアを受け止めて転がしたり慣れている冒険者は避けざまにボーノボアを切り付けて倒す。


 リュードも一振りで1匹のボーノボアを倒してみせ、ルフォンも足を切り付けて転がす。


 1人逃げ遅れた魔法使いがボーノボアに轢かれた。

 かなり痛いだろうが1回轢かれたぐらいじゃ死にはしない。


「気をつけろ、第二波だ!」


 間髪入れずに次のボーノボアが突っ込んでくる。

 部隊を分けるとはグレートボアもやりおる。


「エミナ!」


 2匹が時間差でエミナに突進する。

 1匹はかわせても2匹目をかわすのは無理。


 いち早くボーノボアの軌道からエミナを狙っていることに気づいたリュードは1匹目を回避してバランスを崩しているエミナに迫る2匹目のボーノボアに首を切り落とした。

 接近から剣を振り下ろすまでの一連の動作はまるであらかじめ決められていたかのようにスムーズでボーノボアは何をされたのかすら分からないまま絶命した。


「大丈夫か?」


「は、はい、ありがとうございます!」


「気をつけろ。あいつら意外と連携もとっていやがる」


「うわああああ!」


 叫び声がして、そちらを見ると冒険者の1人が空を飛んでいた。

 決して自力でやったのではない。


 第二波の後ろからグレートボアも迫ってきていたのだ。

 突進の直撃は避けたもののグレートボアの牙に引っかかり、そのまま空中に投げ出されてしまった。


 鎧を身につけた体つきの良い男性なのに軽いものかのように宙を舞う。

 グレートボアの力の強さは相当なものだ。


 轢かれたらボーノボアと違って致命傷になる。


「くっ、全員グレートボアに魔法を打ち込め!」


 ボーノボアよりもはるかに巨大なのに、ボーノボアよりも短い距離でトップスピードに乗るグレートボアの突進を転がるようにしてかわすプスカン。


「な、なんでこっちくるんだよ!」


 プスカンに突進をかわされたグレートボアは地面を削りながら急ブレーキで止まり、反転、再びプスカンの方を向いた。

 グレートボアは明らかにプスカンを狙っている。


 進化して若干の知恵をつけたグレートボアはボーノボアを統率して戦うことの方がバラバラに戦うよりも良いことを覚えて、統率することの重要性をほんの僅かに理解した。

 同時に相手に集団を統率されると厄介なことも理解して、統率する相手を自分が倒せば相手はバラバラになるのではないかと考えた。


 間違ってはいない。

 グレートボアの知能ではよく考えられた方だったのだがそれ以上は何もなかった。


 最初の突撃だけであとはなんの策もない。

 あっても知能の弱いボーノボアでは遂行できなかったろうがグレートボアの考える統率とは見付けた順に突進していくのではなく最初に人間は集団で襲いかかってきたぐらいのものであった。


 自分が統率者を見つけて倒せばいい。

 グレートボアは今そのことだけを考えてプスカンを追っている。


「グレートボアはゴールド−に任せて、俺たちはボーノボアを片付けるぞ!」


 これを好機と見たリュードが声を出す。

 アイアン+のリュードよりもランクの高い冒険者はいたのだがこんな状況で声を出したやつのランクを確認する馬鹿はいない。


 みんなリュードの言葉に従ってグレートボアではなくボーノボアに集中する。

 グレートボアがいなければボーノボアもさして脅威ではない。


 ゴールド−でも1人ではグレートボアの相手は難しいのか突進をギリギリかわして逃げ回っている。

 助けろ!と叫んでいるのだがグレートボアから見ると指示を出しているように見えて余計に追いかけられる。


 中々捉えられない相手にグレートボアは苛立ちを隠せなくなってきていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る