第86話 チュートリアル:脊髄ぶっこ抜き(グロ注意)

 場所は変わって入場ゲート前の待機スペース。


 ノイズの様なその咆哮は風を巻き起こし髪を激しくなびかせる。


 光を屈折するクリスタル体の塔のボス。実際には運営が用意した強力なモンスターだが、萌たちからすればボスの認識で間違いない。


 そしてその認識はチーム戦を鑑賞する三年の西園寺たち、一年の氷室たちも同じ認識だった。


(さて……)


(お手並み拝見します)


 萌は知らない事だが、この二人も同じ塔に昇りボスにチャレンジしていた。しかし今映像に映るボスはクリスタル体でエネルギーを循環してる容姿だが、鬼のようなモンスター、爬虫類のようなモンスターと、二人とも違うボスと対峙した。


 他のクラスが結託しBクラスをほぼ壊滅させ、それを生き残り脱出した萌たちに感心した。


 しかし、まず最初に二人が驚いたのは、苦労して攻撃を浴びさせ、やっとの思いで開けた塔の門をものの一撃で開門した萌の攻撃力だ。


 至高肉体という類を見ない希少なスキルから繰り出される圧倒的破壊力。それに熟練度が高いスキルオーラを加えればもはや手の付けられないレベルだ。


《うわあああああ!!》


 映像から生徒の悲鳴が響く。ボスの鋭利な腕攻撃でどこかのチームメイトが退場した。


《◇□◇□》


 クリスタル体のボスは瞬間移動を繰り返し一気に近づいて攻撃してくる。だが攻撃の予備動作でワンテンポ遅れるため、萌たちは難なく防ぎ、避ける事ができた。


 だが萌たちの敵はボスだけではない。


《スキあり!!》


《ちょ!?》


 放たれた三本の炎の矢を体を逸らして避ける萌。吉 明子は隙あらば迷いなく攻撃する胆力があった。


《それそれー!》


《しつこいぞ佃ッ》


 それは短刀を振り回す佃も同じで近くに居た月野をターゲットに。仕留め損ねたからか吉 明子より攻めっけがあった。


《フー―!!》


《みんな今ヤバいの分からないの!? ボスめっちゃ暴れてるじゃん!!》


《あなた達をリタイアさせてからボスを相手――きゃ!?》


《ほら言ったじゃん!》


 瀬那も同じく狙われるが側には帝江が三匹陣取り守っている。吉のクラスメイトが瀬那と対峙したが、ボスに攻撃をされ吹き飛ぶ始末。


 そしてボスは光の線を残して瞬間移動。


 手先の鋭利な得物の次の狙いは――


《フー―!!》


 朝比奈 瀬那の背中だった。


《――――》


 それを目撃した萌が目を大きく開き声にならない悲鳴を叫ぶ。


 刹那、気配を感じた瀬那の目がゆっくりと横を向く。


《――ッ》


 風を発生させる威力がある槍の様な手を背中からくるりと避け、伸びきったボスの腕を確認し、添える様に左手を頭部へ持っていき力の流れを変え、無防備なボスの背中に向けてゼロ距離攻撃。


《如意! 爆砕花ばくさいか!!》


 ドンと爆発音が映像から響き、ボスの体であるクリスタルが一部砕け散らばり、本体は爆発の勢いのまま床に激突。その線の後を残し遠くで停止し、瞬間移動で姿を消した。


 現地でそれを目撃した人は瀬那の常人離れした動きに驚愕し、爆発で気付いた生徒は何が起きたんだと混乱した。


 同じく驚愕したのは観戦している先輩後輩もだった。


「……凄い」


 ゼロ距離攻撃の威力に対してなのか、ボスの攻撃を流した力量に対してなのか、誰かがそう呟いた。


 距離を測る様に何度も瞬間移動するボス。次なるターゲットは。


《◇□》


《それー!》


《っく!》


 佃の猛攻を回避する月野だった。


 光の跡を残す佃のナイフ捌き。それを意図してか佃の攻撃の直ぐ後に追撃と言わんばかりにボスも攻撃した。


《ッ!?》


 驚愕する月野。


 ボスの凶刃という手が襲い来る。佃は内心ボスの攻撃に驚いた物のそのまま攻撃をくらい退場しろとほくそ笑んだ。


 しかし――


《ッッギ――》


 細かな火花がパチパチと飛び散る。


 顔面を捉えた手槍を、ガントレットの手甲を挟むことでギリギリダメージを削いだ形となった。


 しかし月野は避けるだけで終わらない。


《ヌッ!》


 伸びきったボスの腕を掴み、背中を丸めて背負い――


《フンッ!!!!》


《◇□!?》


 ボスを一本背負い。大きく砕かれる床。


 確実なダメージに苦悶をあげるボス。


 しかしまだ終わらないのが月野 進太郎の技。


 黄色の線を浮かばせるガントレットの力を使い、方向を変え、倒れているボスの腕を力任せに引っ張り背中に背負う。


 ここで驚いたのは佃だった。


 床を砕くほどの背負い投げ。それも先よりも威力はあるであろう一本投げを自分目掛けて倒して来るとあっけにとられた佃だった。


《やっべー――》


《ヌ゛ン゛!!》


 ズシンッと床が揺れる程の威力。佃は背負い投げされたボスの下敷きになり、目がグルグルと回っている。どうやらバリアはギリギリ保っている様だ。


 だが気づけばボスはまた瞬間移動で行方をくらませた。


「……」


 三年の西園寺は思った。花房だけではなく、月野も相当なものだと。


(ボスに狙われている緊張感に加え、ギリギリで攻撃を防いだという切迫感を振り切り、あまつさえ背負い投げの反撃をする胆力……。肝が座っているのは花房くんだけではなかったか)


「……」


 一年の氷室は思った。花房センパイだけではなく、朝比奈センパイも相当なものだと。


(映像では拾えない音が瞬間移動にはあるのか……? 気付いたとしても後ろからの奇襲を振り向かずに対処できるのは実際に凄い。爆発した攻撃に目が行きがちだけど、力の流れを変えたであろう技も凄い。さすが花房センパイの彼女さんだ)


 二人がほくそ笑んだのは仕方のない事だった。まさか二年B組に強者が群雄割拠していたのだから。

 だが心残りは、梶 大吾の不参戦だ。彼の戦闘も見たかったと悔やんでしかたないと思った二人。


「来たぞ」


「!」


 仲間の声で我に返る二人。映像に映るのはボスの挙動。


 中央に陣取り、嵐を巻き起こす程の力を溜めている。


 二人が戦ったボスはクリスタル体のこのボスではないが、今みたく第二形態へ移行した。第一形態とは違い、パワーに加えスピード、戦闘パターンの増加や繰り出される技の数々。本番はこれからだという事だった。


 しかも、学年で頭一つ二つ抜き出ている二人に加えチーム総出で挑んでも時間いっぱいまで遂に倒しきれなかった。


 それほど手を焼いたモンスターであり、ボスVS他クラスVSB-5チームと言った、ディアルガVSパルキアVSダークライの様な混沌とした状況。


 はたして萌たちはどう切り抜けるか、非常に興味があった。


 しかし、状況は西園寺と氷室の期待を大きく欺く事になる。


《◇□■◆◇■!!!!》


 浮かび上がって光の粒子を吸収し、途切れ途切れの咆哮をあげるボス。形態変化を兆すこの異常な光景に誰もが動けず呆然と見守るしかなかった。


 萌以外は。


 映像が写したのは、突然後頭部を掴まれ一瞬で画面から消えたボス。轟音が鳴り響きすぐさま映像が切り替わる。


 そこには――


《……おい》


《!?!?》


 床が大きく瓦解し、後頭部が食い込みクリスタルが欠けるほど握られたボスの無惨な姿だった。


《第二形態なんてめんどくさいのはもうこりごりなんだよ……》


 ッゴと鈍い音が鳴り床が砕ける。


 後頭部を持ってそのまま勢いよく床に顔面を叩きつける。


《俺は優しくないよ?》


 砕ける。


《特撮なら俺もまつけど》


 何度も砕ける。


《お約束は無しだっての》


 苦悶の声すらあげられないボス。そのクリスタルな顔は原型が無い程砕け、見ている他者ですら吐き気を覚えた。


 そして。


《派手さなんて今いらないんだよなぁ》


 そう言いながら萌はボスの背中が砕けるほど踏みしめ、右手で頭部を、左手で首部分を持ち、思いっ切り――――


《◇□――――》


 バリバリと頭部を胴体から抜いた。首からは脊椎の様な……――――


 筆舌に尽くし難い非道な止めさし。


「……」


《……》


 静寂。


 リストバンドから点数が入る音が無機物に鳴る。


 誰もが黙り込み動く事すらできない中、萌たちを狙うか、ボスを狙うか、混沌の渦中で永遠に悩み続け、結局は何もしなかったダーク=ノワールが全員の気持ちを代弁する。


《♰マジでドン引きなんだけど♰》


 映像に映るのは、明るい背景で影になる萌。目部分が不気味に光り、口からは可視化した吐息が確認。


((公私ともに敵に回しちゃダメだ……! 怒らせないでおこう!))


 西園寺と氷室は白目を向いて誓ったのだった。

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