第44話 チュートリアル:ざまぁ
人気があるのはタイマン。己の力のみが頼りで掲載される動画もタイマンが多い。でも俺らがするのはタッグ。チャラ男ズVS瀬那&俺だ。
別にタッグ戦は珍しくもないが、男性人気の瀬那が闘うからギャラリーが多い気がする。
「っへへへ」
「余裕っしょ」
バリアを張ったチャラ男ズが下賤な笑みを浮かべている。もれなく瀬那の胸をガン見している。
その瀬那は開始前のストレッチをしていて伸びをしていた。そりゃ揺れるわな。
だが俺は瀬那の乳揺れなんて今はどうでもいい。なぜなら友達が、チームメンバーの処遇がこの一戦にかかっているからだ。
「ふー」
泡沫事件の映像を見ていないのか知らないが、チャラ男ズは学生だと俺たちを舐めくさっている。ならば好都合だ。オーラを纏って遠慮なく突撃、速攻で極める……!
そう思っていると、瀬那が目を合わせてきた。
「萌ならすぐ倒せると思うけど、一応私の新法術のお披露目だからね」
「でも負けると瀬那が――」
「負けるつもりなの……?」
「い、いや! もちろん勝さ」
ジト目で攻めてくる瀬那。どうやら是が非でも俺に法術を披露したいらしい。
「わかったわかった。じゃあ機を見て全力で行くことにするわ」
「ん~~わかってんじゃん!」
しょうがない。瀬那の笑顔で顔を立てて挑もう。負けるつもりは無いし。
バトルルームを進み、指定の位置で止まる。
《READY……》
チャラ男ズの武器は剣と手斧。それを慣れた手つきで握り顔がニヤつき、俺たちを品定めしている。
俺はオーラ剣を出し姿勢を低くして構える。瀬那は符を指に挟んで構える。その様子を目で確認すると、瀬那も目を合わせてきて微笑んできた。余裕がある。
『チュートリアル:バトルに勝とう』
俺は視界の端でチュートリアルを選択する。
そして。
《FIGHT!!》
始まった。
「いくぜいくぜ!」
「可愛がってやるよ!」
直線ではなく横に広がる曲線で駆けてくる。共に出すぎず遅れず、一定の間隔を保っている。各個撃破か途中で合流して来るのか、どんな連携を見せてくるのか知らないが、とても息があっている。
離れてるとは言え、あと数秒もすればエンカウントするだろう。
だが俺たち二人は――
(動かない……?)
(ビビったか!)
不動をに徹した。
これは作戦。瀬那の作戦だ。刹那の時に見えたチャラ男ズの訝しげな顔。俺は内心笑った。
それは俺も知らないからだ。瀬那がやろうとしている事が。
じゃあ何故不安にならないのか。
「
何故信じる事ができるのか。
「招来・
それは簡単。
「急急如律令!!」
チームだからだ!
「――」
二枚の符から濃い煙が勢いよく吹き出し、そいつらは現れた。
綺麗な黄色の毛並みに丸い体型。短い六本脚に小さな四つの羽。そしてある筈の所に無い顔。
「フーー!!」
中型犬程のデカい金魚。大き目な顔が一つなのに、体が沢山着いていて忙しなく尾ひれを動かす。
「んぱ。ワン!!」
見間違うはずがない。こいつらは仙界で遭遇した原生生物。帝江と何羅魚だ。
「なんだ!?」
「こいつは!?」
突然召喚された謎の生物にチャラ男ズの脚が止まる。あっけにとられた顔。それはチャラ男ズだけではなく、ギャラリー全員の口が閉まらない。
「えへへ!」
したり顔な瀬那。満足げな相方とは違い、俺も驚いている。
確かに、確かに何羅魚と帝江が出てきたのは驚いた。でもそれだけで俺はアホ面なんてしない。
ではなぜ俺が驚いているのか。
「フーッッ!!」
「ワンッッ!! ワンッッ!!」
記憶にあった愛くるしくも不気味な奴ら。方や血管と筋肉が浮き出て筋骨隆々。方や宙に浮き鋭利な牙が生え目がイッてる形相。
間違いなく知らない。俺の知ってる奴らではない。
「よーし! 突撃ぃいいいい!!」
「フーーー!!!」
「ワン!!!」
瀬那がアニメとかコスプレイヤーでしか見たことのない謎の可愛いレッツゴーポーズをして叫んだ。
帝江の筋肉が躍動して走り、何羅魚の尾ひれが忙しなく動く。
「来るぞおい!」
「ッ!」
速いくて力強い。瀬那が召喚した、いや、招来した帝江の印象だ。
迷いのない直進。向かうはチャラ男A。猛進する帝江に、引きつる顔のチャラ男Aは剣を振りかざす。
狂気の
汗が滲み出るチャラ男Bは手斧を振りかざす。
そして同時に起こる攻撃の回避。
「「!?」」
驚愕する刹那、帝江と何羅魚はそのまま突進。チャラ男ズは腕を盾に上半身と顔を瞬間的にガードした。
それがダメだった。
猛スピードの突進。それは計らずも――
「ん゛ん゛ん゛ん゛ッッ~~!!??」
「オ゛オ゛オ゛オ゛ッッ~~!!??」
男の急所に当たってしまった。
「うわぁ……」
悲しきかな。チャラ男ズは白目をむいて悶絶している。バリアがあるとはいえ、衝撃までは吸収してくれない。実戦を忘れるなとあえてそう設計されたと言う噂。それがこんな形で顕著に出るとは……。
「フーッッ!!」
「ワンッッ!! ワンッッ!!」
これはバトル。バリアが壊れるか時間切れ、降参の意志を見せなければ終わらない。
「イケー! イケー!」
隣の瀬那がワンツーパンチを幾度も繰り返している。その度に招来した原生生物が執拗に突進攻撃をしている。
倒れている二人の股間を。
「お゛お゛っほッ!? や゛め゛――」
「ん゛お゛ッ!? だッ、助げッ――」
無慈悲にやられる行為。そこに何の希望も無い。ギャラリーにちらと目をやると、顔が青ざめドン引きしている男性陣がいた。中には自分の股間を抑えている人もいる。気持ちはわかる。
「」
「ッお゛ホ♡」
結局、下半身のバリアが砕けた事でバトルが終わり、俺と瀬那の勝利となった。俺はマジで何もやっていないが、担架で運ばれるチャラ男ズを見て同情心が止まない。
アディオス、チャラ男ズ。もうこれでコリてナンパはするなよ。
『チュートリアルクリア』
『クリア報酬:力+』
こんな形でチュートリアルをクリアしたくなかったなぁ。
「ッ~~!! ッブハハハハハ! こっいっつっらっ!! ザマァ!!」
病室。
ベッドに起き上がった大吾が爆笑している。腕にギブスを巻いて。
お見舞いついでに動画サイトに上がっていた昨日のバトルを大吾に見せた。みごとに大爆笑である。
「おい笑いすぎだぞ。身体に障るって」
「ッッ~~! ちょっと待てっ! ック、なんでみんなブロリー戦のヘタレベジータみたいな顔してんだよっ! ッハッハッハ!!」
確かに言われてみれば画面端に映っている男性陣と俺は、何とも言い難い表情をしている。
「あの場に居ればお前もこうなってた。アレは痛い。ぜったい」
「っふ、っふ、おいこれ見ろよ」
笑いを堪えているが興奮を抑えきれない大吾。タブレットを指すところを見ると、何羅魚に股間をダイレクトアタックされているチャラ男の片割れだ。
「こいつなんか顔おかしくねっふ、なっんっかっこっいっつイってねっ~!!」
「……っふぐ!?」
よく見ると表情が恍惚とし頬も赤く、目が上を向いて舌を出している。
「新たなっ! 新たな扉開いてるって!! ップ!」
「ップハ――」
俺たちは腹を抱えて笑い、終いにはナースさんに怒られた。
そして落ち着きを取り戻し、雑談している。
「で? 瀬那は本土に帰って実家に戻るついでにギャル仲間と遊んでると」
「夏休みも残り少ないし久しぶりに遊ぶんだと。花田さんとも会うらしい」
今ごろ瀬那は実家に着いた頃合いか。明日明後日は例のサボり―ギャルと遊ぶ算段だろう。
花田さんも退院し家へ帰った。いつかまた会いたいところだ。
「おい、今蕾に会いたいって思ったろ。俺の彼女だぞ」
「お前はエスパーかなんかか」
いつもの大吾だ。時折空を見て考えてるふしがあったが大丈夫そうだ。
「俺もあと三日か四日で退院だー。寂しくなるなぁこのベッドも」
「……やっぱりギブスは取れないか」
「まだダメだなこりゃ」
大吾の体調はすこぶる良好。今すぐにでも飛び出せる。だがギブスを巻いてる腕は泡沫事件を突破した代償。まだ数か月は取れないらしい。
そうとう無茶やったらしく、リハビリも後に控えている。
「楽しみだったんだけどなぁクラス対抗戦」
クラス対抗戦。ギブスをさする大吾が言った。
二学期の十一月に予定されているクラス対抗戦。世界では既に行われている行事で、東京は十一月だが大阪の学園都市は夏休み中に一週間設け先に開催された。
一応動画サイトでおおまかな内容は見れるが、俺はあえて見ていない。映画のネタバレは嫌い派なんでね俺。
まぁおおよそ同じ内容が対抗戦で行われるはずだ。
「俺はこれで出れないけど、……もちろん勝つよな」
横目で俺を見て白い歯を見せつけてくる。目を合わせると、握った拳を突き出してきた。
「バーカ」
微笑みかけて拳を合わせる。
「やるからには勝つしかないでしょ!」
『チュートリアル:対抗戦で優秀な成績を修めよう』
視界の端に映しながら、俺は自信満々で言いきった。
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