第11話 生活魔法は命の魔法

 ついに生活魔法という異世界脅威の技術の定番と遭遇した私。

 これは速攻で取るしかないじぇ!!



 勢いよく森を削っていくが、【快適な冒険のための生活魔法 上】を取得するには1000存在因子リソースが必要になる。

 さっきは10分で900存在因子リソースを稼いだが、スーパーな強化がされた今の私はもっと高速で集められるだろう。

 私自身の超強化によりもう手動クリックの方が効率が上がったため【モラトリアム】の収益はプラスアルファになってしまった。

 【無職】センパイ、お世話になりました!!


 さて、超強化によって発生した変化はまだある。

 それは多少ではあるものの『森』を伐採することができるようになったことだ。

 といっても木ではない。あれは強すぎる。生命力の塊か?

 私が新たに獲物にできるようになったのは、木よりも低い位置にいる低木たちだ。いわゆる茂みとかそういうやつ。


 私が転移した場所は程よく広場になっていて木々が周囲を邪魔しているということはない。

 ただ、5mも移動すれば徐々に茂みや低木やらが生えてきて、その背後で立派な樹木がそびえ立っている。

 その茂みや低木を伐採できる様になったのだ。



 やんわり突くと一定部位にしかダメージが入らないのか数枚の葉だけしか消えないので、幹まで衝撃を通すイメージでちょっと強めにつんつんすること3分40秒。

 私の胸ほど(だいたい110cmくらいかな)の高さの植物が根っこの形状の穴をその場に残して光になって消えた。

 見たか植物ども!! お前たちが私をスルーできる時代は終わったのだ!!


 物言わぬ植物にイキりながら得た存在因子リソースは572。非常に美味しい。

 時間単位で言えばもっと小物を刈った方が効率がいいのだけれど、私がテリトリーにしてきたこの転移エリアはもう結構荒らしてしまったのだ。

 ぶっちゃけ獲物がいなくなってきた。


 ヒエラ草に関しては10円ハゲみたいなスポットを除きまだ青々と茂っているけれど、他の植物や虫なんかは個体数を大きく減らしている。

 特に植物は同種のものがもう片手で数えるくらいまで減ったものもある。

 万が一これらの中に貴重なアイテムが混ざっていたら絶滅させてしまうと今後不便になるかもしれないので、こうしてうじゃうじゃ生えていて貴重でもなさそうな低木くんにターゲットを移したのである。


 さらに1本低木を収穫すると保有存在因子キープリソースが1741になった。やれやれ、大幅に予定を超えてしまったよ。

 【モラトリアム】が1000に届かないものの少なくはない存在因子リソースを稼いでいた。

 まだ【モラトリアム】センパイは強い存在感を放っているようだ。ありがとう【モラトリアム】センパイ。

 小物を狙って調整すればよかった気もするけれど、逸る気持ちは私の脳をイノシシにしていたようだ。



 目標を超えたので、まずは正座し精神を整える。ひっひっふーひっひっふー。

 落ち着きを生み出してから、『アップグレード』ウィンドウから【快適な冒険のための生活魔法 上】を押す。



「おっ……おぉぉぉぉぉぉぉ!!」


――――――――


『職業スキル』

【モラトリアムLV2】【初級植物知識】【狩人の直感LV1】

【トーチライト】【クリーン】【フリント】【モイスチャー】


――――――――



 つ、ついに生活魔法を手に入れたぞーーーーー!!!

 雄叫びを上げたくなる気持ちを抑えてスキル詳細をクリック。


――――――――


【トーチライト】


指定の位置に灯りを灯す生活魔法。


光が灯りやすい空間ほど効率的に発動する。


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【クリーン】


汚れを払い清潔にする生活魔法。


イメージ力に大きく依存し、汚れの指定を精密にするほど効果が上がる。


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【フリント】


火花を散らす生活魔法。


対象を選択することで着火しやすくなる。


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【モイスチャー】


飲水を生み出す生活魔法。


魔力を込めるほど一度に生成できる水の量が増える。


――――――――



「勝った……!!」

 サバイバル終了のお知らせです。

 これからは森の中での優雅なスローライフになる。それくらいこの魔法たちがもたらす恩恵はすさまじい。

 ほぼ予想通りの効果内容でほんと良かったよ。


 水に関しては一応手段がないわけでもなかった。

 以前見た災害再現ドラマで、3日を超えて生還した人のその手法を真似ようと思ってたのだ。

 その方法とは……自らのおしっこを飲むという、通常では考えられない極限環境での所業だった。

 ……本当に、生活魔法を得られてよかったよ……。


 いくら私が乙女度低め女子とはいえ、人としての尊厳を捨てることと命を永らえさせることを天秤に掛けたくはなかったからね……。

 尊厳を捨てられるならば、人は結構しぶとい。

 そういう限界を超えたサバイバルもこの先あり得たのだ。

 きっとそれを回避できる生活魔法は、正しく命の魔法であり人のための奇跡なのだろう。



 運が悪ければ飲み込まれていたであろう地獄に思いを馳せて、しばし感傷に耽る。

 これで、私の異世界ライフはハードモードからイージーモードになったのだ。



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