第28話 わしとデート……

「して。今日はわしとデートしてもらう」

「は?」

 俺は朝食を食べながら聞いていたが、目玉焼きを皿の上に落としてしまう。

「だからデート!」

「なんで?」

「だって好きになってしもうたから」

 金髪碧眼の少女は恥じらいながらもじもじと身体をよじる。

 頭からは♡マークが飛び出しているように思える。

「アイシアがバカになった……」

「それもお主のせいじゃぞ」

 なんでか、俺のせいにされた。

「それよりも、デートじゃ」

「はいはい、行きましょうね」

「なんじゃ、その年寄り扱いは!」

 俺としては悪くない気分だ。だが、この前まで年寄りだった少女を――なんだかいけない気分になってしまった。背徳感というやつだろうか。

 ぶんぶんとかぶりを振り、余計なことを振り落とす。

「で、どこにいくんだ?」

「魔道店」

 魔道、店だと……!

「そ、それは、どんなところなんだ?」

 俺の中の中二心がくすぐられる。というよりも、昨日本で知った〝魔道〟。魔法とは違うらしい……というのは知った。それがどのようなものであれ、益になるだろう。

「行こう。いますぐ行こう」

「な、なんじゃ。その行動力は!」

 俺はすぐに身支度を調えると、アイシアの部屋を叩く。

「まだか?」

 慌てて部屋を開けると、そこには着替え中のアイシアがいた。

 膨らんだ双丘、新雪のように白い柔肌、くりりとしたお目々がきらりとぬれる。

 水色か。涼やかでいいな。

「きゃっ! ジューイチのエッチ」

 そう言って扉を閉めるアイシア。

 いいものが見られた。

 今の映像は瞼に焼き付けておこう。そうしよう。

 心に誓うと、俺は衣擦れの音を聞きながらアイシアが出てくるのを待つ。

「今から魔道店に行くのじゃ」

 扉を開けて出てくるアイシア。

 その顔には不機嫌な表情が見てとれる。

「す、すまん。ノックするべきだった」

「そうじゃろう! バカジューイチ」

「本当にすまんて」

 そんなやりとりをしながら街へと繰り出す俺とアイシア。

 魔道とは――魔の力を起動術式に組み込み、四神の龍脈より受け継ぐもの。

 と言われたが、なんのこちゃ。

 とりあえず魔方陣を描く系のものが魔道らしい。詠唱で行うのが魔法と。

 ちなみに俺が異世界転移したときも、魔道技術による転移魔法を使ったとのこと。

 なんだかややこしいが、魔方陣を使う魔法の一種と覚えていればだいたい当たっているらしい。

 そのお店は巻物に魔方陣を書いたり、魔道書と呼ばれる様々な魔方陣を取り扱っているお店らしい。

 見て回ると、魅力在る言葉が並んでいる。

 金の小槌の魔方陣。惚れ魔方陣。

 どこかで聴いたことのあるようなものも。

「へぇ~。色々とあるんだな」

「これがオススメですよ」

 店員が隠し味の魔方陣を見せる。

「これは?」

「お料理に一手間加えておいしくする魔方陣です♡」

 店員はにこやかに言う。

「いや、それって普通に食材でよくね?」

「おいしくする魔方陣です♡」

「あー。分かったよ」

 値段を見ると2000ギルもするではないか。

「いや買わないけどね!?」

「買ってくださいよ~♡ 今月給料厳しいんです♡」

「わしはこの古代魔道書が欲しいのう」

「かしこまりました♡」

 アイシアが購入した魔道書を見やる。

 どうやら様々な魔方陣が描かれており、それを学ぶことができるらしい。

 魔方陣に魔力を注げば、すぐさま起動する魔道書もあるが、これは一部を簡略化することで起動しないようにしてあるらしい。

「それで満足か? アイシア」

「アイシア……ってあの泥闇の?」

 店員さんがさーっと青ざめた顔でお会計をする。

「そうじゃ、わしがあの泥闇の魔女じゃ」

「し、失礼しました! ではすぐに包装紙に包みます!」

「いや、そのままで良い」

 店員さんが涙目になりつつ、店をあとにした。

「さて。どこかで休みたいのう」

「ならカフェなんてどうだ?」

 俺は近くにあるカフェを指さして訊ねる。

「それも良かろう」

 承諾を得ると、俺とアイシアはカフェ伊藤に入る。

 日本語名だが、どうしてだろう?

 俺は不思議に思いながらも、二人がけの席に座る。

 俺はオリジナルブレンドを、アイシアはカフェモカを頼む。

 しばらくすると注文通りのものが届き、満足そうに頂くアイシア。

「そうだ。ついでに王宮で減っている食糧と医薬品の調達をするか」

「わしとデートは?」

「それよりも大事だろ?」

「わしとのデート……」

 しゅんとしおらしい態度をとるアイシア。

 え。なに可愛いんだけど。この姿を見ていると、気持ちが変わってしまう。

「……分かった。食糧と医薬品は明日にするか」

 ぱああと明るくなるアイシア。

「そうじゃろう。そうじゃろう!」

 嬉しそうに何度も頷くアイシア。

 カフェで小休憩をとったあと、大通りにある露天巡りをしている途中。

「あ」

 小さな声を上げて店前に止まるアイシア。

 その目線の先にはサファイヤのネックレスがあるではないか。

 3000ギル。高いな。でも……。

 欲しそうにじっと見つめるアイシアだが、目線を外し歩き出す。

「いいのか?」

「なんじゃ。わしには必要ない」

 ……必要性の問題ではなかろうに。

「アイシア。その先にある串焼きを買ってきてくれ。数は五十本だ」

「へ。そんなに!?」

 驚きの声を上げるアイシア。

「買っておいてくれよ」

「わ、分かったわい」

 アイシアはそう言い、串焼き屋の前に向かう。

 その間に俺は先ほどの宝石店へ。

 高いが買えない値段ではない。

 ネックレスを購入すると、俺はアイシアの待つ串焼き屋の前にいく。

「おー。良く買ったな、アイシア」

「むー。五十本も売っていなかったわい」

 店長を見ると困ったような笑みを浮かべている。

 購入した三十六本で売り切れになったらしい。

 俺は半分の十八本を手にして、歩き出す。

「ありがとな。アイシア」

「礼を言われるほどじゃないのう」

「それでも、だよ」

 不機嫌そうだった顔が少し和らいだ気がする。

 串焼きを食べながらの露店巡りも楽しいものだ。

 さて、いつ渡すか。

 すると、胸の辺りを抑えるアイシア。

「……? どうした、アイシア?」

「ちょっと苦しいのじゃ。心配なさるな。最近よくあるのじゃ」

「な、だったらちゃんと調べないと!」

 俺は慌てて近くの病院を探す。

 血判の地図ブラッディ・マップに血を垂らす。

 と紙切れが波紋を広げ、近くのお店を瞬時に浮かび上がらせる。そしてそこに至る道中も、人の流れも。

 あった。

 第二総合魔術病院。

 俺はアイシアを引き連れ、病院へ向かう。

 未だに胸が痛むのか、苦しそうにするアイシア。

 ここに行けば何か分かる。そう思っていたが、病院でも様々な検査を行ったが、原因不明と。

「原因は恐らく呪具じゃな」

 自ら言い出すアイシア。

「この胸に打ち込まれた楔石くさびいしが、わしを蝕んでおる」

「すぐに診ます! 先生!」

 看護師さんが先生を呼び、アイシアをベッドに寝かせる。

 そして触診を受ける。

 先生が苦い顔を浮かべる。

「なぜ、生きている」

 そう口にする。

「いや、すまない。この進行具合からして、普通なら死んでいるのだ」

 先生は呪具の存在を知ると、悔しそうにうつむく。

「うちではこれ以上、手の施しようがない」

 悲しそうにうつむく医者。

 俺もどう言っていいか分からない。

「国立中央魔法病院を紹介するから、そっちで診てもらいなさい」

 そう言って何やら書類に記載を始める医者。

「分かりました。ありがとうございます」

 俺は礼を述べるとアイシアを連れて、いったん王城へと帰る。

 そしてクラミーを始め、主要メンバーを招集する。

 クラミーに、その側近ライオウ、ベネット。それにアイラ、ソフィア、波瑠もいる。

「アイシアの楔石を取り除くため、俺は明日国立中央魔法病院に行く。アイシアが亡くなった場合を想定して欲しい」

 そう告げるとみんな憂いを帯びた視線を向けてくる。

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