第26話 デートしたい☆
パレードが終わり、お祭り気分もすっかりなあなあになっていった。
「やっぱりこのままじゃだめだと思うのじゃ」
アイシアによって集められたソフィアとアイラがこくりと頷く。
波瑠とクラミーはこの場にいない。
アイシアによって集められた二人が声を上げる。
「お兄ちゃんの喜ぶ顔がみたいな☆」
「そうね。それも
みなの同意が得られたあと、アイシアはこの街の地図を広げる――
「デートコースに使えそうな場所は洗い出しておいたわい」
「へぇ~。これがおすすめの場所なのね」
ソフィアが感心したようすで呟く。
「でもお兄ちゃんの好きそうな場所を探さないと☆」
アイラは慎重にデートコースを
「それなら問題ない。こちらにあやつの好きなものをピックアップしておいたのじゃ」
「さすがアイシアさんですね」
ソフィアがサムズアップする。いつもの冷静な彼女ならこんな行動をとらないだろう。しかしジューイチのこととなると歯止めが効かかないのだ。
三人ともデートプランを練るとデートする順番を決める。
「くじ引きじゃ。お主らの好きなものをとるがよい」
棒切には数字が刻まれており、その数字を手のひらで隠して即席のくじを完成させると二人に差し出す。
「むむむ。アイラはこれ☆」
「じゃあ私はこれで」
二人が引き終わるとわしは密かにかけた魔法を放つ。
一番アイラ、二番ソフィア、三番アイシアの順番になる。もちろんこれは出来レースだ。
アイシアの魔法がかかったくじである。間違いない。
デートをするなら一番最後が印象的になる。加えてアイラのような破天荒な子が前後にくると霞んでしまう。
となればこの順番が最適解なのだ。
わしは強かな目で二人の様子を見つめる。
「それじゃ、くじを回収するぞい」
「え。回収するの☆」
アイラが意外そうな声を上げる。
「もういらんじゃろうて」
「それもそうか☆」
アイラは素直にくじを差し出す。
それに習うようにソフィアも差し出す、が、
「ちょっと怪しいな。まあいいけど」
ソフィアが感づいているかもしれない。
ゴクリと生唾を飲み下す。
「してデートの準備をするかのう」
「そうだね☆」「それはいいが……彼に断られたらどうするんだい?」
カエルが潰れたような声を上げるアイシア。
「うぐっ。じゃ、じゃが優しいジューイチのことじゃ。きっとデートしてくれよう」
「アイラもそう思う☆」
まったく脳筋どもは。
ぐへへへとアイラの筋肉を見つめるソフィアだった。
翌日。
城内をクラミーと一緒に回っているジューイチお兄ちゃんを見つけたアイラは飛びつくように駆け抜けていく。
「お兄ちゃん。見つけた!」
「なんだ? アイラじゃないか。どうしたんだ? こんなところで」
「これからデートしよ☆」
「へっ?」
俺は上ずったような声を上げ、飛び退く。
「あらあら、可愛らしいじゃない」
クラミーは微笑ましいものを見るように呟く。
「い、いや俺は……」
背の低いアイラは俺を見上げ、つぶらな瞳で問う。
「いこ?」
この瞳には勝てない。そう察した俺は力なく答える。
「分かった。少しだけだぞ」
「やった――――っ☆」
嬉しそうにぴょんぴょんと跳ねるアイラだった。
「これからの護衛はアイシアと波瑠に任せます。いいですね?」
俺はクラミーにそう告げるとアイシアと波瑠を呼びに行く。
「クラミーの護衛? わたしが?」
不思議そうに呟く波瑠。
「わたし戦えないわよ?」
「本当か? ステータスを見せてくれ」
「別にいいけど。ステータス」
能力の欄を見やると【空隙の魔女】と書かれているではないか。
「そこをタップしてくれ」
「ここ?」
波瑠は不思議に思い【空隙の魔女】をタップする。
【空間を操る能力】
いやいや。こんなチート信じられるか?
これがあれば万の軍勢すらも制することができそうだぞ。
「波瑠はこれで倒せるな。任せたぞ」
そう言って波瑠に護衛を任せると今度はアイシアを頼る。
「波瑠だけじゃ不安だ。君も一緒についててやれ」
「ほう、仕方ないのう」
案外すんなりいくものだから怪訝な視線を送る。
「なんじゃ?」
「随分、素直だな、って思って」
「バカ言うんじゃないよ。わしはそんなに聞き分けのない子じゃないのよ」
そうかな。自分の芯を曲げないところがあるように見えるけど。そして理知的だ。
こんな急な話に乗ることも珍しい。
「理由を聞かないのが怪しい」
「ぎくっ。…………そうじゃな。何用かね?」
「アイラとデートする」
「そ、そうかのう。良かったじゃないか」
俺の背中をバンバンと叩くアイシア。
「なんか怪しいな……」
「な、何を疑っておる。さっさと行ってこい」
アイシアがあとを押すと俺は後ろ髪を引かれる思いでアイラのもとに向かった。
「ああ。ようやく来た☆」
「悪い遅れた」
待ち合わせの場所。中央広場にて彼女は布面積の少ない突飛な格好をしていた。
端的に言ってエロい。
横乳が見えているのだから。
「その格好なんとかならんのか?」
「フェネックが服を着ることじたい、ありえないの☆」
どうやら何を言っても無駄らしい。
「で。どこに行くんだ?」
「スポーツしよ☆」
アイラに連れられて町外れにある
そこにはテニスコートが広がっており、玉やラケットも揃えてある。
一時間300ギルで使い放題らしい。
しかしこっちの通貨はなれないな。どのくらいなのか分からない。
俺は苦い顔を浮かべながら、ラケットを手にする。
とはいえ俺はあまり得意ではない。
一応かけておくか。
【反転】
俺の足元に瘴気のようなものがにじみ、身体に取り付く。
だが、悪い気分じゃないし、実際には害がないらしい。
あのあとアイシアにも尋ねたが、問題ないそうだ。
昏き漆黒の闇を纏いし者、汝に力を授けよう――。
と言っていた。
それがどういう意味を持つか分からないが、俺は不運を幸運に変えることができる。これはそれなりに楽しい。
俺がコートに入るとアイラもテニスラケットを構える。
「いくぞ!」
俺がボールを投げ、ラケットで打つ。
すると風に煽られたボールは左から大きく曲がり右のコート。その端に落ちる。
「すっごい――!」
目を輝かせるアイラ。
「もう一度打ってみて☆」
「え。ああ」
テニスのルールを知らない俺からしてみれば、サーブを打つ順番など分からない。
それにこれは遊びだ。
公式ルールに
俺は再びボールを投げ、打つ。
今度は無風でボールが真っ直ぐに伸びる。それを見ていたアイラは全身の筋肉をバネのように伸縮させ、一気に跳ね上がる。落ちる寸前のボールを打ち返す。
その肩の力で、俺のコートに飛んでくる。
おいおい、マジで本気になったぞ。マズイな。
俺は歯噛みをし、ボールを投げやる。
「アイラからでいいぞ」
「じゃあいくよ☆」
そう言って跳躍、ボールと一緒に高い位置からのサーブ。
だが吹き重力加速度を味方につけたボール、その速度は向かい風により減速していった。
これなら打てる!
俺は確信し、ボールを打ち返す。
何度かラリーを続けていくうちに疲労と手足のしびれがきた。
「そろ、そろ……終わり、に……しようか?」
「そうなの☆ アイラはまだ遊び足りないけど☆」
ご機嫌なのはわかるが、こっちの体力も考えて欲しい。
「じゃあ、今日のデート楽しかった?」
真摯に向き合うアイラ。
やめろ。そんな顔をするな。
でないと、
「ああ。楽しかったよ」
俺は顔を背け、照れくさそうに呟く。
アイラの快活な様子を見て、楽しくならないはずもない。
いつも元気だが、今日は一段と元気だったな。それほど嬉しかったのだろう。
さっきから尻尾がフリフリと揺れているし。
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