第24話 緑魔法の覚醒

 鳳凰谷に向かう途中、野宿をしたユウト達一行。

 ユウトは龍脈を流れる緑の王妃様の、氾濫した安らぎ魔法を浴びてしまう。

 その結果幼児退行してしまうユウト。

 ユウトを元に戻す術を、フィーナもミクも、持ち合わせていなかった。



 ユウトを元に戻すため、安らぎ魔法を試みるミクだったが、ミクの安らぎ魔法では、王妃様の安らぎ魔法に対抗出来なかった。

「そ、んな。」

 膝をついた状態のフィーナの瞳から、涙が流れる。

「わ、私では無理でしたが、姉のミントニスなら、出来るかもしれません。」

「ミントさんが?」

「はい、ミントニスお姉さまは、安らぎの緑の大地との異名を持っていて、安らぎ魔法ならば、お母様の上を行き…ます。」

 フィーナを励まそうと、ミントニスの名前を出したフィーナだが、トーンダウンしてしまう。


 第三王女のエメラルド・ジュエラル・ミントニスは今、異世界に行っているのだった。


「すみません、レスフィーナさん。」

 ミクは力弱く、フィーナに謝る。

「あなたが謝る必要ないじゃない。」

 フィーナはゆらりと立ち上がる。

 そして川の浅瀬でしゃがんで大泣きするユウトに近づく。

「悪いのは、ユウトよ!」


 パチん!


 フィーナは思いっきり、ユウトの頬を殴る。


 バシャん。

 殴られた勢いで、右側に吹っ飛ぶユウト。

「なんで殴るの、フィーナの馬鹿ぁ!」


「うるさい!」

 言い返すユウトを、再び殴るフィーナ。

 パチん!

「ユウトの馬鹿ぁ!」

 パチん!

「ユウトの馬鹿!」

 パチん!

「ユウトの馬鹿ぁ!」

 パチん!


「やめてください、レスフィーナさん!」

 ミクがやっと止めに入る。

「ユウトの馬鹿ぁ!」

 ミクに止められ、しゃがみこんだまま、フィーナは叫ぶ。


「泣いてるの、サーファ?」

 涙を流すフィーナを見て、ユウトがつぶやく。

「誰に泣かされたの?

 サーファを泣かすヤツ、俺、許さない!」

 フィーナに近づくユウトだが、川の石に足を滑らせ、転んでしまう。


「サーファですって?」

 ミクがつぶやく。

 この異世界ジュエガルドの王女を、その愛称で呼ぶ異性は、いずれ家族になる事を許された者のみだった。

「別に深い意味はないわ。

 異世界に居た時に、そう呼んでただけ。」

 とフィーナは答える。


 そんなはず無いじゃない。

 出かけたその言葉を、ミクはのみこむ。


「サーファ!」

 ユウトの叫びに、川の水が吹き飛ぶ。

 ユウトの身体の周りを風が吹き荒れ、ユウトの身体が宙に浮く。

「そんな、緑魔法舞空術?」

 川底から数センチ身体を浮かせ、川の水を弾き飛ばしながらフィーナに近づくユウトを見て、ミクは驚く。


 風の力で身体を浮かせる。

 これには相当の魔力が必要だった。

 それにユウトの身体を取り巻く暴風。

 これは肉体強化魔法の最上位。

 なぜユウト様がいきなり強力な緑魔法に覚醒したのかと、ミクは思う。

 そして今のユウト様の状態は、長くは保たない。

 いずれユウト様の命を奪う!


「サーファを泣かしたヤツ、誰?

 俺、そいつを許さない。」

 フィーナの目の前で、身体を浮かせるユウト。

「そいつなら、鳳凰谷にいるわ。」

 フィーナはにこりと微笑む。

「行こう、サーファ。」

「ええ、行きましょう。」

 フィーナは妖精変化して、妖精体になる。


「ま、待ってください、レスフィーナさん!」

 そんなフィーナを、ミクが止める。

「今のユウト様は、危険な状態です!

 このままでは命に関わります!」


 対してフィーナは首をふる。

「だから行くんじゃない。」

 と言われても、ミクには意味が分からない。

 ユウト様の肉体強化魔法を解かないと、ユウト様が保たない。

 レスフィーナさんのために怒ってるユウト様も、幼児退行したままなのは、変わらない。


「鳳凰谷の魔素を浄化すれば、王妃様も正気になる。

 そしたら、ユウトの事も、戻してもらえるじゃない。」

「そういう事ですか。」

 ミクもやっとフィーナの考えを理解する。


「じゃあ、行ってくるわね。」

 ユウトの左肩につかまったフィーナが、にっこりと手を振る。

 ユウトの身体が少しずつ浮かび上がる。

「ま、待ってください、私も行きます!」

 なんか置いて行かれそうなんで、ミクは叫ぶ。


「ミクさんは、ここで待ってて下さい。

 俺はサーファを泣かしたヤツを、ぶっ倒してきます。」

「で、ですがおふたりとも、鳳凰谷の場所、知りませんよね。」

「サーファ知らないの?」

 ユウトは左肩のフィーナに聞いてみる。

「知る訳ないじゃない。ここは青の国じゃないんだから。」

 とフィーナはニヤける。


「だから私を連れて行きなさい、ユウト様。」

 ミクは自分の胸を叩き、ユウトを見つめる。

「分かりました、ミクさん。」

「きゃ。」

 ユウトはいきなりミクをお姫様抱っこ。


「鳳凰谷の方角は、どっちですか。」

「あ、あっちです。」

 ミクはある方角を指差す。

「あっちですね。

 しっかりつかまってて下さい、よ!」


 ユウトは緑魔法舞空術を使い、その方角へ空を翔ける。

 速度的にも、普通に全力疾走するよりも早かった。




次回予告

 み、皆さま、ごきげんよう。エメラルド・ジュエラル・コマチヌアです。

 すみません、鳳凰谷を守ってルビーと戦ってたのですが、私の力が足りませんでした。

 私を信じて異世界に行ったマドカリアスお姉さま、それにミントニスさんには、会わせる顔も、ございません。

 ミクルーカさんにも、謝らないといけませんですわね。

 折角青の国から、援軍のレスフィーナさんをお連れになったと言うのに。

 赤の王女のルビーは、私にとっては相性最悪でした。

 ですが、言い訳はいけませんですわね。

 悪いのは全部、こうなるまで放っておいた、あさぼらけのボケ野郎ですから!

 何よ、1話1万文字くらい使ってたら、とっくに鳳凰谷の戦いも終わってたんじゃないの?

 あさぼらけのボケ野郎!

 私が死んだら、バケて出てやるんだからね!

 次回、ジュエガルド混戦記激闘編、哀しい運命のルビー。

 お楽しみに。


※最近、キャラが暴走しだして、予定にない行動を取るようになりました。

 私も書いてて心踊ります。

 そんな訳で、この予告とは全く異なる可能性がありますが、ご了承下さい。

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