第13話 ルビーと女性戦士
龍神山に現れた青い龍は、龍脈からあふれた魔素が具現化した物だった。
この青い龍は王妃様の精神を取り込んでいた。
ユウト達の活躍で、青い龍の魔素は浄化され、王妃様は自分の意識を取り戻す。
そんな王妃様との再会を喜ぶフィーナ。
しかし青い龍はフィーナの目の前で突然、炎に包まれる。
突如現れ、青い龍を炎に包んだルビーと女性戦士。
確かケーワイと呼ばれていた女性戦士。
地球ではライダースーツにフルフェイスのヘルメット姿だった。
今は全身を騎士の鎧兜で覆っている。
漆黒の中にも暗い赤色を宿したその鎧姿は、女性らしいフォルムを保っていて、どこか色っぽかった。
「ほんと、礼を言うわ。
龍を弱らせてくれて、ありがとう。」
ルビーと女性戦士は、炎に包まれる青い龍に向かって、あゆみを進める。
「なんで、こんな事したのよ。」
妖精体のままのフィーナは、妖精体のルビーをにらむ。
人間体のアスカは、炎に包まれる青い龍を見ながら、呆けたままだ。
ユウトは女性戦士の威圧的な気迫に、圧倒されている。
今の青い龍は、王妃様の精神の一部を取り込んでいる。
王妃様そのものではないので、ここで青い龍が殺されても、王妃様には影響しない。
とはいえ、お母様の精神が宿っている者を殺されるのは、いい気がしない。
「なんで?
そんなの、ジュエガルド統一のために決まってるじゃない。」
ルビーと女性戦士が燃える青い龍に近づくと、炎は一気に燃え上がり、そのまま青い龍を焼き尽くす。
「お母様!」
フィーナは思わず叫ぶ。
アスカは膝から崩れ、そのまま呆けたままだ。
「うるさい。
そこで黙って見てな。」
ルビーが何やら呪文を唱えると、青い龍が燃え尽きた場所に魔方陣が浮かぶ。
これはユウトも地球で見た、魔石から魔素を取り出すための魔方陣。
青の国の龍脈のパワースポットで、赤の国の王女が浄化の魔方陣を使う。
これは、青の国の龍脈が、赤の国の色に染まる事を意味している。
ジュエガルド統一とは、ジュエガルド全土を赤の国の色に染める事。
「させないわよ、そんな事!」
フィーナはルビーに飛びかかる。
しかしフィーナの前に女性戦士が立ちはだかり、フィーナ目がけて剣を振り下ろす!
ガキん!
女性戦士の一撃を、ユウトが受け止める。
アスカから預かった退魔の剣で。
「ぐぐ、」
女性戦士の一撃は重かった。
その重い一撃を、そのまま押しつける。
地球では接近戦を苦手とし、遠距離からの魔法攻撃に頼ってた女性戦士。
今の女性戦士は、同一人物とは思えなかった。
「ユウト君、私もね、こっちに来てから強くなったのよ。」
女性戦士はユウトの心を見透かす。
女性の声は、騎士の兜によって声色がクグもる。
地球にいた時もフルフェイスのヘルメットでクグもっていたが、今はもっとクグもって、それが女性の声である事さえ、分からない。
「アスカ何やってんのよ、ルビーを止めて!」
ユウトとともに足止めされるフィーナは、アスカに向かって叫ぶ。
膝から崩れて呆けたままのアスカは、フィーナの言葉で我にかえる。
そしてルビーに飛びかかる。
「おっと。」
ルビーはアスカの突進を、難なくかわす。
しかし同時に魔方陣は消える。
「あとちょっとの所で邪魔が入ったわね。」
ルビーは少し顔をしかめる。
「でも、これが手に入ったから、良しとするわ。
あとはこれを赤く染めるだけだし。」
ルビーの手のひらの上で、大つぶの青い魔石が、鈍い輝きを放っている。
「返しなさい、それを!」
アスカは妖精変化して、妖精体のルビーを追いかける。
「おっそいわよ、サーファ。」
ルビーはアスカの追撃を、ものともしない。
「何してるの、ケーワイ。早くサーファを始末なさい!」
そしてルビーは、女性戦士にハッパをかける。
女性戦士は重い一撃を、ユウトに押しつけている。
受け止めるユウトの表情に、苦痛の色が浮かぶ。
「ユウト君、私ね、こんな事も出来るように、なったの、よ!」
突然女性戦士の剣から、炎が噴き出る。
「わ。」
突然出現した炎の剣に、ユウトはバランスを崩して尻もちをつく。
ユウトの背中にしがみついてた妖精体のフィーナは、地面に叩きつけられて、気を失った。
「いいわよ、ケーワイ。そのままそいつも、始末なさい!」
アスカから逃げながら、ルビーは女性戦士に指示する。
女性戦士は、ゆっくりと炎の剣を振り上げる。
「殺すの?ユウト君を?この私が?なんで?」
女性戦士は炎の剣を振り上げたまま、ぶつくさと独り言を繰り返す。
「何やってるのよ、ケーワイ!
あんたジュエガルド統一に、協力してくれるんじゃなかったの!」
アスカから逃げながら、ルビーが叫ぶ。
「うわああああ!」
「うおおお!」
女性戦士とユウトは、同時に叫び声をあげる。
ユウトは物質精製魔法で刀を創りながら、その刀を振り上げる!
ピシぃ。
精製される刀は、女性戦士の兜をかすめる。
兜の一部が弾けとぶ。
女性戦士の右目周りが、露わになる。
「え?」
ユウトはその右目周辺に、心当たりがあった。
女性戦士はハッとして、片手で右目を隠す。
「嫌、嫌、」
女性戦士は首を振りながら、ゆっくりと後退る。
兜の一部が欠損した今、女性戦士の声も、少しははっきりと聞こえる。
誰の声なのか、判別出来るくらいには。
「まさかあなたは、山吹先輩、なのですね。」
「嫌ー!」
名前を言われた女性戦士は、ユウトが台詞を言いきる前に、走り去った。
山吹奏恵〔やまぶきかなえ)。
ユウトのバイト先の先輩。
おっとりとしたユウトの憧れの先輩とは、とても同一人物とは思えなかった。
しかしその先輩が、大型バイクを乗り回し、意外とアグレッシブな一面がある事を、ユウトは知らない。
「あ、ちょっと待ちなさい!」
「もらったぁ!」
ルビーが女性戦士に気を取られた隙に、アスカは青い魔石を取り戻す。
そして人間体に戻り、ユウトの隣りに立つ。
「さあ話してもらうわよ、あなたが何を企んでるのかを。」
アスカが立つのは、洞窟の入り口側。
洞窟の奥に居るルビーに、逃げ場はなかった。
アスカは右手に魔力を込める。
アスカは青の捕縛系魔法、スパイダーネットを発動させるつもりだ。
アスカはルビーに一歩近づく。
そんなアスカの右手首を、ユウトがつかむ。
「え?」
アスカの右手に集中した魔力は、散逸する。
その隙をついて、ルビーは逃げる。
「な、何するのよ、ルビーが逃げちゃったじゃない。」
「どうしよう、フィーナが動かない。」
文句を言いたいアスカに、ユウトは泣きっ面をさらす。
「え?」
しゃがむユウトの足元に、妖精体のフィーナが転がっている。
「はあ。」
アスカには、フィーナの現状がすぐに分かった。
この妖精体は、浄化の腕輪が姿を変えた物。
例え壊れたとしても、死にはしない。
強い衝撃で、一時的に機能が停止する事はあっても、すぐに復旧する。
つまり今のフィーナは、寝たふりである。
こんな事でルビーを逃がしてしまったのかと、アスカはちょっとイラつく。
「キスでもすれば、すぐに治るわよ。」
とアスカは吐き捨てる。
「キス?」
「そ、キス。王子様のキスで王女は目覚めるって、昔から決まってるのよ。」
「わ、分かった。」
ユウトは両手に妖精体のフィーナを乗せ、目を閉じてゆっくりと口を近づける。
「や、やめなさい!」
パシっ。
フィーナは近づくユウトの頬をはたき、そのまま後方宙返りしながら人間体に戻る。
「ちょっとアスカ、バカな事言わないでよね。
私だって、落ち込む時くらい、あるんだから、」
「フィーナ、うわーん。」
思わずアスカに文句言うフィーナ。
アスカは、お母様の精神が宿る青い龍を殺され、呆けてしまった。
双子の妹であるフィーナも、気持ちは同じだった。
あの時は気丈に振る舞っていたが、地面に叩きつけられたショックで、弱気な気持ちが、上回ってしまったのだった。
そんなフィーナに、ユウトはしゃがんだまま抱きつく。
ユウトはフィーナのお腹辺りに顔をうずめる。
「ちょっと、離れなさいよ、ユウト。」
「フィーナ、フィーナ、うわーん。」
フィーナはユウトの顔をぐいぐい押すが、お腹に抱きついたユウトの身体は動かない。
「やれやれ。」
アスカはユウトが投げ捨てた剣と鞘を拾い、剣を鞘に収める。
「そいつはおまえの事を心配してたんだ。
ちょっとくらい、あまえさせてやれ。」
アスカは少しニヤけながら、言い放つ。
フィーナのせいで、ルビーを逃がしてしまった。
しかしフィーナの気持ちも分かるので、アスカは強く責められなかった。
ユウトはひとしきり泣いた後、我にかえる。
恥ずかしい気持ちでいっぱいになりながら、ごめんとぽつりつぶやいた。
対してフィーナは、何がごめんなの、とニヤけながら聞き返すが、ユウトはだからごめんって、としか言えなかった。
三人は洞窟をあとにし、転移魔法で青の城に戻った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます