第5話 道を導べし者


その瞬間

「ギュウウウウウウン・・!!」


「!!?」


(なにこれ・・!!)

リズの周りや黒いモンスター達は変わっていなかった


だけど

もう世界全体を赤く染めていた風景の方が大きく変化を遂げていた


「  」

遠くにあって煙を噴き出していたアナザスフリードの建物があった場所の方向、

そこには別の超次元の物体が存在していた


それは始めはまたとてつもなく大きな爆発が起こって

その炎か何かが空に昇っているのかと思った


でも違った

それは圧倒的巨大な質量

グイン!グインと地平の果てからおぞましく次々と湧き出した、

それは見たこともないほど果てしなく大きな怪物のような異様な建造物たちだった


その建造物たちがリズの視界に現れた時



「「 ワタシタチ ハ 失敗シッパイシタ・・  」」



(え・・・?)


「「  モウモトニハカエラナイ・・  」」



その時 その世界の中で

どこからともなく聞こえたような記憶の声

それはその大きな建造物自身の内側から聞こえてきたような気がしたけど

その響いてきた声は重なった女の人の様な不思議な声だった


( 失敗、した・・?)


ぐるぐると変貌して渦を巻く荒れた暗い空

そこにはいつの間に

さっきの怪物のような建物が集まって大きな都市群のように広がっていて

だけどその怪物のような建物たちはみんな大量の窓から火を噴き出していて

その一部は大きな爆発音を立ててすでに倒れ始めていた


それを見てハッと気が付く


それは・・潰れた後の廃墟の一部の残骸しかリズは見たことがなかったけど

その建造物にあった特徴が

まるでオリジンの滅んだ古い建造物の崩壊前の姿のように思えた


「(ズキン・・!)」

そしてそれを見た途端にリズの頭の中に貫くような最大限の痛みが走る


「・・っ!頭が、いたい・・!」


リズが頭を抑えると少しだけ痛みが和らぐけど

「「  」」

変貌していた異様な建物の風景がチラチラと歪んだように元の世界に戻ったり、

またリズの視界に現れたりを繰り返す


「」「 」「」

見えている意識が混在して壊れてしまったようになり

それがリズの頭に負荷をかけて

ズキズキとした痛みが波のように引いてはぶり返す


(! なん、なの・・?これは・・、世界が本当に変わってるわけじゃない・・?

私の・・記憶の世界? でも私はこんなの知らない

だれなの、これはなんの記憶なの・・?)




 「バシュウウウ・・」


その時 目まぐるしく変わるリズの世界の中でまた変化が起こる


今度は近くにいた、

あの顔のない男の子にまとわりついていた黒い繭の広がった塊と

モンスターの姿が一瞬で掻き消えたかと思うと


「カッ」

男の子の突き出した手の指に集まっていた白い光が

その男の子の指がさす離れた方向へ 

魔法の光線のように一気に移動した


移動した先で白い光はジジジ・・と点滅しながら

やがて一点に集まる


その時

「ズ・・」ピシ


「それ」は

黒いモンスターたちが前に空間を裂いて出てきたのと同じように

一点のその場所から空間に亀裂が走る


ただその亀裂が黒いモンスターたちが最初にやってきた時と全く違うのは

その亀裂の穴が黒ではなくひたすらに白くて 


黒い悪魔のようなモンスターたちが現れて徘徊する赤く染まった世界で

さらにオリジンのいびつな大都市の怪物のような建造物たちが

グロテスクな虫か何かのさなぎのように動いて湧き出して

空間に轟きながら世界を侵食するように次々と埋め尽くしていく中、


その白い亀裂の辺りの近くの空間だけが

浸食して混沌とした世界の変貌から切り離されて止まっているようで


その空間に突如現れた謎の光の穴の白さのほうが異物であるように

リズには感じられたのだった


・・

それから変化はすぐに起きた


その出現した亀裂にできた中央の丸くなった白い光の穴の中から

最初にやってきたのは謎の光る虫たちだった

「シュシュシュ・・!」

小さい羽の生えた光る機械の虫が大量に白い穴から出現して

そのすぐ後にそれはやってきた


「ズズズ・・」

それは白さとは似つかないような 深い漆黒の物体

その物体が光の穴からでてきて その場の地面にボスン・・落ちる


これは・・・帽子?のような とてもつばが広い

(この帽子の形、・・)


するとさらにその帽子から 

わずかに黒い光と波動のようなものが発生したかと思うと


「  」

一瞬でブワッと地面の下から風が巻き上がり

そのつばの広い帽子を上に噴き上げると 


その黒い帽子の中から大量の血が噴き出るように一気に白い光が流れ出て

それはだんだん人の形のように構成していく


「シュインシュイン・・」


最初に出てきた光る虫たちが

その人の形の周りに集まって包みながら飛び回り始め


本来その人の形の顔があるだろうと思われる場所の周りに集まって収束していき 

さらに集まる虫の数が増えていく


(ゴゴゴ・・!)

その現れた影のかかった人物の顔の部分は

つばの広い影の帽子とその羽虫のような機械生物で遮られて隠れてしまい

よく見えなかった


「パシュウウ・・!」

やがてその人物の体の形が完成すると

始めのひび割れた白い光の穴の空間は飛散して消えてしまった



「「・・・」」


止まった地獄の赤く染まった悪夢の中にいるような異界の世界に

白い光と共に現れたその異様な人影


(だ、だれ・・?)


その人物は道の離れた場所に立って前の方を向いていたので 

リズにはその人の顔は一切わからない


だけど現れたその人物の姿は後ろ姿でもすでにズタズタになっていて

ボロボロのようだった


体が構成された時に少し宙に浮いた状態だったようで

光が消えると

わずかに風が起こって地面にゆっくり着地するようにその人物は降り立つ


「  」

前を向いたまま 

その人物は異次元の地獄の世界の空を見上げて一言だけつぶやいた



「 こうなってしまうとはな 」


それは機械のような音声で

だけど思ったよりもあっさりとしたなんでもないような声だった



時が止まったみたいだった

(・・・・・)


だけどそれは一瞬のこと


次の瞬間には

その現れた人物に対して黒い悪魔のようなモンスターたちが

なぜか異常な怒りのような行動をみせ あらぶり始めた


「シャアアアア!」「ゲゲゲッゲゲ!」

「  」

現れた人影に近い場所にいた黒いモンスターの大半は

それまで侵食して呑み込もうとしていた町の人たちを放置して

次々とその人影に飛びかかっていく


「・・!ゲギギ・・」

だが距離が離れていた黒いモンスターは飛び掛かっていかず

急ぐようにその場ですぐに

黒い繭に包んでいた町の人たちを侵食していくスピードを速めたように見えた


私や隣のリコのすぐ近くについて侵食してきていた黒いモンスターは


「ΨΣΔΜ・・」

「ギリ、ギチ・・」

何かをいいながら体を一気に囲ってその黒くて長い異形の腕で触れて

黒い繭で包み込みながら

私や動きの止まったリコのことを締め上げようとする


(ギイイ・・)

私たちを完全に捕えてのぞき込んでいた悪魔のような赤い目が歪んだように

笑っていた気がしていた


「・・・」

だけど私はそのとき黒いモンスターの方を見ていなかった


その先の方を見るのに意識が集中していたのだった


なぜなら私は

その現れた黒い人影のシルエットの断片の特徴をたぶん知っていたから


その顔を隠すように深くかかる影の色の帽子と 

そこからあぶれたわずかな面影すら

全て覆い隠すようにしてその周りを高速で飛びまわる電子の機械生物


(あれは・・!)


((  ))

それは小さい時に見た影からやってきたあのオリジンの怪人の姿

でもあの時見た記憶の影の怪人ではなく つば広の帽子を被っている姿


その時 

「!」

「ジジジ・・!」

異次元の嵐の最中にいたようなわたしの目の前の先に

突然小さな白い光がパッと現れて

それにびっくりしてとっさに注意がその白い小さい光に向かう


(蝶・・?)

その光の形は白い羽根を持つ蝶に似ていた

そんな白い光はわたしの方にさらに光を強くしながら近づいてきて

わたしの胸元の中心のある程度近くまできた途端に


「  」(ポウン・・!)

そこで溶けるように消えてしまった


「えっ・・・!」

慌ててしまい リズは光がやってきた方向の周りに顔を向ける


蝶のような光が来た方向、

それはあの顔のない男の子がいた場所からで

一瞬だけ視界に映る


だけどその男の子はさっきのように立ってはいなかった


「  」

最初に顔のない男の子を行き止まりの端で見かけたときのような座った状態

異次元の空間で動きは止まっていたけど

それまでなかった男の子の顔には

ちゃんと元の男の子の目も口もついていて姿は元に戻っていた


(ど、どういうこと・・・?)


「キィン・・」


割り込むように何かの金属が響くような音がして

リズはまた視線を影の怪人のような存在がいた元の場所にすぐ戻す


その影の怪人の姿はさっきよりもよく見えていた


それは

その怪人はもう向こう側を見ていなかったからだ



「!」

こちらの方を向いて

その影の怪人は私の目の方を見ていた



(え・・・)

また時が止まったような気がした


闇に包まれてはっきりと見えないその怪人の姿は影というより

その先が見えない漆黒に近かった



その時 


(ズキン・・!)「・・!」

私の頭の中の痛みが強くなって

生きている怪物のようなオリジンの都市群がついに空まで覆って

世界に迫っているのがはっきり見えた


それは通信都市の形だけかたどった都市ではなくて

本当のかつて宿した意思を持ち、

自分で動くこともできたと云われていたオリジンの古代都市の

異様な迫るような力を感じていた


「「  」」

いつのまに渦を巻く空の一番頂点にあった、

歪んだように異次元に煌々と輝く赤い太陽のような天の星


その星に湧き出した群の中で一番巨大だった建造物の塔が

自分で自分の構造の骨組みを組み替えて変形を次々と繰り返して

うねるようにして到達してその頂に触れようとした、


その瞬間


((  ))

その触れかけた太陽のような天の星と

その一番高かった建造物の塔との間に 


「   」

かすれたような翼の姿の何かの存在、


それは私にとって見覚えがあったような

黒い翼の「女悪魔」の姿が一瞬だけ見えた気がした


(・・!!)



「「ズギャアアアアアアアン!!」」


その時

天に触れようとした建造物に向かって突然強い光が天から落ちてきて 


(((   )))

その光はまるで巨大な天使の光輪のようになって広がる


天の星に触れかけた変形した建造物の塔たちは

光の力によって一瞬で内側から内臓が押し出てくるようにして破裂する


そしてその巨大なオリジンの文明の都市群は

その光輪から広がっていく大きな光に包まれて

なだれ落ちるように崩壊していく


「!!!」

(巻き込まれる・・!!! こんなの・・、みんな助からない・・!)


そしてその破滅の光は辺りの空間の全てを巻き込んで包んでいき

リズのいた場所にも迫っているように見えたが


「「  」」

「・・!」

やっぱりこの空間の周りだけは止まっていて変化のないままだった



(ググ・・!)

その間にもさっき飛び出していった黒い異形のモンスターたちは

光に爆発する周りの世界のことなどまるで構わず気がついていないように

現れた漆黒の影の怪人に次々と群がる


だがモンスターたちは獰猛におそいかかるそのままの飛び込んだ姿で

その怪人の手前、その場の空中でぴったりと固まっていた


いや よく見るとゆっくり とてもゆっくりだけど動いている

まるで時間の進み方が

その怪人の操る周りの空間だけ異様に遅くなっているようだった


「ズ・・」

すると漆黒の影の怪人は全身から凝縮された力のオーラを放出しながら

そのやってきた異形のモンスター達に対して

両の腕を肩から水平に近いところにまでゆっくりとあげていく


その両手からは


「ギュイイイイン・・!」


強力な電子のゆがみ、とてつもない爆発をおこしそうなほど

エネルギーが秘められていることが分かった


それが怪人の機械装甲のような手の先に収束していき、強く光りはじめる


高密度のエネルギーが臨界して音をあげて高まるごとに

電子の機械虫たちが影の怪人の顔の周りを

一層速度を上げながら光になって飛び回る


「  」

都市に落とされた天からの光は

もう今いる場所の真上の空まで包み込むように迫っていたが

もうリズの意識はその怪人の操る手の先にしか向いていなかった



わたしはその技を知っていた それは「オリジン」の技だ

それも必殺の技

そしてその技を使うのは・・


(パッ・・)

電子の機械虫たちは その高密度エネルギーの爆発直前の臨界を感知すると

その軌跡に光を残しながら 

今度は影の怪人の周りを離れるように飛び乱れていく


光が乱れたその一瞬だけ

電子の機械虫たちが隠していたその漆黒の影の怪人の面影が

見えた気がした


私を見ている



「「   」」


それは


闇より屠り去る者、


かつて多くの力を持つ戦闘狂の怪人たちがひしめき合う、

魔境のようなオリジンの世界で

全てを奪い、

最も恐れられた隠された謎の残虐な破壊者としての姿


私が知っていたその技をつかうオリジンの秘密コードの怪人の素顔の詳細は

よくわかっていない

画面上でも姿には謎の影のベールがかかっていて

その名前ですら「???」で表示されているからだ



広がる破滅の光によってオリジンの古代大都市がなぎ倒されて

全てが粒子と化し破壊されていく光の世界の中


(ザ・・)

だけどその目だけは見えた気がした

目の形も見た目のなにもかも違う


「  」

だけどその瞳の奥だけ・・

かすれかけたあの時のリズの記憶の黄金色の光を宿していた




「( クルード、なの・・? )」



(クルード兄さんがそこにいたような気がした)



すぐにその影の怪人の目は

高速で飛び回る電子の機械虫に再び隠されて見えなくなる



漆黒の闇に身を包んだ怪人の両腕に膨大な光が収束していく

そして怪人はつぶやいた




「 俺は Hustlerハスラー kidキッド 」



「 辿り着いてみせろ  全てが始まる前  へ 」





白い光は爆発した




人々を侵食して包みこんでいた黒い繭や黒いモンスターたちは 

放たれたその膨大な光の白に溶けるように形が崩れていき


やってきた悪魔の黒い手に塞がれかけた私の視界から

目の前に新しい道を開けるように

黒い悪魔の影たちはサラサラと砂の霧になって消えていく


それが一瞬見えただけだった



すでに異様な大都市を消滅させて光に包まれていた遠くの世界と同じように

止まったまま残された最後のこの場所も光に包まれる


その瞬間 

私の胸元の真ん中が少し白く光っていたことは思い出せる



ただ わたしの周りや後ろにいた人たちがどうなったのかよくわからない




なぜなら わたしはそこで意識を手放していたから


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