第3話 舞い込んだお見合い
「ど、どうも……お久しぶりですね。今日はよろしくお願いいたします」
「こちらこそ、よろしくお願いいたしますわ。ローガン様」
王都にある、クリッド侯爵家の庭園にて。
私はひとりの殿方と一緒に、お茶会という名目のお見合いをしていた。
春の暖かな日差しの下。少し癖のある茶髪をしたローガン様は、少し緊張している様子だった。
ローガン様は今年で16歳になる。王家の血を引く侯爵家の嫡男だけど、それを笠に着て偉ぶる様子は一切ない。
彼とは以前にもお会いしたことがあったけれど、相変わらず
「そ、それで。今日はその……」
「本日はクリッド家自慢の素敵な庭園を拝見できると聞いて、とても楽しみにしておりましたの。ローガン様、のちほど案内していただけますか?」
「あ、はい! 是非とも案内させてください!」
会話もエスコートの動きもぎこちないローガン様に対し、私はあらかじめ用意しておいた話題を提供する。
私もそこまで男性との会話は慣れてはいないけれど。一番身近にいる人の
「(お兄様に比べたら可哀想になるぐらい、気の優しい人だわ。つい気遣いをしたくなっちゃう)」
さっきまで何を話せば良いのか戸惑っていたはずなのに、今では自慢の庭がいかに素晴らしいかを饒舌に語り始めた。
そんなお可愛らしいローガン様を眺めながら、私はこの庭のハーブで淹れたらしいお茶を口にする。
「(……どうしてこうなったのかしら)」
おかしいわね……私、お兄様の婚約者探しをしていたはずなんだけど……。
それがどういうわけか、お兄様よりも先に私に縁談が舞い込んできてしまった。
これはきっと、こちらの動きを察知した誰かがこのお見合いを仕組んだのね。
「ここだけの話なのですが。近ごろのクリッド領では、他国から取り寄せた医療用のハーブを栽培しているんですよ! とても珍しい、真っ白な雪の結晶に似た花を咲かせるんです」
「もしかして『朱雪草』ですか!? 素晴らしいですわ……さぞかし綺麗な花なのでしょうね」
「ご存知でしたか! いやぁ、是非ともお見せしたいです!……今度、こっそりお持ちしますね」
「ふふ。楽しみにしておきますわね」
ウインクをしながら茶目っ気たっぷりに言う彼に、私は笑顔を返す。
すっかり調子が出てきたのか、ローガン様はちゃっかり“今度”の予定をこぎ着けてきた。
さすがは次期侯爵家当主、あなどれないわ。貴族としての話術は、それなりに身に付けていたみたい。
「私、城の外に出ること自体が久しぶりですの。今日はたくさんお話させてくださいね?」
私の好意的なその言葉に、ローガン様は目じりを下げて、優しく微笑んだ。
ふふふ、今日は良い気分転換ができそうだわ……。
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