第4話 ジャズの魔法が見させる夢で

ジャズのメロディの波の上で私は揺れている


早朝の薄暮を ゆったりと哀しく


今日はジャズの魔法にかかる


私は思うがままの年代に行ける


小学校の入学式を覚えている


お母さんも私も一番元気な季節


中学校の入学式を覚えている


お母さんが来るのが恥ずかしくなった


高校の入学式を覚えている


難関高校に受かった誇らしい姿


母はいただろうか 覚えていない


大学の入学式を覚えている


第一志望でなく悔しかった


父が大学まで来てくれた


私は大学で挫折し転落していった


母は悲しんで父は何も言わなかった


あの頃小説を書いていて卒業が難しくなった


だが父母からは卒業した


母は悲しみ父はまた何も言わなかった


私は中退し人生は困難になった


本に関わる仕事をしようと小さな会社に入り


一生懸命働いた


あっという間に何十年が過ぎ


母は病に倒れこの世の別れを嘆いた


父はすでに離婚し風の便りもなかった


私に人生の疲労が溜まってきた頃


父の死亡通知がきた


私は一人っきりになり寂しくなった


そして今ジャズを聴きながら


やがて終わりになる人生を


噛み締めている


もうすっかり夜が明けた

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