卒業3

最終面接を終えてから、結果が出るまでの1週間は、決して暇な時間ではなかった。


というよりは、暇を持て余さないようにしていた。


多分、暇してたら面接の時のことばっかり考えてしまうし、そんなこと今更考えても意味がないので、考える暇をなるべく自分に与えないようにしていた。


そんな私が今やるべきことと言ったら、やっぱりサークル活動だ。


4年生は基本的には活動に参加しないことになっているけど、私達の代は、皆たまに顔を出していた。


皆どうにかして目標である100ページを達成しようと思ってくれているのだ。


もちろん、その気持ちは私も同じ。


今回の企業に受かっているかは正直わからないので、就活は続けるべきなんだろうけど…


いいの、今は。1週間の話だし。100ページ達成するのだって大切なことだから。







授業がないので部室で資料をまとめていると、祥子が入ってきた。


『おつかれー。あれ?さぎり?』


「おつかれー。祥子!元気だった?」


お互い就活に追われて中々会えないので、祥子とも会うのは2週間振りだった。


『うん、どうにかね。』


祥子は、何か言いたそうにしていた。


なんだろ?顔を見る限り、悪いことではなさそうだけど。


『さぎり、就活は、どう?順調?』


「順調かはわからないけど、昨日、例の会社の最終面接だったよ!」


『そっか。あの、さ』


照れ笑いのような表情。はは〜ん。なるほど!


「どうしたの?良い知らせなら、遠慮なく言ってよ!」


『あ、うん。えっと、私、就職…決まった…!』


やっぱり!


「よかったじゃない!おめでとう!」


もう、遠慮なんていらないのに!


『ごめんね、皆就活頑張ってるの知ってるから、ちょっと言いづらくて。』


「頑張ってるのは祥子も一緒なんだからいいんだよ!ね、どんなとこに決まったの?」


『うん、ありがとう!あのね…』


なんと祥子が就職したのは、出版社!詩乃がいる会社とは違うみたいだけど、祥子が入る会社も中堅の結構良い会社だった!


場所は東京みたいなので、卒業後は一人で暮らすみたい。


今の今聞いた嬉しい話だから、この場では祥子に言えないけど…


卒業したら、離れ離れか…。寂しいな。


『ね、さぎりは、結果いつ出るの?』


ちょっと言いにくそうに聞かれた。


「うん、1週間後。暇になると色々考えちゃうから、サークルに顔出したんだ!」


『そ、そっか。うん、気持ちわかるよ。私もそんな感じだったし。』


『じゃぁさ、一緒にやろうよ!久々に!』


祥子、ありがとう。


すごく良い友達。


「うん!じゃぁさ、これ、今まとめたんだけど、ページの構成考えてくれる?そしたら、私次のページをまとめてみるから!」


『OK!』


あぁ、久しぶりだなぁこの感じ。なんて思っていたら


『お疲れー。あれ?祥子とさぎり?』


え?由美??


「由美!どうしたの!」


『どうしたって、そりゃこっちのセリフでもあるんだけど』


確かにw


『なんか、就活の結果待ちなんだけど、どうにも落ち着かなくてさ。今日のところは思い切ってサークルでも手伝おうかと思ってさ』


なんだ。考えることは皆同じだねw


「そっか!それ、私も。wあ、ほら、祥子!」


『あ、ごめん、実は…』


ちょっと言いにくそうに、恥ずかしそうに内定をもらったことを話す祥子。


堂々と言えば良いのに!とつっこむ由美。


あぁ、もう既にこの日常が懐かしい。


そっか、私たち、本当にもうすぐ卒業するんだね。







1週間後、その日の私は、さすがにそわそわとして落ち着かなかった。


面接の結果は、インターネットで公開されることになっている。


時間は、午前11時…。


今は、まだ朝の8時だ。


今日こそ本当にやることをなにか決めておけばよかったと公開しつつ、でももうどうすることもできないので、詩乃に電話した。


『はい。』


すぐ出てくれた。


「ごめん、朝から。」


『いいよ、今日だろ?結果』


「覚えててくれたんだ」


『当たり前だろ』


「ごめん、時間大丈夫?」


『大丈夫だよ。今日くらい、遠慮すんなよ』


ありがと。


私は、この1週間で、祥子と由美が内定をもらったことや、久々にサークルで活動したことなんかを一気に話した。


そういえば、詩乃と改まって話をするのもずいぶん久しぶりだ。


『さぎり、元気になって本当に良かったな。』


なに、急に…


「うん」


「詩乃と、皆んなのおかげ。」


『多分、今のさぎりなら大丈夫だよ。』


「そう、かな?」


『うん。大丈夫。今のさぎりなら、どこでだってやっていけると思う。』


詩乃の声は力強かった。私も、大丈夫な気がしてきた。


『内定もらったら、お祝いしよう。良い店があるんだ。』


「あ、大人だね!」


そう言って二人で笑い合った。


さて、そろそろだ。



家のパソコンは、重いので予め立ち上げてあった。


インターネットを開いて、企業のホームページから採用情報へ。


さらに、面接前に配られたIDとパスワードを使って、特設ページにログインする。


…うん。ここだ。


合格者発表と書かれたリンクができていた。


ドキドキしながら、クリックする。


ほんの数秒をおいて、ページが更新され始める。


早く…


焦る気持ちを抑えながら、ページが表示されるのを待つ。


「あ」


上から順に、番号が表示され始めた。


私の番号は、0078








0014


0031


結構飛び飛び…


0048


0056


あぁぁぁぁ


0067


ぁぁぁぁあぁ


0078






















0078!?


ある!あるよ!


0078!


0067の次は!!


0078!!!









やったぁーー!!!!



あった!あったよ!!


早く、詩乃に、電話!!


あぁ、手が震える!!


「詩乃!詩乃!!」


『うん』


「あった!!あったよ!!」


『おう!よかったな!!』


私はもう、その後は号泣しちゃって、多分何言ってるかわからなかったと思う。


でも、詩乃はずっと付き合ってくれた。


ありがとう!!


私、ついにやったよ!!!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る