今できること

詩乃はいつだって唐突。


いや、それ自体は別に全然いいんだけど。


けど、この間のは流石にびっくりした。


だって、『結婚を前提に』だよ?


それって、プロポーズでしょう??


いや、それは、嬉しくなかったのかって言われたら、嬉しいよ?


嬉しいけど、なんていうか、そう言うのって、もっと計画的な感じだと思ってた。


詩乃が、スポーツカーで現れて、私も綺麗な格好して、お台場までドライブして、夜景の見えるレストランで食事して、メインディッシュを切ったらその中に指輪が!


っていうのはちょっとドラマの見過ぎかな?


いやでも、もう少しロマンチックな感じだと思ってたのに…なんて話をしたら


『いや、あれは前提の話だから。プロポーズはちゃんとするよ』


って説明された。


それなら、全然いいんだけど。


それにしても、自分で言うのもアレなんだけど、この歳で結婚相手を決めるって結構早いほうだと思う。


なんたって、まだ学生だし。


私は別に、これから新しい恋愛を経験したいとか、そんなことは全く思ってないので、早いのはいいんだけど。


単純に展開が早過ぎてついていけてないだけで…


それに、結婚するって言ったって、私は私でしっかり働こうと思っているし、今までと何も変わらないんだけどね。


まだ、友達にも話してないし。


なぜって?だって急だったし、なんていうか、この嬉しさをもうちょっと独り占めしたいから。w


ともあれ、詩乃とは無事に寄りを戻せたので、これからは就活に全力を注いで行こう!




教育学部に在籍しているからには、教員を目指すものだと思っていたんだけど、その考えは変わってきている。


学校って、もちろん魅力的な職場なんだけど、私としては、ちょっと規模が大きすぎるというか…


私は、学校よりももうちょっと少ない人数の中で、子供達ともっと親密になりたいと思っている。


できれば異動もないような職場で。


うーん、例で言ったら学童の先生って感じかなぁ?


塾みたいに勉強だけじゃない方がいいんだよなぁ。


でも学童だとあんまり勉強を教えたりはしないよなぁ…






あ!そうか!


学研とか、そういうのもありだ!


あそこなら勉強も教えるし、人数もそこまで多くないし、いいかも!


学研だけにこだわらず、同じような条件の教室があれば、それでもいいし!



ということで、早速就職課へ行ってみることにした。


私が希望する職種に近い求人も、いくつかあるみたい。


でも、倍率が高いって。


まぁ、そりゃそうか…私が思いつくようなことを他の誰かが思い付かない訳ないし…


その上大学の成績も大したことないんだよなぁ、私。


とは言っても、倍率が高いから諦めるっていうのも違うし。


やれるだけやってみよう!



もちろん、詩乃には話してみたよ。


『なるほど。いいんじゃないか?さぎりに合ってる気がする』


嬉しい!


「そう?よかった。でも、倍率は結構高いみたい」


『それは、どこも同じようなもんだよ。皆やりたい仕事を選ぶんだし。』


そっか。それもそうだ。


「まぁ、そっか。」


『とにかく、やるだけやってみなよ。エントリシート出してさ!やりたいことが見つかっただけでもすごいことだろ!』


「うん、ありがと!」


「そう考えると詩乃ってすごいよね!大学入る前からやりたいことが決まってたなんて」


私がそういうと、詩乃はちょっと悩んだような顔になった。


え?違うの?


『うーん、まぁやりたいことって言えばそうだけど、どうしても出版社に入りたかったわけではないな』


「そうなの?」


『うん。文章書くのは好きだけど、それを仕事にするとは思わなかったな』


へぇ、そうなんだ!


『それに、仕事で書かせてもらえるようになったのなんてつい最近だしな。まだ大半は校正だし』


「うん。でも、今の仕事は好きでしょ?」


『好きだな。好きになった。だから、必ずしも始める前から好きである必要はないかもな』


ん?


「どういうこと?」


『そのまんまだよ。俺みたいに、やってるうちに好きになれることもあるってこと』


あぁ、そっか!


「なるほど!」


『だから、さぎりの場合は、歴史と子供に関われることを軸に考えたら、もっと視野が広がるかもな!』


さすが!


「もうしっかり働いてる人は言うことがちがうね!」


そう言って笑い合った。


将来って言うか、社会に出て働くって、もっともっと遠いと思ってたけど、私たちが大人になる日は近いんだなって思った。


過去が今に繋がって、今が未来に繋がってる。


当たり前なんだけど、そんなことを考えた。


良い未来にしたかったら、今をよくすることからはじめよう!




こうして私は、本格的に就職活動を始めることにした。


とにかく気になった求人はエントリーして、説明会にも沢山参加した。


サークル活動はもちろん続けたけど、次の台の部長候補に引き継いでいく形になった。


というか、忙しそうにしている私を気遣って、後輩の方から名乗り出てくれた。


ありがとね。頼りない自分でごめんなさい。


でも、その分就職活動は一生懸命しました。


勉強とは違うノウハウが必要だから、セミナーも受けてみたりして。


だって、どうにかして自分のやりたい仕事につきたかったんだもん。


その甲斐あってか、3年生はあっという間に過ぎていき、就職が決まる頃には4年生になっていた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る