ペース配分…

『ベタだけど、やっぱり博士と助手がいいと思うんだよね。』


そう言ったのは、キャラクターデザイン担当の高木さん。ちょっと気が強くてさっぱりした、由美みたいなタイプの子


今日は、2回目のキャラクター会議。


「うんうん、それは私も思ってた。でも、できれば3人目が欲しいかなって思うんだよね。」


これには山内さんが答える。彼女は元気一杯の明るい女の子。


『3人目って言うのは、どういうキャラをイメージしてます?』


「博士は、本を読んで解説する人、助手は答える人、でしょ?3人目は、別角度からアドバイスする人、みたいな感じかな。」


うーんって唸る2人。結構気が合う2人みたい。よかった。


『すると、ポジション的には博士に近い立場ってことよね?』


「そう!例えば、【この人物はこんなことをしました】に対して、【子供の頃は暴れん坊で手がつけられなかったらしい】みたいな一口メモを入れるときに出てくるキャラクターって言ったらいいかな?」


高木さんの顔がちょっと明るくなる。


『あぁ、なるほど!それならイメージしやすい!けど、それなら最初から一口メモでいいんじゃない?』


そうね、でも


「うん、確かにそれでもいいんだけど、メモにするにはちょっと文字数が足りないとか、資料にしにくい時にはキャラクターのセリフにした方が入れやすいかと思ったの。どうかな?」


今度は山内さんが答える。


『なるほど、いいかもしれないですね。逆にメモにできることは【〇〇さんの豆知識】とかタイトルをつけておけば、それを楽しみにする子も出てくるかもしれないですね!』


おぉ!そこまでは考えてなかった!


「すごい!それいい!そこまでの発想はなかった!すごくいいアイディアだよ。」


山内さんは、短くお礼を言った後、高木さんに確認した。


『私はいいかなって思うけど、亜美はどう?』


高木さんも納得はしているみたい。


『OK。私もその案には賛成。だけど、どう言う立ち位置にするかはちょっと難しくなってくるね』


うっ確かに…


「確かにね…。」


う〜んって今度は3人で首を捻る。


番外編の豆知識ってことは、第三者的位置付けになるかなぁ?


ってことは、そもそも博士でも助手でもない、ちょっと違う立場の人か…?


研究所の…博士の…ペット、とか?


「博士の、ペット。とかどうかな?」


『ペット…?』


2人同時に聞き返す。やっぱり気が合うみたいw


『喋るペットか…』


喋る…。ん?喋る?


『オウム、とか!どうでしょう?』


うん、今私も言おうとおも


『思った!それいいかも』


3人とも結構気が合うねw


「ね!いいかも!私も同じこと考えてた!」


そう言って3人で笑った。よかった。話がうまくまとまりそう。


『じゃぁ、一旦これで決めるとして、原案を書いてみませんか?とりあえず、仮決定として』


うんうん。


「いいね!そうしよう!そしたら…」


あ、やっぱり、もうこんな時間


「デザインの分担は2人でしてもらっていいので、あとでメールで送ってくれる?後、次回の予定を決めたいんだけど、どのくらい時間が必要かな?」


今日はバイトだから、そろそろ出ないとだ。


『了解です。1週間くらいあれば、ラフ画はあげられると思います。ね?恭子?』


あ、名前。いいね!みんなちょっとずつ距離が近くなってる!


『え、あ、うん。私も、そのくらいあれば』


よかった。敬語取れたね。


「了解。じゃぁ、ちょうど1週間後の同じ時間でいいかな?」


『了解』『はい』





と言うことで、会議が終わって早々、私は学校を飛び出した。


ちょっと、急がないとだ。


駅まで早足で歩いて、電車に乗り込む頃にはちょっと汗ばむくらいになっていた。


ふぅ…。少しだったのに、息が上がっていた。


実は、役割分担の会議があってから、学校に遅くまで残ることも、バイトが終わってから作業をすることも増えて、ちょっと疲れが溜まっていた。


授業中にぼーっとしてしまうこともあるので、そろそろ意識して休もうと思うんだけど、うまく休めなかった。


そもそも私って、あんまりペース配分が得意じゃないみたい…。


高校の時も、部活やってなかったし。


あぁ、眠い。会議が終わって気が抜けたのか、急に眠気が襲ってきた。


バイト、頑張って乗り切らなきゃ。







その日のバイトは、ちょっと、いや大分よくなかった。


お客様からのオーダーを間違えたり、お料理の盛られたお皿をひっくり返しちゃって…


怪我人は出なかったからよかったようなものの、これではお給料なんてもらえない。


たとえバイトであってもお金はいただくんだし、しっかり体調管理しなきゃ。


前にもこんなことあったな。本当、気をつけなきゃ。


結局、店長に心配されて1時間早く上がらせてもらった私は、そんなことを思いながらトボトボと歩いた。


そうだ、詩乃に全然連絡してなかった。


カバンから携帯を取り出そうとすると、手が滑って落としてしまった。


あぁ、もう。


拾ってみると、画面は割れてないけど回りに傷が入ってしまった。


あーぁ。ついてないな。


携帯を握りしめたまま、またトボトボと歩く。


そうだ、詩乃に連絡するんだった。


もしかしたら、メール来てるかも。


開いてみたら、高木さんからメールが入っていた。


【博士と助手は私、オウムは恭子が担当します。よろしくお願いします。今日は、楽しかったです。頑張りましょうね】


丁寧なメール。ありがとね。


昼間は調子が良かったのに…。ちょっと凹んでいる私には沁みるメールだった。


皆、私、頑張るからね!苦手だけど、ペース配分も、ちゃんとするから。


一緒に頑張ろうね!


もう一通。これは由美からだった。


【ごめん、お節介なのは分かってるんだけど、最近無理し過ぎじゃない?祥子もさぎりの様子に気付いてるみたいだから、明日の会議はなしにして、ちゃんと休みなよ。皆にはうまくいっておくから】


あぁ、ごめんね心配かけて。このままじゃだめだ、私。


【ありがとう。ちょっと無理してたかも。明日はお休みさせてもらうね。本当、ごめん、】


すぐ返信が来た。


【いいよ!さぎりが無理するよりは全然いい!ちゃんと休んでね!】


ありがと。由美。


詩乃からは、メールは来てなかった。


忙しいのかな?


みんながくれたお休みだから、明日はちゃんと家に帰ってお休みしよう。


夜道を歩くのが、だんだん寒くなってきている。


冬がすぐそこまできてるんだ。


風邪ひかないようにしなきゃ。


明日は、授業が終わったらすぐに帰ろう。


何か、甘いものでも買って、お家でゆっくりお茶にしよう。


私のサークル活動は始まったばかりだ。


しっかり反省して、明後日からまた頑張ろう。

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