僻地ギルドの哀愁。とお魚さん

 それから数日は平穏だった。


 ルシウスはギルドの受付嬢や他の冒険者たちから、ここ冒険者ギルドのココ村支部の特徴や周辺に出没する魔物の特徴などを教わっていた。


 この支部では、魔物は海からやってくるものだけなので、出没するときとしないときの差が激しい。


 ルシウスが到着してから数日は何もなくて暇だった。


 本来なら受付にいるべき受付嬢も、ギルドの管理が仕事のギルドマスターも暇を持て余して、食堂でゆったりお茶を飲みながら過ごしていた。




「お魚さんタイプの魔物なの?」

「ええ……ここ一年の間に不定期に大量発生するようになっていて。しかも、なかなか全滅できないんです。それで我々も困っていて」


 受付嬢が言うには、この海岸は元々魔物が集まりやすい場所ではあったらしい。

 彼女は食堂の窓から見える海のほうを指差した。


「ほら、あそこ。対岸にあるカーナ王国が見えるでしょ? あの国は聖女様が自国に結界を張ってるんだけど、その結界に弾かれた魔物がこちらの海岸に来てしまうの」


 カーナ王国は世界に唯一の巨大な円環大陸、西部にある小国だ。

 吹けば飛ぶような小さな国だが、世界に十人ほどしかいない聖女や聖者を必ず一人、国に所属させている強みがある。


「カーナ王国の国境はどこも同じようなものみたい。でも、ここは間に海がある分、他の国境地域より被害が少ないはずだったんだけど……」


 この一年の間に急に、魔物が大量発生して押し寄せるようになった。

 原因は不明とのこと。




 ここ、冒険者ギルドのあるココ村のゼクセリア共和国は、数十年前まで王族が治める王国だったのだが、あまりにも王侯貴族の腐敗が酷くてクーデターが起きてしまった。

 現在は、民主主義国家として再編されている。


 冒険者ギルド自体は世界共通の組織で、国家権力とは別の独立組織だ。

 とはいえ、事情があれば互いに連携は取るのだが。


 そんなわけで、ゼクセリア共和国は国としての歴史が浅い。


 国としての歴史が浅いとは、国力が低いこととイコールだ。


 結果どうなったかといえば、ここ冒険者ギルド・ココ村支部はゼクセリア共和国からの支援も乏しく、独立採算で頑張るしかなかった。


 こんな小さな村の海岸にある、集まる冒険者たちの数も少ない僻地ギルドなのに!




「俺、別の国の地域でSSランク冒険者やってたんだけど。もう年だから引退しようかなあって嫁さんと話してたとこに、本部から冒険者ギルドのギルドマスターの話が来たわけ。ギルドマスターって自分の給料はギルドの売上を見て自分で決められるし、これまで培ってきたキャリアも後輩たちに伝えられるしで大喜びだったんだけど」


 話し続けるほどに、ギルドマスターの語尾に力がなくなっていく。


「ギルドマスターとして最初の赴任先が、ここココ村支部だったんだね。かわいそー」

「そう、そうなんだルシウス坊主! わかってくれるか!?」


 食堂でお茶を飲みながら話をしていた髭面ギルドマスターは、ルシウスの両手を大きな手で握り締めた。


 この新入り、なかなか見どころがある!


「でも、ここは海も綺麗だし空気もいいし、敵はお魚さんだけなんでしょ? 新米ギルドマスターの赴任先としては楽なほうじゃないの?」


 魔物といったって、お魚さんタイプなら空をバビューンと飛んでくるのだろうから、向かってきたところを剣で斬りつけるなり、弓矢で射るなりすれば討伐は簡単だろうと思うのだが。


「甘い……甘いぞ坊主。あのお魚さんはなあ、そんなに簡単な代物じゃねえんだよ!」


 周りの冒険者たちも皆頷いている。


 とそこへ外から駆けつけてきた冒険者が声を張り上げた。




「さ、魚だ! 魚が来たぞー!!!」




 そして話は冒頭へ戻る。


「お、お魚さんに脚生えてるー!???」


 しかも、やたらとデカい。


 いろいろな種類の魚が大漁、いや大量。


 生えてる二の脚は肌色。

 つまり人間の脚が、巨大な魚に生えている。


 もう、無っ茶苦茶にキモかった。



 つまり、生理的に受け付けないヴィジュアルの魔物が大量出没するから、冒険者たちがなかなか来てくれなくて、居付かない。


 それがここ、冒険者ギルド、ゼクセリア共和国ココ村支部という場所なのだった。




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