第三章 迷子の奴隷編

第50話 迷子

 俺の名前は森山駿助、魔王軍と戦うために異世界から召喚された勇者だった。

 おまえ弱いからって、勇者をクビにされちまったんだけどな!


 そんで、マ国の第二王女、綾姫様に拾われて、召喚の地からマ国へ向かって旅をしてきたのだが・・・。


 旅の途中、魔王軍の襲撃があって、俺一人逸れてしまったのだ。だけど、幸運に恵まれたこともあり、なんとか自力でマ国の地を踏むことが出来たってところだ。


 んで、今、最寄りの集落を目指して、畑のあぜ道を進んでいるというわけだ。




 駿助が、誰向けなのか、自己紹介を兼ねた近況を簡単に回想し終わった頃、あぜ道のはるか向こうに、人の姿を見つけました。


「おっ、第一村人発見! おおーい!!」


 相手に見えているかどうか分かりませんが、駿助は大きく手を振りました。

 その人は、恐竜系の魔物にまたがって、こちらへと向かってきているようです。


 向こうも駿助に気付いたのでしょう、手を振り返してきたかと思うと、速度を上げて、どんどん近づいてきました。


 魔物に乗った男は、駿助の手前数メートルまで近づくと、手綱をぐっと引いて魔物を止めると、話しかけてきました。


「よう、坊主、こんなところでどうしたんだ?」

「えーっと、道が分かんなくって」


「迷子か?」

「まぁ、そうなるかな」


 駿助は鼻の頭を掻きました。

 男は訝しむというより、駿助のことを心配するような顔つきです。


「村では見かけない顔だな。どっから来たんだ?」

「えーっと、あっち? 護衛と逸れちゃって、この辺りの事は分からないんだ」

「そうか。よし、後ろに乗りな。お巡りのところまで連れてってやる」


 男はニヤリと笑みを浮かべると、手を差し出しました。


「ありがとうございます」


 駿助が手を伸ばすと、男はぐっと駿助を引っ張り上げて、魔物の後ろに乗せてくれました。

 魔物に乗るのは初めてのことで、おっかなびっくり戸惑う駿助の姿を見て、男は愛好を崩して笑いました。


「地竜に乗るのは初めてか?」

「はい」


「振り落とされたくなかったら、しっかり俺の体を掴んでいろよ」

「は、はい!」


 駿助が男の腰のあたりをぎゅっと掴むと、男は地竜を反転させて、来た道を戻るように走らせました。


「うわっ、速い!」

「はっはっは、もう少し飛ばすぞ、しっかり掴まっとけよ」


 地竜は、ものすごい勢いで、あぜ道を走り抜けていくのでした。




 やっぱり地竜か。

 これぞ異世界。

 ファンタジーって感じだな。


 たしか、お巡りのところへって言ってたけど、お巡りって警察のことか?

 まぁ、異世界だし、憲兵とか、衛兵とかそんな感じなのかな。


 それにしてもだ。

 このおっさん、俺の事 完全に子供扱いだったな。

 背は低いし、丸刈り童顔なので仕方がない気もするが・・・。

 まぁ、俺の真っ白な髪の毛を見て、爺さんって言われなかっただけ良しとするか。


 召喚された時に髪の毛も色も変わったのだが、もう少し違う色にして欲しかった。

 真っ白、丸刈りってなんかジジ臭くね?


 ちなみに、この世界の人間は髪の毛の色がカラフルなのだ。

 染めてる訳でもないのに、赤、青、緑と実に多様で華やかだ。




 駿助は地竜の後ろに乗せられて、小さな集落へと入りました。

 通りの両端に平屋の家が点々と建っていて、そのうちの一軒の前で止まりました。

 看板に何か書かれているようですが、駿助には読めません。


「そうら、着いたぞ」

「ありがとうございます」


 男は、地竜から駿助を下ろすと、地竜の手綱を持ったまま声を張り上げます。


「おーい、駐在のー」

「なんじゃ、いったい」


 男の呼び声に、建屋の中から、水色のシャツを着た中年男が出て来ました。

 男がお巡りと言っていたし、制服っぽい服装なので、きっと警察かその類の人なのでしょう。


「迷子を連れてきた」

「迷子じゃと? その白い坊主か?」

「ああ、うちの畑を歩いてたんだが、湖の方から来たみたいだな。連れと逸れちまったらしい」


 男は駿助を紹介し、いきさつをざっくりと説明してくれました。


「そうか、そいじゃ、中で詳しい話を聞こう」

「俺は、畑へ戻るから、あとはよろしくな」


 駿助が頭を下げて礼を述べると、男は笑顔で手を振り、行ってしまいました。


 お巡りさんに連れられて、駿助は建屋の中へと入りました。

 お茶が出てくるわけでもなく、お巡りさんに促されるまま机に対面で座ると、すぐに聴取が始まりました。


「そんで、お前さん、名前は?」

「駿助です」


「歳はいくつじゃ?」

「15です」


「嘘を言うな」

「いや、本当ですって」


「どう見ても10歳くらいじゃろう?」

「いや、15歳ですから」


「まぁ、いい、10歳にしておく」

「えー・・・」


 駿助は、年齢を誤魔化しているわけではないのですが、信じてもらえませんでした。お巡りさんは、調書に何やら書き記しています。


「で、両親は?」

「いないです」


「孤児か」

「まぁ、そうですかね」


「ふむ、ほかに身寄りは?」

「綾姫様です」


「はぁ? どこの綾姫様じゃ?」

「マ国の第二王女様です」


「真面目に答えんか!」


 駿助は嘘は言っていないのですが、お巡りさんには信じてもらえませんでした。

 それどころか、お巡りさんは急に怒り出して、ドンと机を叩く始末です。


「いや、本当に、綾姫様に拾われたんですって」


 駿助がそう言い張ると、お巡りさんは大きく一つ溜息を吐きました。


「お前、馬鹿じゃろ? 嘘を吐くならもっとましな嘘をつけ。我が国の王女様がお前みたいなのを拾ったなどと聞いたことがないぞ。仮に拾われたとして、お前さんは何でこんな田舎の村に居るのじゃ?」


「綾姫様に拾われて、一緒にマ国の首都へ向かう途中だったんですけど、まぁ、いろいろあって、逸れてしまったんです。そこで運よく畑を見つけたので、助けてもらおうと思ってここまで来たんです」


「よくもまぁ、そんな作り話を・・・」

「いや、本当ですってば」


「よし、分かった。お前さんにはしばらく頭を冷やしてもらおう。こっちへ来い」


 駿助は、顔を引き攣らせながらも、素直にお巡りさんの後について行きました。

 連れていかれたのは、建屋の地下にある牢屋でした。


「えっと、ここは?」

「見ての通り牢獄じゃ。ここで少し頭を冷やすんじゃ」


「いや、待ってください。俺、何も悪いことしてないですよ」

「うるさい! 偽証罪じゃ、とっとと入れ!」


 駿助は無理やり牢屋へ入れられてしまいました。

 お巡りさんはしっかり鍵を掛けると、どこかへ行ってしまいました。


「・・・、なんでこうなった!?」


 冷たい地下牢に駿助の悲しい叫び声が空しく響き渡るのでした。

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