第33話 宝物神殿

 - ダンジョン第23層 -


 第7騎士団一行は、ダンジョン23階層へと降り立ちました。

 青空の下、広がる草原の向こう側に、大きな神殿が建っていました。


「姫様、宝物神殿でござる」

「宝物神殿のエリアか。運がいいな」


「綾姫様、お探しのものがあると良いですね」

「さて、どうだろうな」


 綾姫様達が嬉しそうに話しています。


 宝物神殿?

 あの奥に見える建物のことかな。


「ふふふ、駿助達は驚いているようだな。ここは宝物神殿エリアと言ってな、

 ダンジョンの階層を跨ぐときに、運が良ければ現れる特殊な階層なのだ」


 駿助の疑問に答えるように、綾姫様が説明してくれました。


「そして、あれに見える神殿には、アーティファクトと呼ばれる宝物が眠っているのだ。それを手に入れるのがダンジョン探索の楽しみの1つであろうな」


 そう話す綾姫様は、いつになく楽しそうです。


「アーティファクトですか、なんか凄そうですね」

「うむ、それなりに強力なモンスターが神殿を守っているからな」


 あー、宝物を守るボスキャラ的な奴がいるっていうことか。

 なんか、ゲームみたいだな・・・。



「皆の者、気を引き締めていくぞ!」

「「「「おおぉっ!!」」」」


 綾姫様が激を飛ばすと、騎士達はいつもよりも気合の入った声を上げました。


 騎士団は、綾姫様を筆頭に宝物神殿を目指して前進します。

 ほどなく近づくと、神殿から魔物が現れました。


「姫様、オーガでござる」

「ふむ、まぁまぁの相手だな」


 わらわらと現れるオーガの群れに、綾姫様の口角が上がりました。


「オーガか、なんか、でかくね?」

「どんどん数が増えて行くじゃん。大丈夫かなぁ・・・」


 駿助が呑気な感想を述べているのに対して、ガイアは不安げに見つめています。


「綾姫様、いつにも増して数が多いようです」

「うむ、久々にこいつを使うとしようか」


 綾姫様は腰の後ろから、猫の手型のステッキを取り出したかと思うと、そのステッキがポンっと大きな杖となりました。


 杖の先端はネコの手型で肉球がキラリと光っており、柄の部分はトラ縞のネコの尻尾を思わせるデザインです。


「なんか、綾姫様の武器、凄くね?」

「あれって杖じゃん。綾姫様魔法を使うのかな?」

「ふふふ、まぁ、見ているでござる」


 後方でデビッドに守られた駿助とガイアは綾姫様の武器に興味深々のようです。


「しっかし、場の空気というか、殺気?が凄いんですけど」

「なんか緊張感がすごいじゃん」

「ははは、二人とも、まともな戦闘を間近に見るのは初めてでござるな。これが戦場の雰囲気でござる」


 これまでダンジョン内で現れた魔物は、斥候部隊が倒してしまっていたので、駿助達が間近に見る機会はありませんでした。


 スライム系は駿助が倒していましたが、あれは魔物特有の殺気を放たないため、戦っている感じがしないので例外です。


「遠目にみていてこれなのだから、魔物と対峙したら ちびりそーじゃね?」

「駿助、汚いじゃん」

「いや、まだちびってねぇからな」


 駿助とガイアが間抜けな話をしている間に、綾姫様は臨時で第1小隊を解体し、他の小隊に振り分ける指示を出すと、騎士団の戦闘態勢が整ったようです。


 そして後方に配置された第4小隊の騎士のうち2人が呪文の詠唱を始めました。


「ツートップで搔き乱すぞ。第2、第3小隊は抜けてきた兵を潰せ、第4小隊は遠距離攻撃開始! 遠慮せずにブチかませ!」

「「「了解!」」」


 綾姫様の指揮のもと、騎士団が動き出しました。


 まずは、先制の魔法攻撃です。

 2つの大きな火の玉が放たれ、放物線を描いて飛んでいきました。


 火球はオーガの群れに着弾すると、数体のオーガを焼いて葬り去りました。


「ニーナ、突撃するぞ!」

「はい!」


 魔法で混乱するオーガの群れに、綾姫様とニーナが2人で突っ込んでいきました。


 綾姫様が、猫の手状の武器を大きく振り回すと、迫りくるオーガを3体まとめて吹っ飛ばしました。


 綾姫様は、一瞬怯んだオーガ共に詰め寄り、次々と武器で殴りつけて、倒して行きます。倒れたオーガは砂のように崩れ落ち、光の粒となって消えていきました。


「綾姫様、すっげー。何あれ、杖で殴り殺してるの?」

「ふはははは、駿助殿、姫様の武器はメイスでござるぞ」


「メイスか、確か鈍器の一種だったよな。にしても、あのちっちゃい体で自分の倍くらいもあるオーガを吹っ飛ばしてるってどうなの?」

「駿助、駿助、ニーナさんも凄いじゃん。オーガの群れを切り刻んでるじゃん」


 ニーナは、双剣を手に舞い踊るように、次々とオーガ共を切り刻んでいきます。


 綾姫様やニーナの脇をすり抜けたオーガは、第1、第2小隊の面々が、2人1組となって相手をしています。皆奮闘し、堅実にオーガを倒していきます。


「さて、某も参戦するでござるかな」

「「えっ?」」


 二人が振り返って見れば、大きな弓を引いたデビットがオーガを狙っていました。


 デビットが矢を放つと、後方から迫りくるオーガの頭を見事に打ち抜きました。


 見れば、後方に配置された第4小隊の面々も矢と魔法を撃ち放ち、オーガ共を端から仕留めていきます。


 騎士団は、あっという間に、30体はいたであろうオーガの群れを殲滅してしまいました。


「ふむ、前線のオーガ共はほぼ倒したが、奥にまだまだ隠れているな」


 神殿の前面、やや離れた所で合流すると、綾姫様が楽し気に言いました。


「オーガジェネラルあたりがいそうでござるな」

「ああ、恐らくな。だが、慌てずに1体1体倒していけば良い」


「綾姫様、外の方はいかがいたしましょう?」

「うむ、ニーナは第4小隊を引き連れて、神殿右側を偵察、伏兵がいれば殲滅しろ。ただし、無理はするな、上位種がいたり数が多ければ一度撤退しろ」

「はっ!」


「第2小隊は、私と共に神殿左を偵察する。デビットは第3小隊と共に待機、神殿から出てきたオーガ共の対処は任せるが、駿助達もいることだし無理はするな」

「はっ!」


 綾姫様の指揮に従い、各小隊はきびきびと動き出しました。


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