第28話 ダンジョンの景色

 駿助とガイアは、第7騎士団恒例のダンジョン走破訓練に挑んでいました。


 そして体力の限界を感じていた時、身体強化を使うと疲労が軽減されて体力維持ができるのだと教えてもらいました。



「さぁ、休憩は終わりだ、出発するぞ」


 綾姫様の号令に、団員達はすぐに準備を整え隊列を組みます。


「新人2人、準備はいいか? これより第2層へ降りるぞ」

「「はい!」」


「ようし、出発だ!」


 第7騎士団は第2層への階段を下りて行きました。


 第2層は、第1層と同じく幅広い洞窟となっていました。違いと言えば、若干壁の色が濃くなっているくらいです。


 第7騎士団の団員達は、規律正しく駆け足行軍を始めました。


 駿助とガイアは、早速身体強化を試してみます。


 おっ、身体強化を使ったら、さっきよりも少し楽だぞ。

 脚力が上がってるようだし、調子がいいぞ。


 おわっ、とっと、つんのめった。


「お先じゃん」

「うおっ、待てよ、おい」


 身体強化を使って走り始めた駿助とガイアは、早速その効果を確認出来たようです。


 調子に乗ったガイアがスピードを上げて駿助の前へと踊り出ると、駿助もまた負けじと加速しました。


「ほう、お前達、元気がありあまっているようだな」

「「ひっ!?」」


 駿助達は、突然 真後ろから聞こえた鬼教官の声に震えあがりました。


「ならば少しペースを上げるとしようではないか。総員、行軍速度を一段上げろ!」

「「「「はっ!」」」」


 くぅぅ、スピードアップなんて勘弁してくれよぉ・・・。

 おわっと、またつんのめった。


 ってか、左右の脚力のバランスがおかしい?


 うおぁ!?

 足が重い!?


 スピードアップしてから、すぐに駿助の動きがぎこちなくなり、あたふたしています。何度もつんのめっていたり、今は明らかに減速してしまいました。


「隊列を乱すな!!」

 バシン!

「いや、ちょっと足が重くって・・・」


「つべこべ言うな! 走れ走れ!!」

 バシィッ!

「うひぇぇぇー!!」


 綾姫様は駿助の調子など構うことかとばかりに、竹刀を振り回しては激を飛ばします。


 駿助もこれは堪らんと、なんとか踏ん張ってみせます。


 くそっ!

 何がどうなってる?


 って、やけに息が苦しいな。

 身体強化を使って楽になったはずじゃ・・・。


 あ、これ、身体強化解けてるんじゃね?

 どーりで足が重いわけだわ~。


 って、呑気に構えてる場合じゃないぞ。

 身体強化、身体強化ぁ!


 駿助は必死に身体強化を自身に施し、行軍に遅れまいと食らいついて行きます。


 隣を走るガイアも、時折息を乱しては苦悶の表情を見せています。


 どうやら、2人とも まだまだ身体強化が上手くコントロール出来ていないようです。






 - ダンジョン第9階層 -


「うわぁ・・・」

「草原が広がってるじゃん」


 行軍速度が上げられて、苦しみながらもなんとか身体強化を駆使?して食らいつき、ダンジョン第9層に足を踏み入れた駿助とガイアは、その光景に目を奪われてしまいました。


「驚いたか? 今までは洞窟タイプのエリアだったが、この第9階層は一面草原が広がるエリアになっているのだ」


 綾姫様が感動に浸る2人を微笑ましく見守るように一瞥すると、そう説明してくれました。


「まるでダンジョンの外に出たみたいじゃん・・・」

「こういうパターンもアニメでは出てきたけど、実際に見ると壮観だなぁ」


「さぁ、出発するぞ!」


 ダンジョンの新たな光景に、新米2人が感動するのも束の間、再び行軍が再開されました。




 - ダンジョン10階層 -


「総員、止まれ!」


 綾姫様の号令に、第7騎士団は隊列を崩すこと無くピタリと行軍を止めました。


 ですが、新米2人だけは、息を切らしながら へたり込んでしまいました。


「今日の行軍は終わりだ。第3、第4小隊は荷物を下ろして周囲の偵察、ここよりも野営に適した場所があれば報告しろ」

「「「「はっ!」」」」


「第1、第2小隊は周囲を警戒、魔物の襲撃に備えろ。偵察隊の報告を待って野営の準備に掛かるから、そのつもりで行動せよ」

「「「「はっ!」」」」


 綾姫様の指示で、団員達は小隊ごとに分かれて動き出しました。


「さて、お前達2人は、訓練の続きといこうか」

「「ええええー!!」」


 鬼教官の一言に、2人は絶望に顔を染めました。


「とは言っても、走り回るわけではないぞ。剣術の訓練だ」


 剣術の訓練と聞いて、2人は顔を見合わせます。


「お前達、剣術や武術の経験は?」

「勇者召喚機構での訓練が初めてです」

「僕も」


「ふむ、全くの素人ということだな。デビット、剣の扱いを一から教えてやれ」

「了解でござる」


 どうやら、剣術の訓練はデビット副隊長に一任するようです。

 2人は、ほっと安堵の息を吐きました。


 第7騎士団が野営の準備をする中、駿助とガイアはデビットの指導を受けて、真剣な表情で木刀を振るのでした。



 食事の準備が整う頃には、空が薄暗くなってきました。

 第1層の洞窟エリアとは違い、草原エリアには夜が来るようです。


 騎士団の面々は、見張りを交代しながら順番に食事を取ります。

 今日の夕食はパンとシチューです。


 駿助とガイアは、デビットと共に座り込んで食べていました。


 食事が終わった頃、綾姫様がやって来ました。


「二人とも、初日にしてはよく頑張ったな」

「もう、くたくたですよ」

「明日は筋肉痛になりそうじゃん」


 綾姫様が声をかけると、2人は空になった木製の器を手にそれぞれの感想を述べました。


「それで、剣術訓練の方はどうだ?」

「基本の型の1つを繰り返しているでござる」


「デビットさんが丁寧に教えてくれてるんだけど、なかなか要領を掴めなくて」

「へっぴり腰を何度も矯正されてるじゃん」


「基本は大事でござるからな」


 剣術訓練の話に、指導していたデビットも加わり、和気あいあいとした雰囲気となりました。


「まぁ、素振りの千回もやれば、体が覚えるだろう」

「姫様の言う通りでござるな」


「うえっ、千回もですかぁ・・・」

「気が遠くなりそうじゃん」


 素振り千回と聞いて、2人はげんなりしてしまいました。


「よし、食後の運動だ、これから寝るまでに、素振り千回だな」

「ええっ!? 今からですかぁ!?」

「体がもたないじゃん」


 綾姫様の無茶振りに、まさかと2人は驚愕の声を上げました。


「勇者の体は丈夫だと聞くからな。これくらいでは壊れないだろう」

「綾姫さまは鬼ですか!?」

「鬼教官じゃん! 鬼姫じゃん!」


「ふふっ、鬼姫か、誉め言葉だな」

「「褒めてないっす!」」


 どこか楽しそうに口角を上げる綾姫様の特別指導の下、それから寝るまでの間、駿助とガイアは素振りを強いられるのでした。



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