第23話 勇者失格

 広いダンジョン第一層を練り歩き、片っ端からヒュージスライムを倒して回った駿助とマ国第7騎士団。

 さほど疲労の様子もなく、ほくほく顔でダンジョンを出ました。



 ダンジョンを出ると、綾姫様は駿助を連れて勇者召喚機構へと向かいました。

 お供とばかりに、ニーナとデビットも同行します。


「西宮のジジイはいるか!!」


 執務室のドアを豪快に開き、大声を上げる綾姫様。

 部屋の主である勇者召喚機構役員の西宮と、その秘書官が眉を顰めて視線を向けました。


「何事かと思えば、マ国の第二王女様ではないですか。今日は面会の予定はなかったかと思いますが、よもや、アポイントという言葉をご存じないのですかな?」


 勇者召喚機構の古株である西宮は、白髪交じりの顎髭を撫でつつ、嫌味交じりに言葉を返しました。


「喜べ! 先日、ダンジョンで行方不明になったという勇者を見つけてきてやったのだ」

「なんだと!? 出まかせを言うでないぞ」

「ちゃんと、本人を連れてきてやったぞ」


 ほら、というように、綾姫様は駿助の背中をパンパン叩いてアピールします。


「まさか、ヒュージスライムに飲み込まれて生きているなどとは信じられん・・・」


 西宮は額に汗を滲ませて、訝し気に言いました。


「報告が間違ってたんじゃないのか? 当の本人は、ほれ、ピンピンしてるぞ」

「ま、まずは、その者が行方不明の者であるか確認が必要だ。勇者カードは持っておるのか?」


 西宮がそう言うので、駿助は首紐につけた勇者カードを差し出しました。

 秘書が受け取り、西宮と共に確認します。


「むぅ・・・、間違いないようだな」

「約束通り、こいつの身柄は発見した私達が頂くぞ。よいであろうな」



 えっ? 約束?

 何のこと?

 発見した者が頂くって、俺は拾得物か!?



「むぅ、仕方があるまい。しかしその前にテストを受けてもらうぞ。なぁに、ここ数日の訓練で、どれだけ強くなったか確認するだけだ。他の勇者も既にテストを行っておる」

「いいだろう。とっととその試験とやらを終わらせるぞ」



 なんか俺の知らないところで話が勝手に進んでいく。

 テストを受けるのって俺だよね?

 俺の承諾要らないの?



 西宮に連れられて、駿助達は石柱が設置してある訓練場へとやってきました。

 石柱は、勇者召喚されたばかりの時に、勇者スキルを披露したときの物です。



 むぅ、あれは、いつぞやの石柱じゃないか。

 あの時は傷一つ付けられなかったな。

 だが、しかし、あの時の俺とは違うのだよ。



 石柱を見て、駿助もやる気が出て来たようです。

 皆の注目の中、駿助は柱の前で剣を地面に突き刺しました。


「行くぞ! 勇者ボディ、オン」


 一瞬にして、全身白タイツ姿へと変身した駿助は、剣を手に取り構えました。


「頑張れ駿助!」

「任せてください! てやっ!!」


 気合一閃、両手で握りしめた剣を振り下ろします。


 ガキッ!!っと音がして、石柱に当たった剣は跳ね返されてしまいました。


「あれ? なんか、思ってたのと違うんですけど?」

「駿助、真面目にやらんか!」

「いや、えっと、もう一回いいですか?」


 綾姫様には怒られてしまいましたが、もう一回チャンスをもらいました。



 落ち着け、俺。

 ヒュージスライムを倒して得られた魔力操作を生かすんだ。


 両手に魔力を集めて、剣に魔力を流し込むようにすれば・・・。


 うん、そうだ、この感じ。

 よし!



「うおりゃぁぁぁ!!!」


 大きな声を張り上げて、全身全霊を掛けて剣を振り下ろします。


 ガキッ!!


「・・・・・」


 またしても、剣は弾き返されてしまいました。


「ふはははは、石柱に傷一つ付けられぬとは、これでは勇者を名乗る実力はないと判断せざるを得ないな。よって、そのものの勇者資格を剥奪する」

「ほえ?」


 突如、西宮により勇者資格剥奪発言が飛び出すと、駿助は間抜けな声を漏らしました。


 石柱に傷一つ付けられず、剣を弾き返されたのがショックだったのでしょう、理解が追い付いていないようすです。


「おい、ジジイ、いきなり勇者資格の剥奪とはどういうことだ?」

「我々勇者召喚機構は、そやつを勇者認定しないと決定したということだ」


 綾姫様が疑義を唱えましたが、西宮は強気の姿勢で答えました。


「ほう、召喚されし者は神に選ばれし勇者というのが、機構の謳い文句だったのではないのか?」


 綾姫様が挑発するかのような視線で問いかけました。


「ふん、神に選ばれたのではなく、勇者召喚に巻き込まれた異世界人もいるだろうという結論に至ったのだ。考えてもみろ、スキルを使っているにも関わらず、積層強化レンガで作られた石柱に傷一つけられない弱者など、勇者であるはずがなかろうが」


 西宮は、まるで初めから用意されていた言い訳のごとく、すらすらと勇者資格の剥奪理由を並べたてました。


「やれやれ、そんな理由で勇者認定できないと言うのか? それこそが神への冒涜ではないのか?」

「先の勇者召喚機構理事会で全会一致で決まったことだ」


 西宮の断定的な物言いに、綾姫様は軽く舌打ちしました。


「まぁいい、こいつは我々が引き取ると言うことで問題ないのだな」

「ああ、勇者でもない人間など、何処へ行っても構わぬわ。好きにするがいい」


 綾姫様は念押しとばかりに、もう一度駿助の処遇の確認をすると、踵を返して出て行きました。

 同行していたニーナ達も、うなだれる駿助の背中を押して後を追います。




 勇者召喚機構を出るなり、駿助は叫びます。


 「弱小って・・・、なんか思ってたのと違うんですけど!?」




 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 執務室に戻ったところで、秘書官が問いかけます。


「よろしかったので?」

「ふん、問題なかろう」

「ですが、理事会が彼を勇者認定しないことにしたのは、事故とは言え、訓練中に勇者を死なせてしまったという汚点を残さぬ為だったかと」


 正確な情報を提示しつつ、先ほどのやり取りへの懸念を伝えてきた秘書官に対し、西宮は、気にすることもないとばかりに答えます。


「なぁに、歴代最弱の勇者など、すぐに死んでしまうことだろう。それよりも、マ国へ配属する勇者の実力はどうだったかな」

「ええ、最もランクの低い弱小勇者を配属しています」

「ふはははは、弱小国には弱小勇者がお似合いだな」


 西宮は、自慢の髭を撫でつけながら、ほくそ笑みました。





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