第294話 夏休み 2


 シルバーウルフのブランは元フロアボスだけあり、面倒見がいい。

 甲斐家の賑やかな双子たちもすぐ側で見守ってくれている。

 ちなみにノアさんは甲斐三兄弟が我が家に到着するや否や、姿を消した。

 本気で隠れた猫を見つけ出すのは大変だ。


「お腹が空いたら、出てくるわ」


 奏多が苦笑まじりに放置宣言をしたので、彼女の気が済むまで放っておくことになった。

 とはいえ、お腹が空くと可哀想。

 美沙はノアさんのお散歩コースに飲み水とドライフードを置いておくことにした。


「ノアさん、今度こそ触ってみたかったのになー」

「仕方ないよ。ライムさんで我慢しよう」


 ライムさんとは、甲斐家のペットとなったスライムの名前らしい。

 我が家の頼りになるスライム、シアンの分裂体の一匹だ。可愛がられているからか、双子たちによく懐いている。


「夏は冷やしスライム!」

「あ、それは分かるかも……」


 七海ウミの冗談に、美沙は真顔で頷いた。ひんやり触感のスライムの触り心地は抜群なのだ。


「巨大化したスライムをソファクッションにして寛ぎたいもの、私」


 きっと、人をダメにするクッションを越える人気商品になるに違いない。

 

「そういえば、今年もバスハウスに泊まるの?」


 冷たい麦茶を運んできてくれた奏多にお礼を言って、甲斐は頷いた。


「ああ。兄弟四人でバス泊にするよ」

「大丈夫なの? 今年も猛暑の予想だけど」

「あ、それなら心配しないでいいよ、ミサ姉ちゃん」


 陸人リクトが笑顔で片手をひらひらとさせる。


「僕は氷を扱える魔法使いだからね?」

「はっ……まさか?」


 顔色を変えた美沙に、陸人がにやりと笑う。


「エアコン魔法、マスターしました」

「やっぱり! いいなぁ!」


 氷属性の魔法を地道に練習した結果、エアコンと遜色ない冷気を放てるようになったらしい。


「おかげで今年の夏は快適に過ごせているよ。しかも、一日中涼しい部屋で過ごしても電気代はかからない!」


 そこが大事、といった表情で陸人が熱弁する。うん、たしかに大事。

 確実に一万円は節約になっていると思う。


「だから、スポットクーラーを使わなくても、今年は快適にバス泊できそうなんだよな」


 陸人の肩に腕を回して、その頭をくしゃっと乱暴に撫でる甲斐。


「それはたしかに快適そう……」


 ちょっとだけ羨ましい。

 

「なら、ダンジョン泊でも快適に過ごせそうね」

「はっ! そうですね、カナさん。せっかくの夏休み。十一階層でダンジョンキャンプを楽しんでもらいたいもの」

「バスハウスはそのまま甲斐兄弟に貸し出すことにして、私たちの桟橋コテージではブランにエアコン魔法をお願いしましょ」


 奏多に名指しされたブランがビクッと肩を揺らす。

 

「北欧猫のノアさんが快適に過ごせるように、お願いしますね、ブラン」


 晶に微笑みかけられたブランがころんと腹を見せて甘えている。

 中性的な美人さんに撫でられて、すっかりご満悦な様子。


「すっかり野性を忘れていないか、アイツ?」

「オオカミって、へそ天ポーズするんだね……」


 今は我が家の飼い犬のフリをしているため、シベリアンハスキーサイズだが、本体はクマくらいの大きさの巨体。

 

(まぁ、可愛いからいいんだけどねー)


 晶の『お願い』が効いたようで、彼も快くダンジョン内でのエアコン係を受け持ってくれるようだ。


「じゃあ、荷物をバスに片付けてくるね。ほら、行くよ二人とも」

「はーい」

「ユキ兄ちゃんの荷物は?」

「あー俺のはもう先に運び込んでる」


 そういえば、三人とも軽装だ。

 晶が作ったお揃いの鹿革リュックだけを背負っている。

 どうやら一ヶ月分の大荷物は陸人が【収納クローゼット】にしまっているようだ。

 着々と【生活魔法】のレベルを上げた陸人の収納容量はかなり多くなっているようで、頼もしい。


 荷物を片付ければ、二ヶ月ぶりのダンジョンが待っている。

 双子たちは文字通り、弾むような足取りでバスハウスに向かった。


◆◇◆


 前回、十階層まで到達したため、ダンジョン内での転移は可能になっていたのだが。


「久しぶりだから、一階層から再チャレンジしてみたい!」

「練習の成果を見てもらいたいしね」


 双子たちから熱心に頼まれたことで、一階層から順に下層へ潜ることになった。


「ポーション集め、したかったんだー」

「あれ、美味しいもんね」


 ラムネ味のポーションがすっかり気に入ったらしい双子たちは喜々としてスライムを狩っていく。

 

 七海ウミは【闇属性魔法】、大空ソラは【無属性魔法】で戦う魔法使いだが、念の為に武器を渡してある。

 刃物は危ないため、木刀だ。

 小学生の二人でも軽々と振れるため、スライムたちをぽこぽこと叩いて回っている。

 もぐら叩きゲームのようで微笑ましい。

 双子が満足するまでポーションを手に入れると、二階層へ移動した。


 二階層ではアルミラージが出現する。

 中型犬サイズのツノありのウサギのモンスターはさすがに木刀では心許ない。

 ここからは温存していた魔法を使う。


「よし! 【影拘束ダークバインド】っ」

「ウミ、ナイス!」


 闇の触手でアルミラージを拘束すると、大空ソラが尖った石でその身を貫く。

 ギッ、と悲鳴を上げるとアルミラージはドロップアイテムに変化した。


「あ、やった! 肉を落としたみたい」

「からあげ棒のお肉だね。夏祭り用にたくさん確保しておかないと!」

「やっぱ肉だよね。美味しいし」


 うんうんと頷きながら、戦利品を拾う双子たち。

 くすくすと笑いながら、晶が提案する。


「アルミラージの毛皮は人気の素材なんですよ? 一枚百円で買い取ります」

「一枚百円っ⁉︎」

「僕、いっぱい狩る!」

「俺も!」


 ダンジョンで狩りを楽しめて、さらにお小遣いまで稼げるとなって、双子たちは張り切った。

 ちなみに魔石と肉は一ヶ月我が家にお邪魔する際の生活費として受け取ることに。


(その分、リクくんにたくさんお土産を渡してあげないとね)


 双子たちの力量なら、二階層でのお小遣い稼ぎも問題ないだろう。

 ブランに付き添いをお願いしておけば、目を光らせておいてくれるはず。


 三階層より下に挑む際には、誰か大人に必ず相談の上、付き添い必須と約束して、存分にダンジョンを満喫してもらうことにした。



◆◆◆


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