第65話 女商人は、盗賊の労働力をあてにする

 12月下旬。今年ももうすぐ終わろうとする頃に、ジャラール族と部族連合との和平が成立した。


 ジャラール族の宰相マホラジャは、ネポムク族への賠償の支払いを10年に引き延ばす代わりに、その間、防衛以外の軍事活動を行わないことを約束した。その上で、部族連合への加盟と【赤色魔力の水晶】の輸出を含めた交易の開始を打診した。


 これに対して、ネポムク族も含めて異論は出なかったことから、部族連合としてジャラール族の打診を承認。ジャラール族は、8番目の連合加盟団体となった。


 一方、銀鉱山の避難所では、アリアの新都市構想が承認されたが、資材と人手の確保が問題となっていた。


「旧オランジバークの家屋の資材は、入植時、船で運んできたようね。今、その船がないし、山に行って材木を持ってくる人手もいないし、八方ふさがりだわ」


 今朝の会議を思い出して、アリアは頭を抱えていた。


「いっそのこと、テントをそのまま持っていくっていうのじゃだめなの?」


「……そうね。それもありなのかもしれないけど……」


「気が進まないと……」


「ごめんなさい」


 レオナルドの提案は理解できるが……とアリアは下を向いた。すると、その時、走っているような足音が近づいてきた。


「アリアさん!!大変です。盗賊団の代表がこちらに!!」


 扉を開けて、慌てた様子で告げるシーロ。今日もセーラ服を着ていて、一見女の子に見える。


「レオ?これはどういうことかしら?」


 盗賊はあなたが担当じゃないの?と暗に言ったつもりだったが、レオナルドは「さあ?」と答えた。アリアはため息を吐き、心を落ち着かせると、ここに通すように告げるのだった。





 その盗賊は、一見どこにでもいそうなおじさんだった。


「それで、ディーノさんといったかしら。今日はどのような用件で?」


 この部屋には、アリアの他にはレオナルドしかいない。万一、村を焼いていないことを言われた場合を想定しての対応だった。


(もしかして、死んだ団長の仇を取りに来たのかしら?)


 その割には、手下を連れてきている様子はない。そう思っていると、ディーノはおもむろに頭を下げた。


「どうか、我々の降伏をお受けください」


 流石にその答えは予想できず、アリアはレオナルドを見る。「これは、どういうこと?」と小声で囁くが、レオナルドも「知らない」と返すのみ。


「えぇ……と。どういうことかしら?降伏って……あなたたち、まだ2万近くいるのよね?」


「はい。ただ、その数が問題なのです」


「ひょっとして、食料が足りないとか?」


「それもありますが、団長がいなくなった今、ポトスの討伐軍がやって来るのは時間の問題。我々は、ポトスに遺恨がありますので、どこかに降参するのであれば、あなた方の方がマシだという結論に至りました」


 とても素直な回答に、アリアは驚くも違和感は感じなかった。


「それで、あなた方の降伏を受け入れて、わたしたちにどんな得が?」


「単純に、労働力を手にすることができます。2万近くの人手があれば、あなたの望む未来を実現するときに力になるでしょう。いかがですかな?あっ、もちろん、無法な行いは今後行わないことを約束します」


 無法な行いをやらないと約束できるのであれば、正直言って、悪い話ではないとアリアは思った。人手のことで悩んでいたこともあり、正に渡りに船ともいえた。念のため、レオナルドを見るが、彼も頷いた。反対する様子はない。ゆえに、アリアは決心した。


「わかりました。あなた方を受け入れることとします。但し、ひとつだけお願いしたいことがあるんだけど、いいかしら?」


「何なりとお申し付けください」


「オランジバークの村を焼いたのは、あなたたち盗賊団の仕業ということにしてるの。だから、その点だけ口裏を合わせてくれないかしら」


 ディーノは、一瞬何を言われたのか理解できなかった。……が、一拍置いた後、恭しく頭を下げて、「かしこまりました」と返したのだった。

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