第17話:悪食スキル

王歴327年2月6日:南大魔境のキャト族狩場・クリスティアン視点


「本当にありがとう、クリスティアン、心から感謝させてもらうわ!」


 これで今朝から何度目のお礼だろうか?

 魔力器官の蓄魔量が3倍になった事がよほどうれしいらしい。

 子供のように満面の笑みを浮かべて何度もお礼を言ってくれる。


「俺は助言をしただけで、実際に成しとげたのはグレタの努力だ」


「いいえ、こんな方法があると教えてもらえなければ、絶対にできなかった。

 それに、こんな途方もない技は、家族の秘伝にすべきモノよ。

 それを教えてくれたクリスティアンに心から感謝するのは当然の事よ」


 だったら感謝だけでなく利益ももらおう。

 今日はリンクス族とサーバル族を合わせて50人以上いる。

 これらのキャット族を前にキッチリと約束しておいてもらう。


「感謝してくれているのなら、俺を見捨てないでくれ」


「分かっているわ、安心してクリスティアン。

 すべてのキャット族を敵に回す事になっても、貴男を護るわ」


「おい、おい、おい、そんなに親しくされたら、さすがに焼餅を焼くぜ」


 こんなに手放しで誉めていれば、グレタの夫が焼餅を焼くのは当然だろうな。

 若い頃は自警団の団長も務めていたと聞いている。

 リンクス族を味方にするのなら、敵に回したくはない相手だな。


「孤高の生活をするリンクス族の男女が、信じられないほど長く夫婦として一緒に暮らしているのに、割って入るような命知らずではありませんよ。

 それに、そもそも感謝と愛情は別物でしょう」


「そうよ、あなた、なにをつまらない焼餅を焼いているのよ。

 私が心から愛しているのは貴男だけよ、フラヴィオ」


「貴女の事を心から愛しているからこそ、些細な事が心配につながってしまうのだ。

 だからこれ以上俺に心配させないでくれ、グレタ」


 アバズレの婚約者に婚約破棄された事や、愚かで下劣な弟に殺されかけた事はどうでもいいが、父親に追放されたのだけは少々こたえているのだ。

 そんな手放しの愛情を見せつけられると、心の傷が疼くじゃないか!


「もうこれ以上愛情いっぱいに姿を見せつけるのは止めてくれ。

 それよりも製薬スキルを安心して使える場所はまだなのか?」


「もう少し先に行った場所に、倒木の多い開けた場所があるの。

 そこなら日差しが入っているから、雑草も多いわ。

 倒木や雑草はもちろん、大量の土を食べても周りの木々に影響がないと思うの」


「そうか、だったら深く深く土を喰らってもいいのだな」


「深く土を食べてくれて、上手く水が溜まってくれれば、この方角には少ない水場になってくれるかもしれないから、大歓迎よ」


 さすが、長年生き残っているだけの事はある。

 単に感謝するだけでなく、上手く利用しようとしてくる。

 まあ、だが、お互いが上手く利用できる関係なら裏切られる心配はないな。


「ここよ、この広場なら好きなだけ喰らってくれて構わないわ」

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