第15話ギャンブラー


「なんか最近眠れなくて。色々不安過ぎて

絶対に夜中に目が覚めるんです」


年が明けていよいよ受験が近づいてきた。


このセンシティブな性格は、細かい所まで

気が利く彼の美徳の一つだと思っていたけれど、こういう逆境には滅法弱いようだ。


加えて、彼が2ヶ月前に財布を落とした時に、

たくさんカードを使ったという支払いが

今月きていると言った。

勉強の為に最低限の仕事しか入れてないので

収入も減っているという。


「こんな事を好きな女性に頼むのは、

本当に心苦しいのですが、お金を貸していただけないでしょうか」


それが始まりだった。

医学部の試験費用も一校につき5〜6万円はする。彼は目指していた3校を立て続けに落ちた。

後期の試験は地方も含めて4校申し込んだ。

もちろん地方遠征の費用だってかかる。


「貯金はすべて仮想通貨にしてあるので、

受かったら換金して直ぐにお返しします」


ギャンブルに注ぎ込む人が引き返せなくなるのは、こういう心境なのだろうか。

私は、いずれ独立して引越しをする時の為に、

貯めていたお金を殆ど彼に渡してしまった。


お金は魔物だ。

均等だったパワーバランスは崩れ、

私は些細な事でリクに苛立つようになった。

大切な人を助けたい筈だったのに。


何かが音を立てて崩れ始めていた。


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