第7話波乱の予感


小春日和に1日休みがとれたので、

嵐山に行くことになった。


「天龍寺?」


と私が聞くと、彼は笑って答えた。


「それは素人が行く所です。本当の嵐山はもっと奥にあります」


嵐山駅からバスで20分ほど進むと、

全く観光地とは無縁そうな少し荒んだ印象のある山の麓に着いた。

空気が湿っていて土の匂いがして、とても静かだ。道は一応舗装されているが、

バスが一台ギリギリ通れる広さで少し薄暗い。


二人で道なりに歩いて行くと、

同じような木が真っ直ぐと同じ方向に

無数に生えている中で、

所々左右に跳ね返ったように生えている木が

見えた。


「あの場を乱してる子、リクみたいだね」


と私が冗談ぽく尋ねると、


「出る杭は打たれるですね。きっと速やかに

刈り取られますよ」


と、彼は皮肉っぽく笑った。


その瞬間、

これは決して他人事ではないと感じた。

刈り取られるのは倫理に背いた私達だ。

ふいに、道ですれ違う学生達に、

娘の姿が重なった。

普段は考えないようにしていたのに。

本当の私を知ったら、

娘は受け入れてくれるだろうか。


本日の目的地である空也の滝は、

深い緑の中に想像以上に細く長く

永遠に続いている糸のようだった。

いくら水を注いでも、

決して満たされる事のない池。

何故か『死』を連想した。


隣り合う私達は、

お互い何処に向かっているのだろう。

無性に彼を遠く感じた。

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