第20話 因縁
—1—
頂上を取ったことで地形的に有利に立ったと思われたが、武の射撃能力はちっともそれに影響されなかった。
「きらら!」
武の放った弾がきららの腕をかすった。
「大丈夫だよ」
「洋一、このままだと銃が増えたっつっても弾切れになるぞ!」
「そうだな。俺と祥平で武を殺るか?」
「いや、男2人が抜けるのはまずい。敵にはショーンもいるんだ。洋一は、ショーンをなんとかしろ。それまで武は俺に任せろ!」
「わかった! 頼んだぞ祥平!」
祥平が木から姿を出し、山を下って行った。
「おい、武! こっちだ。お前の相手は俺がやってやる!」
「祥平!」
祥平が武を引き連れて山を下りていった。
祥平が武を連れて行ってくれたおかげで頂上での攻防は単調なものに変わりつつあった。
人数的にはこっちの方が1人多いし、武レベルでないとやはり正確な射撃はできない。上に立つ俺たちが有利だ。
かといって長引かせる訳にもいかない。弾にも限りがある。無限ではないのだ。
「みんな、俺はショーンと戦ってくる。ここを任せてもいいか?」
「いいよ。早く行きなさい。葵は私に任せて」
「あぁ、葵は乃愛に任せるよ」
「洋一くん、気を付けてね」
志保に心配そうな眼差しを送られた。
「大丈夫だ。みんなで生き残ろう」
そう言って俺も飛び出してショーンの下に突っ込んだ。
「ショーン!」
ショーンに向けて銃を撃つが、ショーンは走ってそれをかわす。
ショーンは、かなり足が速い。親が元陸上の短距離走の選手だったらしい。クラスの自己紹介のときに自慢気に話していた。
「洋一、シネ!」
ショーンが撃った弾をギリギリのところでかわす。
というかお互い走っているせいで思うように狙いが定まらない。
こうなったら近づくしかない。
「くそー!」
「ハーアー!」
ショーンに近づき接近戦に持ち込んだ。殴り合いになった。これだけ近いと銃は、使えない。殴る蹴るの単純な喧嘩になった。
いや、そこには命が懸かっている。
「フゥ、フゥ」
「はぁ、はぁ」
何回殴り合っただろうか。体のありとあらゆるところが痛い。
それは向かい合っているショーンも同じだろう。
「オ、オレは、死にたくナイ」
「あぁ、ショーン。それは俺も同じだ」
「モウ、わからない。日本に来たくてきたわけじゃナイノニ」
「はぁ、はぁ。そうだったのかショーン。でもな、俺らもこんな狂った国のルールのせいで争わなくちゃいけなくなってる。この国は少し前までこんなんじゃなかったんだ」
「クニに帰りたい! 洋一、そこをドケ!」
「どかねぇーよ。俺は仲間と生き残る。そして、こんなことを平気でしてる奴をぶん殴る。それまでは死ねねぇー」
「アアァァーーーーー」
大きく振りかぶった拳をかわしてショーンの鳩尾を思いっきり殴った。
ショーンがうずくまって痛みで転がる。
俺は転がっているショーンに銃口を向けた。
こいつも戦いたくはないはずだ。親の都合で海外から引っ越してきただけなんだ。
初めて会った時は外国人ってだけで少し敬遠していたけど、話してみたらいい奴で一生懸命日本に溶け込もうとしていた。
そんな奴を俺は。
「うおぉぉーーーーー!!!」
【ショーン・フラント・フェイス、脱落。Dチーム残り4人】
ごめん。ショーン。
祥平のところに行かないと。祥平だけで武には勝てない。
俺は祥平が走って行った方角に向かった。
—2—
その頃、裏山頂上では女子同士の戦いが繰り広げられていた。
葵と乃愛が戦い、志保とアリスは海沙と戦っていた。
葵と海沙に攻め込まれて頂上を放棄したのだ。
それぞれ散り散りなり、戦っていた。
きららは、誰もいない場所に1人で走って行ってはぐれてしまった。
葵と乃愛は頂上付近に残っていた。
「乃愛、あんたよくもぬけぬけと裏切ったわね。裏でこそこそ何か企んでたのは知ってたわよ」
「葵こそ高校入ってからよく表情1つ変えないで私の前に出て来れたね」
「あれっ? なんのことだっけ?」
葵が大袈裟にジェスチャーをする。
「とぼけてんじゃねぇー」
乃愛が葵に殴り掛かる。
葵は乃愛の腕を掴み、いとも簡単に投げ飛ばした。
「私、護身術ってゆうの学んでてさ。相当な腕がある人じゃないと私に傷1つ付けることも無理だと思うけどどうする?」
「そんなの関係ない。葵! あんただけは許さない!」
「どうしたの乃愛、そんな怖い顔しちゃって。いつものあなたらしくないじゃない。それとも何? まだ中学のこと根に持ってるの?」
「やっぱり覚えてんじゃん。クソ野郎ー!」
乃愛が銃を葵の顔に向けて撃った。
弾は葵の髪の毛をかすめて飛んで行った。髪の毛が数本、宙に飛ぶ。
「この!」
葵が乃愛との距離を詰めて先程同様腕を掴んだ。
そして、普通では曲がらない方向に力ずくで曲げた。すると、ポキっと小枝を踏んだような音がした。
乃愛の手に握られていた拳銃を葵は奪った。
「キャーーーーーー」
乃愛が右腕を抑えてしゃがみ込む。
「懐かしいわね。そう言えばあなたの彼氏を私が取っちゃったんだっけ。でもまぁ1回やったら捨てちゃったけどね」
葵が甲高い声で笑う。
「それで友達だと思ってた人に裏切られてなんて可哀想な乃愛」
「くっ、葵」
葵が乃愛の髪を引っ張って無理矢理目を合わせた。
「弱者が輝こうとするからこうなるんだよ。弱者は弱者なりに底辺にへばりついとけばいいんだよ」
葵が乃愛の顔に唾を吐いた。
乃愛が葵を睨む。
「あー、楽しかった。じゃあね、乃愛」
葵が乃愛から奪った銃を乃愛に向けた。
裏山に銃声が鳴り響く。
「くそっ、乃愛。もう1つ持ってたのか」
倒れたのは葵だった。
乃愛は洋一にもらった拳銃をポケットに忍び込ませておいたのだ。
「弱者が。せめて道連れにしてやる……」
葵が引き金を引いた。弾は、乃愛の右足に命中した。
「キャーーーー」
「ふふふっ、乃愛。あっちで待ってるからね」
【相澤葵、脱落。Dチーム残り3人】
弾が命中した右足から血が流れ出ていた。
「ダメだ。もう動けないや」
仰向けになった乃愛の表情はどこかスッキリとしていた。
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