第11話 正体

—1—


 誰がどこから出てくるかもわからないところを歩くのは神経を使う。少しの音も聞き逃すまいと耳を立てて歩く。


 校舎を横切り、グラウンドに出て部室を見る。部室付近に人の姿はなかった。

 とりあえず待ち伏せされて襲撃されることはなさそうだ。


 サッカー部の部室の前に行きドアノブを回してゆっくりと扉を開く。


「早く入れ!」


「!?」


 腕を掴まれて部室の中に引っ張られた。


「祥平!?」


 部屋の中には祥平と空雅がいた。


「何をそんなに驚いているんだ。俺が情報を流したんだからいるに決まってるだろ」


「空雅だけかと思ってたからビックリしたよ」


「ごめん、言うの忘れてた。それに、言ったら洋一は来なかっただろ」


 空雅の言う通りだ。

 俺は祥平が苦手だ。体育館で言い合いをしたばかりだ。


「奴を倒すのには3人でも勝てるかわからない。だが確率は上がる」


 俺たちのスマホが振動した。


【本郷加奈子、ゲーム続行不可能の為、脱落。Cチーム残り6人】


「くそっ!」


「加奈子が死んだ。んっ?」


「加奈子は公彦との件の後、精神的に不安定になっていたんだ。出来る範囲のことはしたがダメだったか」


 こいつはこいつなりに自分のチームメンバーのことを考えていたのか。

 祥平は悔しがっていた。恐らく加奈子は自殺をしたとのことだ。

 俺はさっきのメールで気づいたことがある。


「洋一、その顔は気づいたか?」


 空雅が聞いてきた。


「あぁ、俺にも殺人犯が誰かわかったよ」


「そうか。なら話が早いな。奴は厄介だ。人間の皮を被った悪魔だからな」


「祥平は、いつからわかってたんだ?」


「違和感を最初に感じたのは綾が死んだときだ。でもその頃はまだ確信はなかった。あのとき、たまたま近くにいた俺が女子トイレに向かったら、もうそいつはいなかった。だが、殺した際に返り血を浴びているはずだと思った俺は、1人でクラス全員の監視を始めた。犯人は血を浴びた服を処分しないといけないからな。そして、クラスの誰かが脱落したことを知らせるメールが届いた時、俺が監視をしていた人をどんどん監視対象から除外していった。そうして最後に残ったのが……」


「半田先生ってことか」


「そうなんだ。祥平の予想が正しければ、先生の残弾は2発。綾に1発、鈴に1発、結衣に1発使ってる計算だ。洋一、協力してくれるか?」


 2人の目が真剣そのものだった。既に覚悟は決めているようだ。


「わかった。だけど俺の銃は弾が1発しか残ってないぞ」


「問題ない。人数が増えることに意味がある。増えすぎても被害が出るリスクは上がるから、3人くらいがベストだろう。俺は4発、空雅は5発ある」


 半田先生が殺人鬼だったなんて。

 あの優しかった半田先生が。

 祥平の言葉通り、まさに人間の皮を被った悪魔だ。


 俺がなぜ殺人犯が半田先生だとわかったかとゆうと、メールにはCチーム残り6人と書いてあった。脱落した加奈子は、Cチームだ。


 Cチームは、加奈子を入れて6人なので、残り6人という文章はおかしい。それならCチームの7人目は誰なのか?


 そう考えた時、1年4組に関わりがあって、今も学校にいる人が殺人犯だ。それは半田先生以外いなかった。


「奴は俺たちを警戒している。人数が多いと怪しまれるからこの3人で行くぞ」


「先生は、職員室にいるはずだ。洋一、準備はいいか?」


「あぁ、いつでも大丈夫だよ」


「よしっ、行くぞ」


 サッカー部の部室を出て、誰にも見つからないように校舎に入った。足音を立てないように慎重に歩く。


 職員室は教室とは別の場所にある。

 教室があるフロアと職員室や保健室があるフロアを廊下で繋いでいるのだ。廊下を渡った先に職員室がある。


 一言も言葉を発さずに無事誰とも会わずに職員室に辿り着いた。

 ドアの前で止まり、銃の上部分をスライドさせる。


 空雅が左手でカウントダウンを始めた。

 5、4、3。どんどん指を折っていく。

 緊張感が半端じゃない。手汗が噴き出してくる。2、1。


「半田!」


 祥平が勢いよくドアを開いた。

 職員室内に銃を向ける。


「いない?」


 職員室に半田先生の姿はなかった。


「部室に行く前は職員室にいたんだ。別の場所に移動したのか?」


 空雅が職員室から出て廊下を見渡す。

 しかし、廊下にも半田先生はいなかったようだ。

 俺と祥平は入り口で立ち止まり、職員室内に銃を向け警戒を続ける。


「ダメだな。ここにはいないみたいだ。探しに行くか」


「ちょっと待ってくれ」


 空雅が半田先生の席に座った。机の引き出しを開けて何かないか調べ出した。

 その時だった。

 一番奥にある机から手が伸びた。手には銃が握られていた。体は机に隠れていてこちらからは確認できない。


「空雅!」


 パンッ。

 座っていた空雅に弾が命中した。左胸から血がドクドクと流れている。


「うわぁああーー!!」


 俺は撃ってきた奴が隠れている机に最後の弾丸を放った。

 伸びていた手が一瞬机の中に消え、すぐにまた出てきた。俺に銃口が向けられた。


「バカ、隠れろ!」


 祥平に頭を思いっきり押され、机の影に隠れる形になった。敵からこっちは見えないはずだ。


「あんた半田だろ」


 祥平が見えない相手に話しかけた。


「ふふふっ、その声は、祥平君ですね」


「先生」


「洋一くんは、まだ私のことを先生って呼んでくれるんですか。嬉しいですね」


 いつもよりやや高い声で半田先生はそう言った。


「あんたが綾と鈴、それに結衣を殺したんだろ」


「そこまでわかってるんですか。これは驚きました」


「半田、その嘘くさい話し方やめろよ。いつまでも猫被ってんじゃねー」


 祥平がそう言った後、一呼吸間があった。

 机の中から半田先生の笑い声が漏れてきた。


「本当に最近の餓鬼は、先生に対する言葉遣いもまともにできねぇーのかよ! あぁ!!」


 机の影から半田先生が姿を現した。

 先生の目は吊り上がっていて、口の端からよだれが垂れていた。


「ありゃ頭いってんな」


 先生の荒い息遣いが聞こえる。


「どいつもこいつも馬鹿にしやがって!」


 先生が机の上の物を片っ端から投げつけてきた。

 俺と祥平は机にピタリとへばりついて攻撃を回避する。

 俺は転がってきたハサミを半田先生に投げつけた。


「ぐあっ」


「ナイスアシストだ」


 祥平が立ち上がり、発砲した。素早く銃をスライドさせもう1度発砲した。

 2発とも半田先生を捉え、先生は倒れた。


 祥平は倒れた先生に近づいていった。

 もがいている先生を見下ろし、もう1度至近距離で撃ち抜いた。先生は、それっきり動かなくなった。


【半田健介、脱落。Cチーム残り5人】


「ゴホッゴホッ」


 半田に撃たれた空雅が床に倒れて咳をしていた。


「空雅」


 空雅は血を吐いていた。顔が青白くなっている。


「ようい……ち、これを」


 空雅は、拳銃を俺に渡した。


「それで俺を撃て」


「何言ってんだよ! すぐに保健室に行って止血すればなんとかなるだろ」


「無理だ。自分のことは自分が1番わかる。ゴホッゴホッ」


 また血を吐いた。目も充血している。


「早くしろ。このままだと俺は半田に殺されたことになるだろ。お前が撃てばBチームが助かる。早く!」


「できないよ」


 空雅に渡された拳銃を見る。銃には空雅の血が付いていた。


「友達なら早く撃って楽にしてやれ」


 祥平が俺の後ろに立って撃つように促す。


「くっ、空雅」


「今まで楽しかったぜ、ようい、ち」


 パンッ。


【天童空雅、脱落。Aチーム残り7人。Bチーム、特別ルール達成】

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