第6話 銃撃戦
—1—
朝になりマットを片付けてご飯を食べることにした。
今日は、お好み焼きだった。
1人あたりの量は少なかったがそれは仕方のないことだ。
いくら量を少なくしているとはいっても20人以上で食材を均等に分けていれば無くなるのは早い。
祥平が見つけてきた野菜の段ボールの1つがもう無くなろうとしていた。
このペースだとあと3日ぐらいで底をつくだろう。
「洋一」
「なんだ?」
向かいで食べていた公彦が、お好み焼きを箸で切りながら話しかけてきた。
「昨日から葵、何も食べてないっぽいんだよな」
「そうなのか。よく見てるな」
「まあな。体大丈夫かな? 食べないと倒れるだろ」
「食べるように言ってきたら?」
「でもなー。昨日のこともあるしなー」
「そうだけど心配なんだろ。優しく言えば大丈夫だって」
「じゃあちょっと行ってくるわ」
公彦が立ち上がり、お好み焼きが乗っている皿を持って葵のところに向かった。
俺はお好み焼きを食べながら公彦を見守る。
公彦は葵の前にしゃがんで話しかけた。
すぐにお好み焼きを差し出したが葵は首を振って断った。それでも公彦は諦めずに何やら長々と口を動かしている。
そして、葵は渋々皿を受け取った。
お皿を渡した公彦が、満面の笑みで帰ってきた。
「どうだった?」
「最初は食べたくないって言われたんだけど、色々心配してるってことを伝えたらありがとうって言って受け取ってくれた」
公彦が嬉しそうに笑う。
「良かったな」
「おうよ」
小さいお好み焼きを味わうように、時間をかけて食べ終わり皿を片付けた。
それからは昨日と同じように時間を潰した。
体育館でバレーボールをしたり、また裏山に行ってみたりとゆっくりと時間が過ぎていった。
特にみんなに目立った動きもなく、長すぎる休み時間を各々過ごしているようだった。
夜になり朝がくる、そしてまた夜がきて朝になる。
これを繰り返し、選別ゲームが始まってから5日目の朝がきた。
誰かが話をしている声で俺は起きた。
眠い目を擦りながら声が聞こえる方に体を向ける。
体育館の入り口で公彦が電話をしていた。
公彦の声で起きたのは俺だけで他に起きている人はいなかった。
公彦の声は小さかったが、電話の相手に対してかなり怒っているようだ。
「誰かこっちに向かわせろ! 金ならいくらでも出す! 早くしろ」
頭を掻きむしっている様子から我慢の限界であることが見て取れる。
「わかってる。いいから早くしろ!」
電話を切って振り返った公彦と目が合った。
「洋一、悪いな起こしちまったか?」
「いや、何かあったのか」
「大したことじゃないんだ。気にしないでくれ」
公彦が顔の前で手を左右に振る。
「ならいいんだけど。あんな公彦みたことなかったから少しビックリしたよ」
「ハッハッハッ。本当に大丈夫だから」
公彦は、大したことはないと言うだけで、何があったのかは話さなかった。
あの口調は明らかに何かあったときの口調だったのだが、本人が話したくないなら深く追及はしないでおこう。
みんなを起こしてご飯の準備をする。
選別ゲームが始まって5日目、食料はほぼ残っていなかった。
教室で見つけた野菜と小麦粉はとっくに底をつき、俺たちは裏山で食べられそうな山菜を採り、油で揚げて天ぷらにして食べていた。
贅沢は言ってられないが、天ぷら生活にももう飽きていた。
みんな少しばかり瘦せたように感じる。
白米や肉を一切口にしていないため、つい最近まで食べていたその味が恋しい。
お風呂に入って汗を流したい。やりたいことは沢山ある。
みんな今まで表には出さないようにしていたが、疲れと共に段々とその声が漏れ始めていた。
「この生活はいつまで続くんだ?」「これ以上は無理だ」と。
—2—
俺たちは教室で集まって駄弁っていた。
海斗と真緒のリア充トークを聞き、志保とありすと芽以のテンションが上がっていた。
盛り上がり過ぎて話し疲れ、いったんみんな黙った。
「お腹空いたなー」
「今食べたばっかりだろありす」
そう言った俺のお腹が鳴った。
「洋一くんだってお腹鳴ってるじゃん」
志保がお腹を抱えて笑う。
「でも、本当にお腹空いたよな。最後にお腹いっぱい食べたのはいつだったかな」
蓮が天井を見て、選別ゲームが始まる前を思い出しているようだ。
「先生に頼んでも無理だったもんね」
「天ぷら地獄かー」
芽以が言った先生に頼んだというのは、3日目に空雅が思いついたことだった。
半田先生は、選別ゲームに参加していない訳だから先生に頼んで食料の買い出しをして貰おうとしたのだ。
しかし、半田先生は「そうしたいのは山々なのですが、林さんに禁止されていまして、私は残念のことにみなさんのことを見守ることしかできないのですよ」と言っていた。
そんなことがあって今の野草、山菜天ぷら地獄になっているのだ。
まぁ、食べるものがあるだけありがたいことなのだが。
お昼過ぎ、何の前触れもなくその時はきた。
突然複数の銃声が外で鳴り響いたのだ。
「おい、やべーぞあれ!」
教室にいた何人かが、窓から外を見ていた。
俺たちも窓から外の様子を見る。
校門のところでスーツ姿の男が撃ち合いをしていた。
黒色の長い車を盾にして車の向こうから的確に射撃する謎の集団。目で確認できるのは、ざっと20人くらい。
対して校舎側から撃っている政府関係者の人数は10人くらい。
しかし、政府の人間がどんどん校舎から出てきて人数が増えていく。
「なんだ? 何が起きてるんだ?」
政府と戦っているということは国に敵対する組織か?
助けに来てくれたのか?
「黒崎! ここだ!」
公彦が窓を開けて校門に向かって叫んでいた。
黒崎? 誰だそれは?
もう頭の中がパニックだ。
「誰に向かって叫んでるんだよ?」
「俺の家の執事の黒崎にだ。あの車の向こうにいるのはうちで雇ってる武装集団だ。執事の黒崎が統率をとっている。今出てきたのが黒崎だよ」
車の影から若い男が姿を見せた。その男が執事の黒崎らしい。
それにしても家で雇っている武装集団とは一体。
いくらお金持ちとはいえ、公彦の家は普通のお金持ちとは次元が違うようだ。
攻防は5分以上続いている。
「なんでその武装集団が学校に攻めに来てるんだよ」
「このまま選別ゲームを続けててもどうせみんな死ぬだろ。だから助けに来るように電話したんだ」
車が勢いよく爆発して燃え上がる。
爆発の直後、黒崎を先頭に武装集団が校舎目掛けて一気に走り出した。政府と威嚇し合い、何人かが撃たれて倒れる。それでも勢いは落ちない。
しかし、あと少しで校舎に入れるというところで黒崎が足を止めた。
ボールのような物が飛んできたかと思ったらそのボールが勢いよく爆発した。
黒崎たち武装集団が爆発に巻き込まれた。爆発の爆風が教室まで伝わってくる。
爆弾が飛んできた方から1人の男が歩いてきた。
そして、倒れてもがいている武装集団に片っ端から銃弾を浴びせる。
「黒崎ーーーー!!」
間もなくして武装集団は誰も動かなくなった。
「林だ」
武装集団が動かなくなったことを確認した男が、校舎に入るとき一瞬顔が見えた。
スーツ姿のその男は林だった。
外の様子に気を取られていると4日ぶりにスマホが鳴った。
みんなのスマホもほぼ同時に鳴っていた。
【佐藤鈴、脱落。Aチーム残り10人】
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